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書評

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これまで読んだ本の感想とか。
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2018年8月の記事一覧

中学生の素直な声を受け止められないのならば、絶対に読まないでください。【春名風花『少女と傷とあっためミルク ~心ない言葉に傷ついた君へ』扶桑社】

中学生の素直な声を受け止められないのならば、絶対に読まないでください。【春名風花『少女と傷とあっためミルク ~心ない言葉に傷ついた君へ』扶桑社】

久しぶりに、読後ものすごい腹立たしい感覚を味わった本だった。

それは、決して著者の「はるかぜちゃん」に対してでは、ない。

この本を上梓したときのはるかぜちゃんの年齢は、13歳。
そんな女の子が、醜い大人が抱える本質をズバッと見抜き、それを素直に指摘する。

「こんな本、13歳の子に書かせちゃいけないよ」

本を閉じるなり、そう思った。

はるかぜちゃんは、とっても素直な13歳の女の子だ。
それ

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想像してほしい。あなたの子どもが平日の朝、何時になっても起きてこないとしたら・・・?【武香織『朝起きられない子の意外な病気 - 「起立性調節障害」患者家族の体験から』中公新書ラクレ】

想像してほしい。あなたの子どもが平日の朝、何時になっても起きてこないとしたら・・・?【武香織『朝起きられない子の意外な病気 - 「起立性調節障害」患者家族の体験から』中公新書ラクレ】

「早くしないと遅刻するよ」と無理ぐり布団をひっぱがすか。
「いつまでも怠けているんじゃない」と一喝するか。
はたまた、愛想を尽かして放置するか。

「起立性調節障害」の観点から言えば、上に挙げた3つの対応策は、「大間違い」である。

中学生の息子が、ある日から突然「頭が痛い」と毎朝訴え、学校にいけなくなった。母親(著者)は最初、我が子のサボり癖を疑ったが、ふと「死人のような蒼白な顔」に気が付き、こ

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たしかに、「あたりまえのこと」が書いてあるが、問題はそのやり方だ。【ロン・クラーク『あたりまえだけど、とても大切なこと―子どものためのルールブック』草思社】

たしかに、「あたりまえのこと」が書いてあるが、問題はそのやり方だ。【ロン・クラーク『あたりまえだけど、とても大切なこと―子どものためのルールブック』草思社】

この本には、たしかに「あたりまえのこと」が書いてある。
しかも50個もある。
原著では55個だったそうだが、日本の教育現場でそぐわないものを5つ削ぎ落としたらしい。

・誰かが話しているときには、その人の顔を見る。
・人から何かをもらったときは「ありがとう」とお礼する。
・すべての人にあいさつをする。
・物を落としたら拾ってあげる。
・劇場や、どこかへ入るときは静粛に入場。
・いじめやいやがらせが

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「不登校は不幸じゃない」。でも、「学校は必要」?その理由も腑に落ちる、不登校経験談の集合体の1冊。【小幡和輝『学校は行かなくてもいい―親子で読みたい「正しい不登校のやり方」健康ジャーナル社】

「不登校は不幸じゃない」。でも、「学校は必要」?その理由も腑に落ちる、不登校経験談の集合体の1冊。【小幡和輝『学校は行かなくてもいい―親子で読みたい「正しい不登校のやり方」健康ジャーナル社】

この本の書評はどうしても今日書いておきたかった。

もうすぐ夏休みが終わる。実はこの時期に「18歳以下の自殺者数」というものが格段に増える。それは、2学期が始まるにあたって学校に行きたくない、学校が辛くてしんどい子どもたちが、耐えきれずに「死」の道を選んでしまうからだ。

でも、それっておかしくないか。
「学校に行く」以外に、選択肢が許されないのっておかしくないか。
もし「学校に行く」以外の選択肢

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あまりにも緻密すぎる佐藤氏の京都での学びの記録。学習意欲を刺激されたい人は手にするべし。【佐藤優『同志社大学神学部』光文社】

あまりにも緻密すぎる佐藤氏の京都での学びの記録。学習意欲を刺激されたい人は手にするべし。【佐藤優『同志社大学神学部』光文社】

正直な話、この本は読みにくい。

まず、章立てが一切ない。348ページとかなり分量は多いが、目次もなく物語がいきなりはじまり、終わるまでノンストップで駆け抜けてゆく。それに本作で扱われる神学の話や、その当時の学生闘争の話も、非常に難解かつマニアックで、予備知識なしではいったい何のことかさっぱりわからない。

しかしこの本には、仮にそれらを読み飛ばしてもなお、ある魅力がある。

この本を簡単に説明す

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大人も学生も、世界史を学びたい人は必携!現役の高校の先生が書いた「整理されすぎた世界史」の流れを刮目せよ。【山崎圭一『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書』SBクリエイティブ】

大人も学生も、世界史を学びたい人は必携!現役の高校の先生が書いた「整理されすぎた世界史」の流れを刮目せよ。【山崎圭一『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書』SBクリエイティブ】

高校で世界史を教えている。

世界史の教科書というものは、文章自体はわかりやすく書かれているが、「流れ」が非常にややこしい。たとえば中国文明の起こりから中国史の話が始まったかと思えば、唐が衰退するころに次のページをめくると「イスラーム世界の成立」とある。さらにゲルマン民族が大移動してフランク王国や神聖ローマ帝国が成立し、十字軍が遠征して百年戦争でジャンヌ・ダルクが処刑されて、ようやく中国史の話に戻

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広島カープが強い今だからこそ、読み返しておきたい物語。あの年、「広島」でいったい何が起こっていたのか?【重松清『赤ヘル1975』講談社】

広島カープが強い今だからこそ、読み返しておきたい物語。あの年、「広島」でいったい何が起こっていたのか?【重松清『赤ヘル1975』講談社】

広島カープが強い。気がついたら今年のペナントレースでもマジックを点灯させている。このままいけば2016年から3連覇、ということになる。

そもそもカープがはじめて優勝したのは1975年のことだった。帽子の色を赤に変えたその年、決して下馬評が高くない中で、序盤にルーツが監督を退任するアクシデントがありながらも後任の古葉竹識監督が立て直し、山本浩二、衣笠、大下、外木場らが活躍して栄冠をもたらす。それは

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