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エコなバス

金曜日の朝、いつものバスに乗ると聞き慣れない車内アナウンス。

「当バスは、明日の土曜日から、エコのため、3人以上のお客様がお降りになる停留所でしか止まりません」

ふーん。まあ、停車して発進するのが一番エネルギー使うっていうしな。確かに、たった1人のためだけに停車するってのも、エネルギーの無駄遣いなのかもな。

まあ、いつも大勢乗ってるバスだし、自分が降りる「山田」では、人がたくさん降りるし、自分には関係ないか。そう思ってた。


翌日の土曜日。今日はまさかの休日出勤。いつものように「山田」の手前で停車ボタンを押す。ピンポーン。カバンを持ち直し降りる準備をする。しかしスピードを緩めないバス。

「山田、一名のため通過します」

車内アナウンスが流れた。

「おい、うそだろ?」

走行中の揺れるバスの中をよたよたと運転手さんに駆け寄る。

「降りたいんだよ。降ろしてくださいよ」

運転手さんは前を見たまま、こちらをちらりとも見ない。

「当バスは、エコのため3名以上のお客様が降りる停留所でのみ停車致します」

場内アナウンスと同じセリフを前を見たまま繰り返した。次のバス停「山ノ内」が近づいてきたが

「山ノ内、通過しまーす」

どこまで行くんだこのバスは。せっかく早く会社につけそうだったのにどんどん離れていってしまう。早く降ろしてくれよ。焦りから、脇の下にじんわりと汗をかいてきた。

ピンポーン、ピンポーン

続けて停車ボタンがなる。

「はい、次、川田停車しまーす」

運転手さんの声に、ふーー、と肺中の空気が出たかと思うほどの安堵のため息。なんて日だ。結局、2つも先の停留所まで来てしまった。仕方ない、歩くか。7月の終わり。30分も歩いたら汗だくだろうな。わざわざ休日出勤に来たのについてない。、もう夏はそこまで来ている。汗だくだ。30分は掛かるだろう。せっかく休日出勤に来たのに、朝からついてない。


ああ、今日も遅くなってしまった。もう22:30か。お腹も空いたし、そろそろ帰ろう。バスに乗る。あれ? 俺一人か?。すると、他にお客さんは乗っていなかった。

「お客様」

急に運転手さんに話しかけられ、思わず身構える。この声は、朝の運転手。

「は、はい?」

動揺して声がひっくり返った。

「お客様、お一人ですので、このまま終点までお連れしますね。途中でどなたか、お乗りになるといいですね」

バックミラー越しに、にやっと顔を歪めた運転手さんと目が合った。その瞬間背筋がぞくぞくっとした。

このバスの終点は確か山の中……どうやって帰ったらいいんだ……


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