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道後温泉旅行記2020

愛媛、松山、道後。松山周辺の都市圏には、これら3つの地名の持つイメージが混在しているように思います。愛媛といえばみかんが有名で、気候は雨が少なくて温暖。災害も中々起こりません。松山城からは海も山も見渡せて、そこから少し行けば道後温泉があります。気候が安定していて、湯治の場がある。それでいて、京都や江戸から離れており、政治的・文化的に強い影響を受けていない。危機に晒される機会が少ない都市だからこそ、正岡子規や夏目漱石に代表される、言葉の文化が成熟していったのではないか。そんな考えが浮かびます。

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10月10日。台風14号の影響で揺れに揺れたフライトから降りると、そこは東京よりも気温が10℃も高い土地でした。天候は清々しい晴れ模様で、サングラスが欲しいくらい。雨の気分に引きずられて着て来てしまったブロックテックパーカをリュックサックに押し込んで、タクシーでホテルに荷物を置きに行きます。

空港から市街地に向かう道中で、松山の特徴が分かってきます。生活圏の中に、頻繁に市電が走っていること。JRの松山駅と、市電の松山市駅は別で、住んでいる人は後者のことを「市駅(しえき)」と呼ぶこと。2022年の野球のオールスターゲームが、松山の坊っちゃんスタジアムで開催されること。そういえば、野球で有名な済美高校が、市街地のすぐ近くにあるのには驚きました。ティモンディの高岸がよく使う「やればできる!」という決め台詞は、済美高校の校訓なんですね。

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ホテルに折り畳み傘や不要な肌着を置いて、道後温泉へ。市電に乗ってしまえばすぐに到着です。それにしても市街地の中心から近い。渋谷と原宿くらいの距離感です。江戸時代のお殿様も家来も市民も、歩いて温泉に通ったのかな、なんて思いを馳せる暇もない。

道後温泉駅に着いたのは午後3時頃です。駅前に人が集まっているので何だろうと思ったら、鳩時計のモニュメントがありました。それほど動きはしないいだろうと高をくくっていたら、『坊っちゃん』をテーマにした大掛かりな仕掛けが!3重の塔が伸びて5重くらいになって、文字通りに上下左右から登場人物の人形が出てきます。想像以上に動きました。作るのに幾ら掛かったのかな、とか、そんな余計なことまで思ってしまいます。

そこから少し歩いて、子規記念博物館に向かいました。正岡子規の歴史や、松山全体の歴史を学べる市営の博物館です。館内に入ると何やら行列があり、一体何かと職員の方に聞いたら寄席が開催されるとのこと。確かに空港で飛行機から降りた時に、歌舞伎役者らしい人がミニバス乗り場に向かって歩いて行っていました。丁度偶然スケジュールが重なっていましたが、あくまでも目的は寄席ではなく展示。一通り館内を回って外に出たら、小雨が降る夕方になっていました。

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いよいよ道後温泉に向かいます。「道後温泉」という地名は、ホテルや旅館なども含んだその地域一帯を指す言葉ですが、特徴的なのが道後温泉の「本館」があること。旅行サイトでよく目にするあの写真が道後温泉の本館です。普通の温泉地には、その地域を司る象徴的な建物はありません。一方で、道後温泉は本館を中心に土産物屋や商店街、旅館が並んでいます。温泉街の作りが草津や下呂とは違うのが興味深いですね。

肝心の温泉はというと、かなり質素な銭湯という感じで、少し拍子抜けしました。汗を流すというよりは、歴史を楽しむための施設です。タオルや石鹸なども備え付けされていないので、ホテルなどから持っていけば良かったですね。しかも残念ながら改修中で、2階など一部の箇所には立ち入りできませんでした。でも風情は満点です。

外に出て、じゃこ天やみかんジュースやみかんビールを楽しんでいたら、いつの間にか夕方の良い時間に。市電で大通りの辺りまで戻ってきて、周辺を散策した後に名物の鯛めしを食べに行きました。名前からは炊き込みご飯を想像しますが、松山の食べ方はだいぶ違います。平たく言うと、めんつゆ味の卵かけご飯に、鯛の切り身や薬味を混ぜて食べる料理ですね。元々は瀬戸内の海賊が食べたという逸話もあります。肝心の味はというと……。間違いなく美味しいんですが、天井のある美味しさだなと思ってしまいました。卵かけご飯に薬味を混ぜて、魚の切り身と一緒に食べる。美味しいに決まってるんですけど、これを超高級食材で作ったとしても味は変わらなさそうです。でも美味しい。郷土料理ということで、体験を楽しみました。

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翌朝。松山城に向かう道中に、『坂の上の雲』で知られる秋山兄弟の出世地があったので立ち寄りました。ドラマは見ていなかったものの、日本の現代史は興味深いです。時系列は前後しますが、この後に『坂の上の雲ミュージアム』にも立ち寄りました。あんまり知らない内容が多かったんですけど、文化がある町は良いですね。『坊っちゃん』『坂の上の雲』と、地方土地ながらに誰もが知っている有名な作品の舞台となっているのがお洒落です。

さて、遂に松山城へ。山の上に向かうために、なんとスキー場にあるようなリフトが用意されています。お金はかかりますが、この時間が最高でした。周りに人は居らず、自然の音だけが聞こえます。喧騒から離れた空間から離れて、グワングワンと山頂に近づいていきました。

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松山城は、今まで訪れた城の中で最も良かったと言っても過言でははありませんね。天守閣が現存していて中に入れます。周りを見渡せば一方は海でもう一方は山、見下ろせば城下町と道後温泉。歴史も立地も素晴らしく、それでいて観光地然としすぎていません。押しつけがましくない風情があります。松山の観光でここは絶対に外してはいけない、名跡です。

この後は坂の上の雲ミュージアムに向かって、一通り展示を観終わった後は昼食を軽めに済ませました。何をするわけでもないんですが、飛行機までの時間が少し余ってしまい、さてどうしようかという話に。結局松山坊っちゃんスタジアムを見に行くことになりました。時々プロ野球の中継で見ることもある球場ですね。阪神が9回2アウト3ストライクから逆転負けしたのも確かこの球場でした。今は独立リーグの愛媛マンダリンパイレーツが本拠地として使っています。以前は、元360℃モンキーズの杉浦が所属して投げていましたね。空が広い中に佇んでいて、良い球場だなあと思います。アクセスが少しだけ悪いですが、それ以外は完璧。オールスターも見に行きたいものです。

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最後に道後温泉にもう1度浸かって、旅の疲れを癒しました。前日とは違って、入浴したのは道後温泉の別館。小綺麗でなかなか良かったです。疲れた足を楽にして、べとべとになった汗を流して外に出ました。最後にもう1回鯛めしを食べた後は、お土産を買いに行きました。国内線の飛行機って、蓋が開いていないものであればアルコールも持ち込めるんですね。GoToトラベルのクーポンを有効活用して、酒を買って帰ってきました。揺れもなく快適に羽田に戻ってきて、旅も終わり。楽しい時間でした。

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松山は良い都市でした。文化と歴史と、山と海、そして都会と田舎が近くに集まっています。国内外の様々な都市を訪れた中でも、横浜の次に好きです。ここなら住んでも楽しいだろうなと思えます。老後を松山で過ごせる人はきっと幸せ。タクシーの運転手さんは「何もないよ」と言っていましたが、そんなことはありません。欠けているものが無いんですから。もう1回行きたい、というよりは、ここに住みたいと思う。そんな都市が松山です。

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