反復練習は効率悪い??
新たな技術を習得するときや,漢字や英単語を覚えるときに,多くの人がたくさんの反復練習を行うのではないでしょうか?? 古くから,この様な練習・学習方法は非効率であることが,心理学分野では明らかになっています.今回は,その改善方法について述べたいと思います.
文脈干渉効果
文脈干渉効果とは,学習において同じ練習をブロック化して練習をするよりも,毎回ランダムな内容の練習をするほうが,練習中のパフォーマンスは練習中・学習中のパフォーマンスは低いが,学習の定着率や,類似した他の課題の成績が高くなることです.
ブロック練習
つまり,例えば,英単語を10個覚えなくていはいけないときに,多くの方が,1個目の単語を10書いて,2個目に行ってまた10回書いて...10個目までやるのではないでしょうか?スポーツ場面では,新しいテニス部員を指導するときにフォアハンドの素振りを100回やらせて,そのあとにバックハンドの素振りを100回.などという指導が多いのではないでしょうか?この様な反復練習する練習方法(順序)をブロック練習と言います.
これがかなり,効率悪い方法です.
ではどうすれば効率的になるのでしょうか?
ランダム練習
答えは簡単で,ただ,練習の順序をランダムにすればいいだけです.上記の例でと,英単語を覚えるときに,1から10までの単語をランダムに覚えていけば良いのです.ブロック練習は111,222,333,444,555,66,......という順序で学習を行いますが,ランダム練習では,142,746,382,751,373などの様に順番通りにやらずに,ランダムに学習していく方法です.このランダム練習の際に,文脈干渉効果が起こり,練習中の成績は低いものの,次の日の成績や似た様な課題を行うときに成績がかなり高くなります.スポーツ場面(上記の例ではテニス)においても,フォアハンドとバックハンドの素振り(練習を)バラバラにやったり,さらに,フォアハンドの素振りでも,低い球・高い球,右・左,など要素を増やしてよりランダムにすることによって学習・練習効率がかなり高くなります.
多くの場合,英単語を覚えるときは,テストの前日もしくはそれより前に行うため,学習中の成績は重要では無いと思います.それよりも,いかに定着させるか(忘れにくく)が重要では無いでしょうか?(テスト直前に数個だけ覚えたい場合はブロック練習の方がいいかもしれませんが...)
この様な効果は多くの研究によって証明されています.
研究紹介
2010年に発表された研究は,ランダム練習とブロック練習の学習効果を比較しています.さらに,練習課題の類似性がランダム練習の効率化にどう影響するかも同時に検討しています.
方法
被験者;右利きの男女30人ずつ(22±2.5歳)
課題;3つの異なるタイミング目標(ATG)の1つを満たしながら,決められた順序でボタンをおす.
条件;練習順序×ATGの類似性(4条件)
練習順序;ランダムvsブロック
ATGの類似性;類似(900,1000,1100ms)vs非類似(700,1000,1300ms)
ランダム-非類似, ランダム-類似, ブロック-非類似, ブロック-類似の4条件
練習試行;各ATGを33試行
保持テスト(R);最後の練習思考から24時間後,100ms ATGで12試行
結果
練習中のエラーはランダム条件で有意に大きい.
保持テストは,ランダムーブロック間で有意差あり.
非類似条件下ではランダムはブロックよりも高い成績だが,類似条件下でのランダムvsブロックの差はない.
結論
ランダム練習は,ブロック練習よりも基本的には効率的な学習が行われるが,課題間の類似性がかなり高い場合は,ランダム練習の恩恵を受けづらいもしくは,ブロック練習の学習効率低下が起こらない.
つまり,ランダム練習は効率的であるものの,ランダムにする幅が小さいとその効果はあまり受けられないということ.
したがって,スポーツの練習をする場合,例えば野球では,スライダーとカットボールをランダムで練習するよりもスライダーとカーブ,などの様に,練習する課題同士があまり似ていない方が効率的に練習が進められる.
運動指導
運動指導場面では,多くの指導者が,1つのことを習得できてから,次の課題に進むという方法で指導しているが,こういった研究から考えるとそれはあまり効率的ではない.トレーニング指導場面においても,初心者には,ベンチプレスは難しいから,マシンプレスで,フォームを習得してから,ベンチプレスさせるトレーナーが多いのではないでしょうか.もしくは,ベンチプレスのみを行わせ,フォームがある程度完成してから,他の種目例えば,ダンベルプレスやフライ,を行う人がほとんどだ思います.安全面を考慮して,フォームを習得してから他の種目を行うのも大事ですが,様々な種目を同時進行した方が,学習効率が高くなるので,補助をしっかりし,安全を確保して様々な種目を行う方が”学習効率”の面からは効果的です.