地域のお金どこに? 「エネ地域公社」で富める八戸を
地域のお金はどこに消えるのか――。
八戸市の北部、海上自衛隊八戸基地に近い八太郎山地区の高台。2013年ごろから、多数のソーラーパネル(太陽光発電装置)が並びだした。この場所、元は戦後に進駐してきた米軍関係者の居住地区で、後に自衛隊員向け官舎の建つ敷地となった場所だ。
ここは筆者の実家のごく近所である。子供の頃には米国風の住宅が並び、青々とした芝生が広がっていたこの地が、今では様相がすっかり変わってしまった。きっかけとなったのは2012年、太陽光や風力など再生可能エネルギーで発電した電力を20年間という長期で一定の価格で買い取る「再生可能エネ固定価格買取制度」(FIT)が導入されてからだ。
当初は高めの買取価格(毎時1キロワットで税別40円)が設定され、投下資本が回収しやすいと多くの事業者が参入した。八戸市や周辺にも十数社の太陽光発電事業者が進出したという。
ほかにも市内では住友林業系や王子グループ系のバイオマス発電所が新設され、再生可能エネ発電の拡大が続く。地球温暖化を防ぐ観点から喜ばしくはみえる。だが、地域で発電した電力が生んだ「収益」はいったい、どこに流れているのであろうか。
八太郎山のソーラーパネルは3社が運営し、いずれも県外企業だ。一つは健康食品通販が主力事業という長野市のS社で、残る二つは東京が本社の投資系ファンドだ。発電分は東北電力が買い取り、それを青森県内に住む私たち消費者や事業者が「電気代を払って」使っている。
電力会社が再生可能エネ発電を購入するコストは、電気を使用する全世帯からが毎月負担する「再生可能エネ発電促進賦課金」によって賄われる。電気料金の請求票に「再エネ賦課金」などと書いてあるのがそれだ。
2014年に標準家庭(夫婦+子ども2人)で年間約2700円だった賦課金は、2019年には4倍近い約1万円台にまで上昇。どう考えても消費者や事業者の大きな負担となっている。その負担分が流れる先が県外から来た再生エネ発電事業者でもあるのだ。
自治体が電力会社に支払う料金も大きい。公共施設が契約する高圧電力の代金は、東北電力ではあるが域外に流出する。NTTデータ経営研究所によると、その額は人口4万人以下の自治体でも数億円とされ、人口約23万人の八戸市なら数十億円になる計算だ。
地域で生んだエネルギーを地域で消費して資金の流出を抑えられないか。そんな発想で19世紀から地域会社がエネルギーを扱っている国がある。
ドイツだ。全土に約1000社あるという「シュタットベルケ(Stadtwerke)」がそれで、日本語では「都市公社」と訳す。名は公社と呼ぶが、自治体は出資者するだけの「株主」であり、経営は民間から募ったプロ経営者が民間企業と同様に行う。自治体はその経営を監視・監査しながら、利益は配当などで享受できる権利を持つ。
ドイツの最古参級が同国北西部のオスナブリュック市にあるシュタットベルケだ。地域のガス供給会社として1853年に発足。現在では人口約16万人ある市内に電力、セントラルヒーティングで使う熱源、上下水道、約160台のバス交通網、プールなども運営する。
研究開発(R&D)部門まで持っており、例えば地域熱を効率的に使って市全体のエネルギー消費量を減らす技術で特許を取得。ドイツ各地で利用できるようにして特許収入も得ているという。
電力は事業会社を入札で選び、割安で安定的に供給。ガス、地域熱は地域の独占事業体で、いずれも安定的な黒字を生んでいる。一方、バスやプールは部門的には赤字だが、「地域の生活に欠かせないインフラ」として残し、会社全体を黒字経営で持続させている。
市営バスを抱える八戸市のような自治体も、シュタットベルケ的な取り組みがあっていいのではないか。自治体が株主として経営を見守る発想は、慢性的な赤字経営を避けがたい第三セクター方式よりも健全だろう。
ドイツに1000社あるシュタットベルケは全土で26万人の雇用を生み、従業員は地域のために誇りを持って長く働くという。そんな未来の明るい八戸を、ぜひ見てみたい。
(初出:デーリー東北紙『私見創見』2020年2月18日付、社会状況については掲載時点でのものです)
(了)