コーディネーション運動は生徒の注意力を向上させる!!
子どもの注意力がないことに悩んでいる先生や親は少なくないと思います.特に,学校のクラス中に注意力が散漫な生徒や,家で自主学習に集中できない子どもは少なくないと思います.
多くの運動関連の研究において,運動,特にランニングなどの有酸素運動は子どもの学力向上や認知機能の向上に効果的であることが証明されています.このような,運動の効果は,習慣的な運動のみならず,10分間の短い運動後においても見られることがわかっています.
運動にも様々な様式がありますが,多くの研究が有酸素運動が認知機能に効果的だと報告しています.さらに,子どもの学力も有酸素運動力と強い関係があることがわかっています.このことから,運動がいかに子どもの脳の発達や学力向上に重要かがわかると思います.
一方で,いくつかの研究が,コーディネーション能力の重要性を謳っています.例えば,複数の異なるスポーツに参加している子どもは,普通の運動を行なっている生徒よりも学業成績が良いことや,6週間のコーデネーショントレーニング後に生徒の読解力が向上したことなどを報告しています.コーディネーション運動は小脳を活性することが知られています.小脳はコーディネーションなどの運動機能の他にも注意などの機能をも担っている脳部位と知られています.つまり,注意機能を担っている小脳を活性させるコーディネーション運動は,単純な有酸素運動よりも注意機能向上に効果的な運動処方になるのではないでしょうか??
こちらは10分間のコーデネーショントレーニングが生徒の注意機能向上にどういった影響があるかを検討した研究です.
H. Budde et al. / Neuroscience Letters 441 (2008) 219–223 https://www.researchgate.net/profile/Henning_Budde/publication/5249968_Acute_coordinative_exercise_improves_attentional_performance_in_adolescents/links/59ea1c76aca272cddddb7504/Acute-coordinative-exercise-improves-attentional-performance-in-adolescents.pdf
13-16歳の生徒をCE(コーデネーショントレーニング群)とNSL(コントロール群; コーディネーション要素のない同強度の運動)に分けトレーニング前後で注意力テストを実施.
CE; Munich Fitness Testにあるボールを使った5種類の異なる運動
NSL; コーディネーションを必要としない中強度の運動(HR(心拍数)をCEと同程度に調整)
注意力テスト; dとpが並んでいる文字列から,dのみをマークする課題(GZ ; 回答数, SKL ; 正解数-誤答数)
*GZ = パフォーマンス速度
結果
(a)GZ (b)SKL
両群ともに運動介入後に注意力テストの成績(GZ,SKL両方)が向上したが,CE群の方が有意に大きな向上を示している.*心拍数(運動強度)は群間差なし
つまり,多くの研究において,運動の認知機能への効果は,運動強度によって異なることが報告されているが,この研究からわかるように,運動様式の変化によっても認知機能への影響は異なることがわかる.重要なことに,コーディネーションを必要としない運動においても認知機能(注意力)に対して有益な効果が認められるが,コーデネーショントレーニングはより大きな恩恵を与えることがわかる.
コーデネーショントレーニングが注意力向上に効果的な理由として,脳の活動があげられています.より多くのコーデネーションを必要とする運動は前頭前野などの脳部位の活動がより多く求められることがわかっています.単純な有酸素運動では,運動が自動化しているため,コーディネーション運動ほどに脳を使う必要がない可能性が考えられます.(自動化した運動においても脳は活発に働いているので,結果からもわかるように認知機能向上に効果的である)
注意力の欠如は学業成績の低下などを引き起こすので,今回の結果は,学力向上にも効果的な可能性が十分に考えられます.さらに,たった10分間の運動特にコーディネーション運動は生徒の注意力を向上させるとてもいい方法でしょう.特に,日本では,子どもの運動不足は年々深刻化しています.特に,近年ではお受験ブームがあったからなどを理由に,運動の大切さを忘れ,勉強ばかりさせている親もいると思います.運動は,身体を鍛えるだけではなく脳の鍛錬にもなります.むしろ,子どもの場合,脳の発達への影響の方が多いくらいです.ある研究では,勉強時間を減らし,その減らしたぶんの運動に当てても学業成績は低下しないことが証明されています(身体能力が向上した分お得).最近はフィットネスブームで若齢者層の運動参加は増えてきたように思いますが,子どものスポーツ参加や運動参加はまだまだ低いように思います.さらに,参加していても小さい時から1種目に限定して行なっている場合が多いともいます.その道のプロを目指す場合それでもいいかもしれませんが,多くの子どもの場合がプロになるためにスポーツしている訳ではないと思います.先ほどの研究からもわかるように,1種目ではなく様々な運動・スポーツに参加することのメリットは思っているよりも多くあります.最近は不器用な子どもが多くなっていますがこのようなことが原因の1つにあげられるでしょう.