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夕方に食べる朝食、明るい時間にチャイの風呂
夕方までたっぷり眠ったあとに重たい身体をなんとか起こす、そうしてこしらえたトーストを朝食と呼んでみる。あすけんの女には怒られそうだけど、「朝食」として食べたものを記録する。超熟の5枚切りにハムとチーズ、半分に割ったゴールドキウイ、きな粉とはちみつ入りのヨーグルト。ほら、れっきとした朝食でしょう。物足りない時はバナナかサラダかカップスープを付け足せばかなり良い感じ。
腹も満たしたので雪駄を履いて銭湯へ。できれば明るいうちに銭湯に着いていたい。浴室の高い窓から差し込む、おだやかな光を浴びながら大きな湯船にざぶんと浸かると、心も身体もそれはそれはほどけてゆくのです。今日はチャイの風呂から香るカルダモンの匂いが心地良い。ミルク色の風呂とジェットバス、水風呂と交互に入っているうちに陽はすっかり沈んでいる。湯上がりには待合室で漫画を一冊読むことにしていて、前回は『凪のお暇』の1巻を読んだので今日は2巻。大きな声では言わないが、漫画を読みに来ていると言っても過言ではない。あんまりゆっくりし過ぎると帰りたくなくなるので、一冊を読み終えたところでお暇した。途中、スーパーでちょっとだけ買い物していると、昔の友人から「来週また集まるけど来れる?」とLINEが来る。帰宅してから「ごめんその日は予定ある!」とヘコヘコした絵文字付きで返した。本当は予定なんかないんだけど、今はちょっと気が重い。笑顔で会えそうな時にはちゃんと連絡するから、そう遠くないうちにまた会おうね。
そんな日を過ごしながら、高島鈴の『布団の中から蜂起せよ』を読み終えた。言ってしまうと、わたしはこの本を読んで文字通り布団から起き上がったひとりで、今こうしてベッドから出て飯をこさえたり、シャワーを浴びて、自転車に乗って出かけたり、あるいは特にテーマも決めないままnoteになんとなく書き始めたりできているのも、まちがいない、この本があったからだ。断言できる。
生きていることが苦しいか?この世を憎んでいるか?この世の変化を望みながら、その兆しすら見えない現状に失望しているか?布団の上で動けないまま、特に見たくもないSNSだの天井だの布団の裏側だのをえんえんと眺め、自分でも正体のわからない不安をやり過ごしているか?
あなたにもしそのような経験があるのなら、この本はあなたのためにある。
冒頭、こんな文章からこの本は幕をあける。まだ街には雪が積もっていた頃、何となく手に取ってこの最初の数行を読んだわたしは、「これは自分のための本だ」と一瞬で理解して、金欠だけど手に取ってレジに向かった。それからしばらくの時を経てやっと読み終えたところだけど、後悔はしていない。この本は一生自分の本棚に置いておきたい。
と思って狭い自室の本棚を眺めると、誕生日の前日に友だちからプレゼントされた、まだ読めていない本の背表紙が目にとまった。やわらかいフォントで書かれた『くらしのアナキズム』という文字。『布団の中から蜂起せよ』はアナーカ・フェミニストを名乗る著者によるものだったのでアナキズムにまつわる文章も多かったのだけど、正直なところ、それが一体どういうものなのかあまり分かっていなかった。ので、自室に思いがけずアナキズムにまつわる本があることに少々びっくりしている。同時にうれしい気持ちにもなった。(自分の中では)点と点だったはずの2冊の本が線になる。友だちからもらった本とは、自分に対してのささやかな祈りのようにも思えた。
日常とはこれくらい凡庸で、わたしの場合は夕方に朝食を食べちゃうくらいにはどうしようもないわけだけど、愛してやまない映画や音楽とか、自分に向けられたささやかな祈りがあることを思い出しながら、これからもどうにか生きていこうと思っているよ。というか、死ぬのも簡単じゃなさそうなので生きていかなくちゃならないっぽい。
蓮見さんが「人(受け手)に影響を与えるかどうか、テーマのあるないは意外と関係なくて、大事なのは作品のエネルギーで人が動いたかだと思うんです」って言ってたんだけど、自室で寝そべりながら読んだ『布団の中から蜂起せよ』とか『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』から伝わるエネルギーで、いま、動いている/動けていることをここに書いておきたい。
ぼんやりでも生きていれば、わたしだっていつかは誰かと、あるいは犬とかと暮らすようになるかもしれないし、座るためだけの椅子を部屋に置けたり、自分の書いた文章が本になるところを見れたりするかもしれない。大した希望も根拠もない、この国が今より暮らしやすくなる展望も見えないが、そんな日が来るのであれば楽しみではあるから、とりあえず今日もいつもの超熟5枚切りを焼いて食べる。少しだけ厚みのあるトーストを食べているわたしは、全然大丈夫じゃない。
(ちなみにこれを書いている今は眠れないまま迎えた朝で、まともな時間に海苔バタートーストを食べていますがとても眠いです。あとでコーヒーも淹れよう。)