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『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』感想

中国発のアニメ映画として巷で話題の『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』。事前情報を入れずに真っ新な心持ちで観てきましたが、ご多分に漏れず映像のクオリティの高さに驚いてしまいました。日本のアニメーションに影響を受けているのは明白ですが、単なる模倣ではなく、中国的な質感に落とし込まれています。しかもそれが動く動く。序盤から終盤まで、戦闘シーンに妥協がありません。ストーリーも王道です。角が無い作品で、40歳くらいまでの人であれば老若男女が楽しめる作品なのではないでしょうか。


以下はネタバレを含みます。

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まずストーリーの話から。テーマは異種族の相互理解+師匠と弟子というベタな組み合わせですが、洗練されています。映画が始まってから約20分経って気付いたのは、セリフが必要最低限しか用意されていないこと。妖精や異能力、館といった用語が唐突に出てきますが、あえて序盤では説明しすぎず、自然な会話に留めています。中盤になってから初めてぼんやりと概要が説明されますが、それも世界観の全てを説明してはいません。『とある魔術の禁書目録』『NARUTO』『鬼滅の刃』など、能力系アニメの素地がある程度あれば、なんとなく理解できてしまうからでしょう。メタ的な知識が多少求められる分、あまりアニメを見ていない層にとってはチンプンカンプンに受け取られるかもしれませんが、素地のある人にはクドさを感じさせない作りになっています。

そしてストーリーがA級のレベルであるとすれば、アクション・アニメーションの出来はAAA級。序盤から普通の映画のクライマックス級の表現が続き、最後の決戦ではテンポもエフェクトも豪快で爽快な表現が飛び出てきます。街を一つ丸ごと更地にするスケール感も、グルグル回るカメラワークも、普通のアニメ映画とはちょっと次元が違う。武者震いのような感覚を、初めてアニメのバトルシーンで感じました。

動画0:51~。少ししか出ていないが、このレベルのアクションシーンが序盤から展開される。化け物。

アニメーションの凄さはアクションだけにはとどまらず、細かな所作にも表れています。キャラの目線の一つ一つの動きまで細かく考えられていますし、森や建物といった構造物の書き込みも丁寧。食事だってどれも美味しそうです。ギャグがテンポ良く挟まるので見落としてしまいそうですが、本筋の中で記号化された表現は全然出てきません。定型に収まるキャラがおらず、しっかり書き込まれているのが見て取れます。作りがとにかく丁寧で、粗が見えません。だからこそ角がないです。作画が怪しいアニメを見た時って、「今のアニメ業界は人材不足だから、多少荒くても仕方ないよね…。」という製作者側の視点に立ってしまうことがあるんですよね。でもよく考えれば、一視聴者としては関係のない話。何も配慮することがなく、視聴者として没頭できる完成度を保っています。

この作品は、アニメ映画のお手本のようですね。キャラ、ストーリーといったあらゆる要素が優秀で、その上でアクションが飛びぬけて素晴らしかったです。中国発のアニメに対する認識を変えざるを得ません。表層的な模倣に留まらないオリジナリティをここまで持っているとは。ゲーム業界ではMinecraftがMojangから生まれたように、また携帯電話業界ではスマートフォンがAppleから生まれたように。日本が得意としていたアニメ映画業界において、新世代のデファクトスタンダードとなる映画は中国から生まれてくるかもしれない。そんな可能性を感じる映画でした。

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