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プリミティブな喜び

今回は私がなぜか無性に気に入っている、ある道具を紹介しようと思う。

無数の金属の細い棒が、びっしりと一列に並んでいる道具である。
この金属の部分は、左右どちらかから押すとこのように移動させることができる。

さて、これは一体なんのための道具なのだろうか。


正解は「有機的な形状に押し当てて、そこの型を取る道具」である。
試しに、私の家にあるドアの細窓部分の形状を取ってみた。

知っている人もいたかもしれないが、これは「パターンゲージ」「型取りゲージ」「コンターゲージ」などと呼ばれる道具である。

検索してみると使い方の例がいくつか出てくるが、例えば部屋の角の少し複雑な部分を型取り、その形に合わせて木材を綺麗に切ったり、DIYなどの場面で役立つようである。

ここまでに書き方で、もしかしたら伝わってしまったかもしれないが、実は私はこの道具を全く使いこなせていない。
というより、生活の中で必要になった場面がまだ一度もない。

特に必要性はなかったのだが、なぜかこの道具の存在を知った瞬間に「ぜひとも欲しい!」と強く感じてしまったのである。
(そして、その話をした友人が、幸運にもプレゼントとして私に贈ってくれたのである。)

何が好きかと聞かれると難しいのだが、思いつく主な二点は以下である。

①「転写」の喜び
この道具でできる「転写」という行為自体が、とてもプリミティブ(原始的)でなんだか魅力的である。何気ない形状でも、実際にそこに道具を押し当てていく手応えと、そこで取れた「形状のみ」を持ち運んだり観察できることに喜びを感じる。
計測した対象物から離れ、切り取られた「形状のみ」を見ていると、自分で計測したという経験やサイズが実寸であることなどが相まって、写真による記録などととは違った妙なリアリティを感じてしまう。

②アナログとデジタル
この道具にはアナログとデジタルの考え方がどちらも入っている。
アナログとデジタルという言葉の本来の意味は以下である。
アナログ:情報を連続的な量として扱うこと。そういう仕方の情報処理方式。
デジタル:情報をとびとび(=離散⑵)の値による符号にして表すこと。そういう仕方の情報処理方式。
(Oxford Languagesの定義)

この道具において、それぞれの金属棒の移動量は滑らかで無段階なのでアナログと言えるが、横方向は金属棒の本数に限りがあり段階的になっているためデジタル的と言える。この金属の本数は、いわば計測の解像度ということである。
そのような対義語の関係にある二つの概念が目に見えて同居している様子に、なんだか嬉しくなってしまう。


と書いてみたものの、もちろんこれだけが好きな理由ではない。

専門性の高さと道具としての抽象度の具合が丁度いいとでも言えばいいのか、例えるなら初めてコンパスで綺麗な円を描いた時の感動に似ているかもしれない。
そして単純に物としての見た目や質感にも惹かれてしまった。

この道具を実際に使う機会が訪れればそれはそれで素晴らしいことだが、私はこれを持っているだけでなんだか少し幸せなのである。


遠藤紘也
ゲーム会社でUIやインタラクションのデザインをしながら、個人でメディアの特性や身体感覚、人間の知覚メカニズムなどに基づいた制作をしています。好きなセンサーは圧力センサーです。
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