カミの話
日本も夏の盛りをむかえ、日差しが極めてうざったい季節になった。気になるのは頭、特に頭皮への紫外線である。
タイの直射日光は年中キツイ。だが、先日テレビを見ていたら何でも「南国にハゲなし」という言葉があるそうだ。赤道あたりの国にはアタマが薄い人は、そんなに多くないらしい。
確かに自分の記憶をたどってみても、タイ人で頭がきれいに禿げあがっている人は、日本人に比べて少ない気がする。
高校生の頃、「将来、禿げるかどうか確実に分かるの」と豪語する女友達がいた。街中の公立図書館でよく会う他校の女子高生だったが、何でも子供のころからの“能力”だそうで、親戚一同ばかりか友達の家族から何から見立てた結果、百発百中の正答率だったという。
当時一緒に群れて行動していた筆者と友人ら数人について「おうかがい」をたてたところ、バスケットボール部の選手で今でいうイケメンだったA君と、筆者が「将来、禿げる」とのご託宣だった。
確かに、筆者の家系は母方も父方もハゲである。父親も「35歳を過ぎたあたりから、すっかり薄くなってしまってなぁ……」と言っていたので、まあそれはそれで仕方ないかと思って、筆者はあまり気にしないでこれまで生きてきた。
”お告げ”を聞いて意気消沈したのはA君である。頭が薄くなりそうな予感を自身、抱いていたらしい。その後、さまざまな努力に取り組んだそうだが、30代の半ばにして頭皮がすっかり、全体的に露わになってしまった。
本人によれば、その広がり方は「燎原の火のごとく」だそうで、今ではすっかり無心の境地に達しているそうである。
度重なる不摂生が祟ったのか、筆者も無為に毛を失う日々を続けてきた。ただ、なんとか「全面降伏」は免れているのではないかと思う。天然パーマの髪が幸いし、頭皮が見えにくい利点もある。
が、個人的には長く使用してきた石鹸シャンプーのおかげではないかと秘かに思っている。
石鹸シャンプーには「髪に良い」「いや悪い」と様々な情報が飛び交うが、化学品を大量に投入している有力メーカーの一般シャンプーに比べ、ずっと安全かつ自然な感じが気に入っている。
それよりも目下、個人的に気になっているのは白髪の方である。バンコクで働いているころからだいぶ目立ち始め、東京に戻って3カ月で一気に増えた気がする。社内でもよく先輩を観察していると、普段は髪を染めているのだが、伸びてくると驚くほど髪の根元が真っ白になっている人もいて、「これで染めてなかったら、ただの白髪頭だ」と驚かされる。
まったく、老化は自然の理だとはいえ、これだけ周囲の変化を見せられると「カミも仏もないのか」と駄洒落の一つも言いたくなるが、先日、毛髪再生に関して面白い話を聞いた。しかもバンコクで。
タニヤ街の酒席で3カ月ぶりに会った某銀行のK氏。遠くから見ても雰囲気がグッと若返っているのである。ファッション的に垢ぬけている感じが増しているのもあるが、どこかオーラから若々しさが滲み出ているのだ。
「あれ、若返りました?」
と声をかけると、「本当ですか!」と目が輝き、うれしそうに、だがこっそりと打ち明けてくれた。
「実は、先輩から教えてもらった病院で、髪を増やす治療を受けているんです」
何でもバンコク市内で頭皮・毛髪の具合を見定めて、いい薬を調合してくれる医者がいるという。K氏の先輩も長年、フランシスコ・ザビエル風の後頭部に悩んできたのだが、そこで調合してもらった薬を飲んで見事! 元通りに再生したそうなのである。
言うのは失礼だが、K氏も以前と比べて、随分と空き地面積が埋まってきた感じがする。そう指摘すると「それだけでなくて、1本1本が強くなって抜けにくくなってきたんですよ」と満面の笑みだ。凄い、そんな病院があるのか――独り恐れ入った。
まあ、その医師でも手に負えないというか、再生が難しい状態の禿げあがり方もあるそうだが、まだ残っている毛髪を再生できるならうれしいと思う人はK氏だけではあるまい。
何を飲まされるのかは明らかにされておらず、そこのところは「信頼関係しかない」(K氏)らしい。筆者が実地体験した事柄でもないでの個人的にお勧めできる立場にないが、なんにしてもラスト・リゾート(最終避難先)があるというのは素晴らしいことだと思う。
(了)