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「オンライン授業」って簡単に言うけど、実はめっちゃ大変なんですよ

新型コロナウイルスの感染拡大にともなって、夏休み明けの登校について危惧する声が高まっています。そこで出てきているのが「オンライン授業」と「一斉休校」という選択肢です。

最近では大学の授業などでも広く用いられている「オンライン授業」ですが、Zoomを用いてやってみると意外と遜色なくできる機能が揃っています。いわゆるグループワークも「ブレイクアウトルーム」と言う機能で人数振り分ければできますし、画面共有ではホワイトボードのモードも選択可能です。なんなら「強制ミュート」という機能もあるので、騒がしい生徒への対応はオンラインのほうが進んでいるところもあります。

昨年度のコロナ禍で、対面授業と並行しつつオンライン授業というものに定期的に携わるようになりました。そこで得た知見を踏まえて、僕が実施している日本史や地理の授業は、今年度からオンライン授業でも対応できるように極力板書を減らしてスライドで完結できるようにしました(まったく板書をしないわけではないですが)。なので、ぶっちゃけ「ハイ明日からオンライン授業でよろしく」、と言われても、まあやろうと思えばできます。やろうと思えば。

いま「やろうと思えば」と強調したのはほかでもない、「オンライン授業でも対応できるようにしておく」のと、「実際にオンライン授業をやる」というのは、まったく別モノだからです。もう少し踏み込んで結論を書くと、低学年であればあるほど、「対面授業のままをオンライン授業にもっていったら、120%失敗する」と思います。

僕がいま盛んに議論されている「いますぐオンライン授業を!」と言う声にもどかしさを感じているのはここにあります。ハッキリと言っておきますが、タブレット1台あるからと言ってそんな簡単にオンライン授業ができるわけではありません。

この記事5500文字もあるので(!)、忙しい人向けにここで先にまとめを書いておくと、

・回線トラブルあるよ
・機器トラブルあるよ
・スキルの問題があるよ
・いくらでもサボれちゃうよ
・話しててもほんとに聞いてくれてるかわかんないよ
・義務教育の学校がN高やS高のようなことをやっても絶対頓挫するよ

という話をいまからやっていきます。

オンライン授業の課題点1:回線

まあ「オンライン授業」なのでネット回線がないとまったく話になりません。で、仮にネット回線があったとしても、それがコミュニケーションや授業受講に支障がない程度に使えるものなのかどうかは、別の話です。

Zoom飲み会とかで誰かが話してるときにいきなりぷつんと途切れて「モシモーシ!」と呼びかけたり、または画面に突然「回線が不安定です」ってエラー出たことある人、いませんか。結構いるはずです。ちなみに我が家の回線も最近不調で、Zoomで打ち合わせしているとたまに回線落ちして、自分以外のメンバーが静止画で無音になっちゃうことがあります。

オンライン授業では、これが頻発します。

すべての家庭に、絶好調の爆速な回線が備わっているわけではありません。しかも爆速な回線があっても、その家庭で保護者がテレワークとかしてたら回線重くなって同様の現象が発生します。

その結果、授業途中に回線落ちして、復帰したらもうなんか話が進んでて授業理解が追いつかなくなる、なんてこともまったく珍しい話ではありません。これはまだマシな部類で、ひどいと意欲があるにも関わらずネットが重すぎてまるまる1時間授業に出席できなかった、というケースだってごまんとあります。

後述しますが、オンライン授業では対面授業だと絶対にありえない「エスケープ」が容易に、しかも思わぬところでできてしまいます。そのひとつが、この「回線落ち」なのです。

オンライン授業の課題点2:機器トラブル

オンライン授業推進派の声の中には、タブレットを配布してるんだからそれで授業を受ければいいじゃないか、という意見も数多くあります。

でも、そのタブレットがきちんと動かなかったら、なんの意味もありませんよね?

この「タブレットが動かない」問題もめちゃくちゃ頻発します。当然、タブレットが動かないと授業も受けられないので、そうした生徒や家庭が泣きつくのは学校、それも情報科の先生をはじめ機械に強い教職員です。しかも持ち込まれたタブレットの様子を見たら再起動一発で復旧するとか、めちゃくちゃ初歩的なところで解決するようなこともままあります(もちろん修理工場への発送が必要なケースもありますが)。

さらに、仮にこれらのトラブルに生徒や保護者が対処できても、パソコンやタブレットの処理能力の問題で激重になり、泣く泣く授業途中に再起動させる羽目になることも何一つ珍しくありません。回線落ちして戻ってきたら話進みすぎてわけわからなくなる、という事態がここでも発生します。

「すべての家庭に、絶好調の爆速な回線が備わっているわけではない」と言う話をしましたが、同様に、「すべての家庭に、パソコン(タブレット)に強い人がいるわけではない」ということも言えるんですね。

オンライン授業の課題点3:授業者のスキル

まあこれは当たり前なのですが、まずオンライン授業と対面授業ではある程度授業の中身を作り変える必要があります。

板書授業だと、思い切ってスライドにしちゃうか?黒板前にカメラを据え付けて力技で板書授業するか?という決断も迫られます。その場合、どう映るかがある程度わかっていないと、「文字が小さい!」「そんなところに書かれても見えない!」なんて事態が起こってしまいます。そのへんのスキルも、オンライン授業では必須になってきます。

さらに授業者においては、板書・スライド関係なくZoomなど使用するビデオ通話ツールをある程度使いこなせなければ話になりません。自分はもう1年以上、仕事のみならず友人との飲み会とかも9割9分Zoomになったので、たとえばブレイクアウトルームに固定のメンバーを振り分けるとか、ある程度細かく使いこなせるのですが、「Zoom?なにそれ?」っていう人にとっては、まず機能を知るところから始まることでしょう。

・・・いま僕は「ある程度Zoomを細かく使いこなせる」と書きましたが、すいませんこれ大嘘です。このZoom、たしかに普通にビデオ通話するぶんには問題ないし、ある程度の機能も知っていてよく使うのですが、いろんな機能を使いこなそうとするとまあ予期せぬ失敗が起こります。しかもそれをよりによってオンライン授業で何度も何度もやらかしています。

よくやるのが、画面共有したら授業スライドじゃなくて意図しない画面が共有されてしまった(これ地味に結構怖い)とか、グループに分けて話し合い活動をスタートさせてすぐ、誤操作でブレイクアウトルームを閉じてしまうとか。授業中にこういう事故が起こるとただ時間を空費するだけで非常にもったいない、そして対面授業ではまずない事故でもあります。

オンライン授業の課題点4:いくらでもサボれる

教室での一斉授業であれば、たとえばこっそりスマホでYouTube観てたらそりゃあ怒られます。英語の授業中に数学の課題をモリモリやってても怒る先生もいるでしょう。もちろん、ゲームなんてご法度です。

でもこれ、オンライン授業ならかなり容易にできてしまうんです。

一番手っ取り早いのは、カメラをオフにしてしまうこと。これをやってしまえば寝ようが授業中に食事しようが何したって自由です。カメラをオンにしていても、映し出されるのは「画面を眺める自分の姿」ですから、画面共有しない限り画面に何映し出したってバレません。マインクラフトやってても、こっそりYouTube見てても、傍から見れば画面を凝視する姿なので授業をしっかり受けてるように見えてしまうので、偽装することはいっくらでもできます。

これ、教える側からすると、「あ、こいつ、もしかしてYouTube観てる?」と思っても、パッと見シロかクロかまったくわからないという、対面授業ではまず絶対ありえないことが起こります。メガネに反射した画面が露骨にYouTubeだった、っていうのなら「観てるよね?」と問い詰められるかもしれませんが、机間巡視もできない、そんな骨の折れる作業をいちいちひとりずつやってる余裕なんてオンライン授業にありません。

とはいえ、こうした「対面授業ではありえないエスケープ」は解決策がまったくないわけではないので、このあたりはオンライン授業のtipsとして、また別立てで書こうと思います。

→追記:書きました。下記のリンクからどうぞ。

オンライン授業の課題点5:リアクションがわからない

話し手としては、オンライン授業でカメラオフで出席されると、エスケープもさることながら本当にパソコンの前で真剣に授業を聞いていたとしてもリアクションがわからない、という課題点があります。

対面授業では全員の表情や態度を観察できるので、「この話はみんな興味なさそうだな」とか「意外とこの話みんな食いつくんだな」ということがつぶさにわかります。しかし、オンライン授業だと、Zoomの1画面に表示されるのは最大20名なので、それ以降の生徒のリアクションが伝わってきません(ちなみにZoomの仕様ではカメラオンにしている参加者を優先的に表示します)。スライドを画面共有する形の授業だと、表示される人数がさらに限られます。

リアクションが伝わってこないということは、対面授業と同じ内容を話していても表情や態度がまったくわからないので、「これちゃんと聞いてくれてるのか?」「理解できてるのか?」と、話し手は非常に不安になることを意味しています。

そして授業内でこの「話し手」になるのは、何も授業担当者、つまり教員だけではありません。たとえば授業において生徒がなにかを発表するような段取りを組んでいたら、発表する生徒も同様に「聞き手の状況が伝わらない」問題を味わうことになります。

対面授業とオンライン授業の決定的な違いはまさにここにあります。だから、「対面授業のままをオンライン授業にもっていったら、120%失敗する」と声を大にして言いたいわけです。

たしかに自分は今年度から授業の板書をほぼほぼスライドにしましたが、いざこれをそのままオンライン授業でやってくれと言われたら、対面授業と同じようにできる自信はまったくありません。たとえば自分の授業ではスライドと同時に穴埋め式のプリントを配布するのですが、対面授業で容易かつ必要な「生徒がどれくらいプリント記入を進められているか」という把握が、オンライン授業では困難になります。もうこの時点で、対面授業をそっくりそのままオンライン授業へ持ってくるやり方は破綻してしまうわけです。

まとめ:なぜN高やS高はオンラインでも成り立っているのか

群馬県や岐阜県では、夏休み明けの分散登校とオンライン授業の併用を決めているという話を聞きます。いま大学などで導入されているオンライン授業も、おそらくいま挙げたこれら課題点をしっかり認識した上で、なんかあったらきちんと生徒側も、教員側もサポートできると踏んだ結論だと思っています。逆にそんなこともわからずに闇雲によしオンライン授業だ!と言ってたら、正直「甘く見てんじゃないよ」、と思います。

Twitterで叫ばれている「オンライン授業への切り替え」。保護者からしたらこの状況で密になる教室へ通わせたくない、万が一子どもがもらってきて自分もかかったらえらいことになる、と思うと不安になるのは理解できます。しかし、この1年オンライン授業を定期的に運営している視点で言わせてもらうと、たとえ感染者が急増している中だとしても安易な「オンライン授業をやって!」と言う意見は少し怖く感じます。対面授業が基本の義務教育では、オンライン化してもすべての子どもたちへ等しく教育を届けられる仕組みが整っているとは言えないからです。「1人1台タブレット配布」でオンライン授業の仕組みを整えたと思われているのなら、それは大間違いです。

そして今の「オンライン授業導入を!」と言う声の中に、こうした面をきちんと踏まえた上での意見を、申し訳ないですが僕は見かけたことがありません。どうも視野が狭かったり、悪い言い方をすると「教育を甘く見ている」意見ばかりがどうしても目につきます。いざオンラインになってこうしたトラブルが発生したときのこと考えてるのかなー、と思うことも多々あります。

N高校やS高校がオンラインでできてるじゃないか、と言う声も聞こえてきそうですが、あそこはそもそもオンラインありきでカリキュラムを組んでいるので成功している面があります。逆に言うと、ある程度のネットのスキルがなく、オンラインについていけない!という層はあの学校のターゲットではないわけで、そういう意味では別の事例として考えるべき学校です。ネットに強い生徒も弱い生徒も等しくいる義務教育の学校がN高やS高のようなことをやっても、確実に頓挫します。

繰り返しますが、この状況下で密になる教室へ通わせたくないという保護者の気持ちはよくわかりますし、「オンライン授業をやってほしい」という気持ちも重々理解します。しかし仕組みが整っていない、付け焼き刃のようなオンライン授業は、短期的にはコロナ対策という意味では有効かもしれませんが、長期的に、子どもたちの発達や成長という視点で見ればいつかどこかで必ずそれ相応の代償を支払う瞬間が訪れると思います。

そこを慎重に考え天秤にかけた上で、やっぱりオンライン授業をやってほしい、という結論が出るのなら、僕は黙ってオンライン授業の準備をしますが、最低限ひとくちにオンライン授業と言ってもこれほどのハードルがあるということ、そしてこれらトラブルはどこの家庭にでも起こり得ること、だけはきちんと知った上で議論することを、切に願います。

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