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『モモ』を読んで



-掃除屋のベッポが、冒頭に話していた言葉。

「いちどに道路ぜんぶのことを考えてはいかん、わかるかな?つぎの一歩のことだけ、つぎのひと呼吸(いき)のことだけ、つぎのひとはきのことだけを考えるんだ。いつもただつぎのことだけをな。」

「するとたのしくなってくる。これがだいじなんだな、たのしければ、仕事がうまくはかどる。こういうふうにやらにゃあだめなんだ。」

これが物語の中で一貫した大切な考え方になることを、最初に予測できなかったー



この物語は不思議な少女モモと、「灰色の男たち」の関わり合いを描いた物語である。登場人物は多く、親友のおしゃべりなジジと、同じく親友の掃除屋のベッポ等である。

私が最初にモモを読んだ時は、ABDという未来型読書法を使用した時であった。その時は一部分しか読んでおらず、続きが気になっていた本である。



この物語のキーポイントは、二つあると私は思う。



一つ目から解説しよう。

①モモの対話


主人公であるモモは、誰も住んでおらず整備もされていない広場に住んでいる。そこには悩みを持った人々がモモに相談をしにやってくる。そして相談に来た人は必ず解決して帰っていくのだ。
人は口を揃えてこう言う。
「困ったらモモのところへ行きなよ」と。

では、モモはどんな解決策を提示してくれるのだろうか…。

モモは、黙って目を見て聴いているだけなのである。


モモが何かをアドバイスしたことなど一度もない。お話を聞かせてくれることに興味津々なだけで、モモから言葉が発されることなんてないのだ。

それでも、皆は解決して帰っていく。なぜなのだろうか。


これがモモの対話力。いわゆる「傾聴」であろう。

相手にアドバイスをするのではなく、相手の話に興味関心を持って接する。
肯定も否定もしない。ただひたすらに相手が満足するまで聴き続ける。


これは今の我々にも必要なことではないだろうか。


後述する部分にも関わってくるが、

我々は答えを求めすぎている。

早急に答えを欲しがる。

私だってそうだ。

すぐ自分で結論を出したがる。それを相手にも求める。モヤモヤを隣に置こうとしない。

モモのところへ行くと、いやでも自分と向き合わざるを得なくなる

自分で発する言葉によって、自分の本心を自覚するのだ。


モモの「傾聴」する姿勢は、真似したいところである。

②現代に蔓延る灰色の男たち

「灰色の男」とは、物語の中で人間から時間を奪う人々のことである。


人間に時間を節約するように訴えかけ、そうせざるを得ない制度を作り、便利なものを与えて自由を奪う。


大人には課税で、夢見る少年には名声で、子どもには将来役立つ勉強で。

「時間がもったいない」「効率よく」「自分のために時間を使う」

現代の我々に強いられた課題と同じようだ。それらはあまりにも多すぎるし、あまりにも責任が重すぎる。

モモは変貌してしまった友人たちに触れ、衝撃を受けてしまうのであるが、具体的な内容は紹介しない。ぜひ読んでみてほしい。

結果的に「灰色の男たち」はいなくなるのだが、

現代にも「灰色の男たち」は蔓延っていると私は思う。


便利なものが増えて、効率よくスマートであることがクールとされる時代になってきていないだろうか。


花の匂いや街の音に意識を向けることなど、今の生活の中にあるだろうか。



私自身もそうだが…。
イヤホンをつけてiPhoneに目が釘付けで、どれだけ効率よく過ごすかを考えている。
しかし時間短縮の技術を取り入れても、効率よく働いても、次々と仕事が入ってこないだろうか?

効率を上げても、節約しても、心が穏やかになることはない。心は忙しないままなのだ。


我々自身も相手に「効率」や「スマート」を求めてしまいがちだ。

それを子どもにも求めてしまう。社会の荒波にさらされていると感じている我々が、子どものためを思って「技術」を与えようとする。

しかし、その行為は子どもを苦しめるのではないのだろうか。便利なものを与えても心は豊かにならないのではないだろうか。


子どもに課題を与え、それが終わったら「好きにしていいよ」という。

しかし自由を与えられる前に、ノルマをこなすことが染み付いてしまった彼らは、我々からの課題を待つようになってしまう。

だから、好きなことや趣味を聞かれても答えられない人が多いのだ。

「将来のために勉強する・させる」ために、納得感を与えてやる気にさせたい気持ちもよくわかる。

でも、のびのびと子どもの好きなようにさせてやることも大切ではないだろうか?

ゆっくり寝る日があってもいい。夜更かしする日があってもいい。自分の理想のために頑張る日があってもいいのだ。

別の読書日記で登場した、「成瀬」のようなものだ。


自分の本心の赴くままに生きていくことを私は許容したい。

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