発声が運動効率をあげる!!!
ハンマー投げ選手の室伏選手は,投擲の際に声を出すことによってパフォーマンスを向上させていることはよく知られています.これは,声を出すことによって,心理的ストッパーを外し,火事場の馬鹿力が出せるようになることや,覚醒レベルを向上させることによってより大きな筋力発揮が可能になり,パフォーマンスが向上すると考えられています.
また,多くの研究は,言語を司っている脳部位と運動制御を司っている脳部位がある程度リンクしていることを示しています.例えば,『投げる』という言葉を聞いた時には,『投げる』動作を指令する脳の部位の活性が見られるということです.
他にも,腕を伸ばす運動を行う際に,『長い』と表示すると,運動の動作自体も長くなり,反対に『短い』と表示すると運動動作は短くなることが報告されています.
つまり,認識した言語によって,行われる運動が異なることがわかっています.
反対に,言語の発声(生成)は,運動にどのような効果があるのでしょうか?
論文紹介
今回は,Fargier et al(2012)による研究を紹介したいと思います.
Fargier et al(2012)Grasp It Loudly! Supporting Actions with Semantically Congruent Spoken Action Words; PLoS ONE,7,1,e30663
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0030663
目的・方法
この研究は,16名の健康な18歳から28歳までの男女を対象に,掌握変位運動中の発声が運動パフォーマンスにどう影響するかを検討しています.
運動課題;シリンダーを掴み(1),左右のどちらかに動かし(2),さらに,各運動時に単語を発生することが求められました.運動速度がパフォーマンスの指標.
条件
i) 発声なし(NV) (動きのみ)
ii) 動きに関連した動詞の発声 (rA) (掴む/置く)
iii) 動きに関連のない動詞の発声 (uA) (しゃがむ・走る)
iv)動きに関連のない単語の発声(uV) (食べ物・コショウ)
結果
図のように,動作に関連する言葉を発生した場合において,他の条件よりも有意に高いパフォーマンスを示している(運動速度が早くなった).
つまり,運動パフォーマンス中に,声を発生することは,心理的限界の上昇による最大筋力発揮のみならず,行動と一致した単語の発声においてのみ,運動技能の向上にも貢献する!
これらの知見は,運動指導場面において,とても有効でしょう.
多くの指導者やトレーナーは,指導の際に,口頭でクライアントや選手に動作の説明をする場面が多いと思います. 特に,筋トレ指導場面では,筋トレ初心者のフォームの取得は最重要項目の1つです.しかし,言ったことをすぐやれる人ばかりではありません.そのような場面での解決策の1つとして今回の知見が有効活用できると思います.
子どもの運動指導場面においても,新たな運動スキルの獲得は,子どもの身体・脳の発達においてかなり重要です.走りながらボールを蹴ると言った運動は,幼児期の子どもにとってかなり難しい運動です.そのような場面においても今回の知見が使えると思います.子どもが,走っている最中に”走って”と発しさせて,ボールを蹴るタイミングで,”蹴る”と発しさせることによって,より簡単に動作ができるようになるでしょう.