モテる者が富める国 タイ🇹🇭
「こんなところでポルシェ売っているとは⁈」
タイ・バンコクの中心街にあるショッピングモール「サイアムパラゴン」を初めて訪れた時、驚いたことが二つある。
一つは広さだ。これは他の多くの人から同じ感想を聞く。仕事で流通関係の業界を担当した時に米国や中国にある超大型店をいくつかみてきた。ので、たいていの大型店には驚かなくなっていたが、バンコク都心部の一等地にこれだけの大きな‘箱’をドンとこしらえるあたりに、日本の常識との大きな違いを感じる。
もう一つが、中にある店のラインアップだ。あまたの高級店が並ぶ中に、ポルシェやマセラティなど超高級外国車のショールーム兼販売店が複数、軒を並べているのだ。都心繁華街にある大型ショッピングモールで売っている高級外国車を見たのは、おそらく初めてだった。
「誰が買うのか」
こんな疑問がわかない日本人はいないだろう。だが、何度か訪れて様子をうかがっていると、土・日などはお金を持っていそうな身なりの良い人々がけっこう、ショールームをうろついているのである。
若い男女のカップルもいて、値段の交渉をしているのであろうか、臆することなく販売員らと話し込んでいる。自分なら店に足を踏み込んだだけで脈拍は20、血圧は30上昇して、声が裏返ってしまう。
国力の差を1人当たり国内総生産(GDP)という物差しで比較すれば、タイは日本の約6分の1(2015年)ほどなのである。だが、サイアムパラゴン辺りに行けば、「石を投げると金持ちに当たる」くらいの密度でいる。
バンコク市内チットロムの高級百貨店セントラル・デパートメント・ストアで開かれた「世界の高級時計フェア」では、100万バーツを超える逸品がいくつも売れるという。円ではなくてバーツ。日本円で約320万円とかのレベル。そんなお金持ちから中流層の人々までが訪日客として大挙、日本に押し寄せているのはご承知の通りだ。
やはり、階級の差が厳然と残る国なのだ。事情通曰く、「日本のように相続税がないから、金持ちはいつまでも金持ち」なのだそうだ。固定資産税も贈与税も、売却に伴う利益に対する課税もない。持てる者が子女の教育にそれ相応のお金をかけ、よりよい職業と地位に就きながら繁栄を続けていくという構図だ。
そうした人々が一塊のグループとなり、互いに割の良い投資話やビジネス情報、人材(子女の結婚なども含め)を融通し合って、互いの財政基盤をより強固にしていく世界、なのだろう。
もちろん、そうしたスーパーリッチ層はタイ全土の中ではごく少数のグループだろう。没落していく家もあろうし、新規参入組もいるだろう。だが、持ってしまえば結構な確率で安泰な人生設計ができそうな様子である。だからタイ人の多くは、「ほほ笑みの国」をうたって暢気にしているようでいて、考え方がお金中心になってしまうのかもしれない。
タイのようなシステムにも、日本のように(相続税などで)富の社会的再配分によって国民全体を豊かにするというシステムにも、それぞれ一長一短があり、その是非は人によって違う答えが出るに違いない。
また、タイでは貧しくとも「あくせく働きたくはない」と考える人々も少なからずいると聞く。そのマイペースぶりをどう受け止めるかで、タイを好きになるか嫌いになるかが決まるような気がする。
(初出:タイ日本語フリーペーパー「web」巻頭エッセイ『泰国春秋』2008年2月15日号)
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