思い出が邪魔して物を捨てられない僕のような人に、心の底から推奨したい片づけ本【米田まりな 『モノが多い 部屋が狭い 時間がない でも、捨てられない人の捨てない片づけ』ディスカヴァー・トゥエンティワン】
機種変に伴って不要になったiPhoneXSを下取りに出した。この2年間、毎日肌身離さず持ち歩いていた代物である。「これでお手続きは完了になりますので」と言われ、店の外に出てからもしばらく心が痛い時間が続いた。
物を捨てるのが苦手だ。本当に苦手だ。これじゃよくない、と思って、片付けに関する本を読み漁る。でもそこに書いてあるのは
「使うかどうか迷うのなら捨てましょう」
「その物にときめかないのなら捨てましょう」
「ひとつ家にものを入れたらひとつ捨てるようにしましょう」
「あなたが死んでもあの世には物を持っていけません」
みたいなことばっかりで、正直それができたら苦労しないよ!と何度思ったかわからない。ある片づけ専門家の本ではいっしょに片づけを進める中で「これ今使うか決めてください。使わないのなら今すぐ捨ててください」と迫った、という一節が書いてあって、あー自分この人と片付けはじめたら絶対取っ組み合いの喧嘩するな、と思ったりもした。
そんな中Kindleで見つけたこの本。読み始めて15分で「そうだよ!そうなんだよ!」と心のなかで賞賛の嵐が吹き荒れた。
ハサミを気に入っている理由が、「切れ味」「軽さ」であるならば、同じスペックの別のハサミと交換されても、とくになんとも思わないでしょう。 一方で、ハサミのデザインや、プレゼントしてくれた人の顔など、これまで使ってきた思い出が詰まっている場合には、たとえ新しいハサミがもらえるとしても、いまのハサミを取りあげられたら悲しい気持ちになるはずです。
とくにこの文章にぐさっと来た。まさにそのとおりなのだ。
まず4つの片づけタイプに読み手を分類し(ちなみに僕は「秘密基地住人」だった)、「背番号をつける」「毎週30分点検作業をする」などといった分類方法がたくさん紹介されている。しかし僕は、どちらかといえば、タイトルにもあるように「捨てない」という片づけ方があること、そして何より捨てられない気持ちに寄り添った著者の文章に大きく勇気づけられた。
ただの無地の黒Tシャツでも、楽しい思い出のときに着ていたものだとしたら、それはもう「替えの効かない無地の黒Tシャツ」なのだ。それと引き換えにまったく同じ黒Tシャツがもらえたとしても、気持ちの折り合いがつくわけではない。クローゼットの奥底に眠る最近いつ着たかもわからないTシャツも、紐解けば北海道旅行で風邪引いたときのTシャツだとか、そういう思い出がいっぱいある。すると急に捨てられなくなる。
僕が「物を捨てられない」主な原因がこれだ。しかしこうした気持ちも、数多の片付け本だと「いいから捨てなさい」と糾弾されて終わる。だから何度読んでも「この人と片づけしたら取っ組み合いの喧嘩だな」と感じてしまうのだ。しかしこの本では捨てるどころか、最後のほうにはこんな文章までしたためられている。
部屋の整理は、今日まで生きてきたあなたの「自分史」をまとめる作業なのです。コンプレックスやしがらみは手放して、愛にあふれた、あなただけの記念館をつくりましょう。
そうなんだよ。できるなら今日下取りに出したiPhoneXSも、下取りのときにいっしょに処分を依頼したiFaceの水色のカバーも自分だけの記念館に飾っておきたかった。そこを肯定してくれるだけで、この片付け本は唯一無二の存在だと思う。
「片づけ」の世界にはいっぱい有名人がいる。最近はミニマリストという存在もクローズアップされている。しかし「あなただけの記念館をつくりましょう」という文言で、なんでもかんでも思い出の品を捨ててしまうことに疑問を呈すこの文章。
これまでの片付け本が合わなくて、物を捨てられない気持ちが常に付いて回る自分にとっては、何かこうスカッとする気持ちすら感じた片付け本だった。