まさか、新庄に「お金との向き合い方」を教えてもらうとは思わなかった【新庄剛志『わいたこら。――人生を超ポジティブに生きる僕の方法』学研プラス】
新庄の本を手にしたのは『ドリーミングベイビー』以来、約20年ぶりのことである。当時小学生の頭に新庄の文章はかなり素直にささったようで、いまでも『ドリーミングベイビー』の中身はけっこう覚えている。昔阪神に松田という外野手がいたのだが、彼を「ミートがうまくて足が早くて使えばめちゃくちゃおもしろいのではないか」と評した文章がどういうわけかなぜか忘れられない。
さて、20年ぶりの新庄の本で、僕がとりわけ強烈に印象に残ったのは「お金の話」である。
「野球なんてマジバイト」と言い切るほど、プロ野球選手としての年俸以上の額を稼げる芸能関係の仕事。興味本位でマネージャーに5万円だけ下ろしてきてよ、と言った口座には、なんと2億円も入っていたこともあった。そうして得た大金を、好きなだけ買い物したり高級車を何台も乗り継いだりする羽振りのいい生活を送りながらも、新庄は「どこか楽しくなかった」と言いきる。
そして、北海道移転3年目の日本ハムに球団44年ぶりの日本一をもたらすというこれ以上ないハッピーエンドで野球選手を引退した数年後、新庄は一切のお金の管理を任せていた人物に20億円もの大金を横領されるという被害を受けてしまう。
このとき、新庄の心情(決してダジャレではない)としては、結局取り返せても8000万円にしかならないほどの大金を失ったことよりも、プロ入り直後からずっと懇意にしていた人物にこういった形で裏切られたことへのショックが大きかったように読み取れた。そういえば、別の知人も似たような経験をしていたが、「お金はあとから稼げばなんとかなるけど、それよりも信頼関係を損なったのが本当にショックだった」と言っていたのをふと、思い出した。
そんな新庄はプロ入り直後に初任給で7500円のグラブを買い、それを引退まで大切に使い続けている。ここまでは『ドリーミングベイビー』にもたしか書いてあったので僕も知っていたエピソードだったが、そのグラブはいま、もうないという。当然お金に代えられない大切な物だと本人も書いているのだけど、グラブがもうないその理由に、僕の涙腺が思わず緩んでしまった。このエピソードだけは、絶対に本書を手にとって読んでほしい。
まさか、新庄の本で「お金との向き合い方」を学ぶとは思ってもいなかった。これは単なる「破天荒なスーパースターの自伝」ではない。バリ島で出会った友人には「お金がなくなった、今のほうがいいよ」と言われているという。僕もお金持ちのときのエピソードより、前述した7500円のグラブのエピソードのほうが好きだ。
お金持ちになりたいなと思った人はこの本を一度手に取ると、本当にお金の概念を覆されるはずだ。それでも「お金持ち」になりたいのだろうか、と。