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【刺小説】キャパオーバー

僕には、腐れ縁の友人がいた。

小学校で出会って以来、社会人になった今でも度々会う仲。
かれこれ、20年以上の付き合いだ。

彼はあまり要領が良くない。
勉強も運動も、上手くこなせるタイプではない。

でも、好奇心は旺盛で、とにかく新しいものが好き。
ゲームを次々と買いあさり、休みはいつも留守だった。
そのお陰か、彼と話していると、話題に尽きなかった。

ただ、話を聞けたのは一度きり。
後日尋ねてみても、彼は覚えていなかった。


年を重ねるにつれ、提供してくれる話の幅は
広がっていった。

有名人のゴシップ、遠い異国の経済事情、最新のテクノロジー。
どこで仕入れてきたのか、気になる情報ばかり。
時には、信憑性の無さそうなものもチラホラ。

一方、忘却の程度も酷くなっていた。
嘗てのクラスメイトの名前に、一緒に遊んだ場所。
彼に過去をぶつけても、一切反応が無かった。
それが、つい最近のことだとしても。

それに、様子もどこかおかしい。
落ち着きが無いし、周囲の風景や些細な出来事にも無反応。
何かに憑かれている様だった。


彼の体調が気になり調べていると、
興味深い記事を見つけた。

『人の記憶には限界があって、どうでも良いことから忘れていく』

――なるほど、アイツの記憶はキャパオーバーなんだ。
それなら、情報収集を止めさせないと……!

僕は意気込み、彼を呼び出した。


地元駅前の広場。
中央に立ち尽くす彼の姿があった。
僕を探しているのか、周囲を忙しなく見渡している。
僕は急ぎ足で彼に近付いた。

「よ。早かったな」

すると、彼は目を丸くして言った。

「……すみません。ここってどこですか?」


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