味覚少年テベロ 【第一話】 『僕の手はベロでできている』
今回は普段とは少し趣向を変えて、生活の中で発見した味覚にまつわる様々な気づきを、オリジナル小説として発表してみようと思います。拙い文章ですが、温かく見守っていただけますと幸いです。
それではスタートです。
味覚少年テベロ 【第一話】
『僕の手はベロでできている』
僕の名前は美味志河 テベロ。(※声のイメージは梶裕貴さんで!)
どこにでもいる普通の中学2年生。成績は中の上くらい。顔も体格もいたって平凡な、本当にどこにでもいる何の変哲もない14歳だ。
あっでも僕には1つだけ、皆んなに隠している秘密がある。それは、右手と左手がベロでできているということ…。
生まれたときから両手に味覚能力が備わっていた僕は、身の回りの物に触れただけで、その味を的確に当てることができた。
鉄棒を握れば苦く、自分の髪を触ればパサパサとしてちょっと気持ち悪い感触に襲われた。母さん曰く、これもある種の超能力らしいのだけど、僕はこの能力が嫌いで仕方ない。だって、味がうるさくて普通に生活できたもんじゃないんだもん。
そんなこんなで、この秘密がクラスメイトにバレないように、今日も僕は軍手をはめながら学校に登校した。
「あ〜あ、相変わらず軍手の味は苦手だな。せめて香り付き消しゴムみたいに、フルーツみたいな匂いが付いてればいいのに」
「って、そんなこと考えても仕方がないか。それにしても、今日はいい天気だ。こんな気持ちのいい日は、海とかに行って思いっきり水遊びしたいな」
教室の窓から見える空は快晴で、太陽が燦々と輝く絶好の海水浴日和だった。
「でも僕の手はベロでできてるから、海水がしょっぱすぎて水遊びどころじゃないか!てへぺろ(両手を口から出るベロのように制服の袖から出しながら & この仕草をする時テベロはSD体型になる)」
「テベロ君、おはよう!」
教室の後ろから女の子の声が聞こえる。この声は!
「あ、ムミちゃん!おはよう!」
(※声のイメージは花澤香菜さん)
「今日は千鳥格子柄の軍手をしてるんだね!相変わらず色んな種類の軍手持ってるね!」
「うん、母さんが色んな軍手買ってきちゃうんだ。ハハ…」
彼女は僕の幼馴染の朝月ルリ。
皆からは下の名前でルリちゃんと呼ばれているけど、僕だけは彼女のことをムミちゃんと呼んでいる。その理由は、一度だけ素手で握手をしたときに全然味がしなかったから。つまり手がムミ(無味)なのだ。
たいていの人間は手に汗をかいているので、握手をするとだいたいしょっぱい。しかし、子どもの頃に握ったムミちゃんの手は、まるで天然の湧水のように、一切のノイズがない透き通った味わいだったのだ。
僕は、そんなムミちゃんのことが、割と、好きだ。
キーンコーンカーンコーン♪
「あ、チャイム!一時限目は国語だったよね。それじゃあまたね!テベロ君」
「あ、うん、また!」
ムミちゃん、今日も軍手の柄に気づいてくれた!嬉しいような、不安なような。でも、もしムミちゃんが、僕の手がベロでできてることを知ったら一体どう思うんだろう。
右手も左手もベロだなんて、そんな突拍子もない話、さすがに信じてもらえるはずがないよな。さてと、変なこと考えてないで、早く国語の教科書を机に出さないと。
エナメルで覆われた鞄から、国語の教科書とノートを取り出す。
ちなみに僕は国語の教科書の味もちょっと好きだ。何でか分からないけど、懐かしい味がするんだよね。ほら、本の香りが好きな人っているでしょ。多分そんな感じの感情。ま、今は軍手をはめてるから、軍手の味しかしないんだけど。
チャイムが鳴り終わるとともに、国語教師兼、うちのクラスの担任でもある五味咲先生(通称みさきっち)がやってきた。
「え〜皆んな、一限目は予定通り国語なんだけど、今日はその前に帰国子女の転校生が来ることになったので、ちょっと彼の紹介をさせてくれる〜?」
(※声のイメージは早見沙織さん)
いつも通り、相変わらずのマイペースで、ビッグニュースをぶちかましてくるみさきっち。突然降って湧いたニュースにクラス中がざわめき始める。
「転校生の話なんて聞いてた?」「知らない〜」「帰国子女だって」「誰々!?」
皆んなお子ちゃまだな。転校生くらいではしゃいじゃって。
それにしても転校生か。こんな唐突にやってくることもあるんだな。家の事情ってやつかな。
「それじゃあ入ってきて〜、甘蔵君」
ガラガラガラ
扉を開けてやって来たのは、まるでアメコミのキャラクターのように端正な顔立ちをした少年だった。
「アメリカの学校から転校してきた甘蔵 飴太郎です。向こうではキャンディーって呼ばれてました。よろしく」(※声のイメージは神谷浩史さん)
黒板に名前を書いて自己紹介を終えた甘蔵 飴太郎は、一瞬誰かを探すようなそぶりを見せた後、僕の方を直視して口元を緩めた(気がした)。
ふいに目があってしまった僕は、なぜか軍手をはめた手をとっさに背中の後ろに隠した。
「それじゃあ甘蔵君、君の席は美味志河君の横ね〜」
どうやら僕の右隣が、飴太郎君の席のようだ。
垢抜けた彼の雰囲気に圧倒されたのか、なぜか高鳴る鼓動に違和感を覚えながら、ぎこちない笑顔で隣にやってきた彼に、軽く挨拶をする。
「あ、あの、僕の名前は美味志河 テベロです。よ、よろしく…」
「テベロ…君か…」
「フフッ、なんだか僕たち、いい友達になれそうだね」
不敵な笑みを浮かべながら、僕を見つめる飴太郎君。
このとき僕は、まだ想像もすることなんてできなかった。
飴太郎君の正体を。そして、彼が企む、世界征服の陰謀を。