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舞台美術と大工
舞台美術とは、「大道具」さんの事です。舞台美術の方の中には「大道具」と呼ばれることを嫌う人もいます。舞台上の建物などを作る人です。本物の大工さんとはちょっと違うのです。
ある舞台作品で、関係者の知り合いで、本物の大工さんが手伝いに来てくれたことがあります。舞台美術と大工はいろいろ違うので、仕事の分担をしました。
舞台は古民家の裏庭。古い井戸があります。舞台美術家は古民家を、大工さんは古井戸を作ることになりました。
見事な舞台のセットが出来上がりました。舞台美術の古民家も大工さんの古井戸も見事な調和を見せています。公演は無事千秋楽を迎えました。後は、片付けるだけです。舞台の後片付けの事を「バラシ」と呼びます。
ところが問題が。大工さんの作った井戸がバラせないのです。大工さんはバラしには手伝いに来られませんでした。舞台美術家たちが頑張ってもなかなか分解できないのです。
舞台上のセットは、「バラシ」を考えて組み立てます。釘なども危険のない場所は完全に打ち込んだりしないで、頭を少し出しておきます。舞台の裏側というのは心配になるほどシンプルなつくりになっています。それは公演期間の間だけ安全ならいいからなのです。そして「バラシ」の時には簡単に分解できるようにしてあるのが正しい舞台美術です。分解した木材は次の舞台に使ったりします。リサイクルです。
大工の仕事は違います。大工に「バラシ」はないのです。台風が来ようが、地震が来ようが分解しないものを作る大工の仕事です。何十年でも百年でも壊れない家を作るのです。取り壊す時は重機でやればいいのです。大工の仕事に「バラシ」があるとしたら、文化財の移築など特殊な場合でしょう。きっとそれを専門とする大工さんがいるのだと思います。
私は似たような仕事だろうと思っていましたが、やはり違うんですね。子どものころは、警察官と警備員の区別がつきませんでした。違いますね。警察官は銃を持っています。私たちが似たような仕事だと思っていても、実際は違う仕事がたくさんあるんでしょうね。
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イラスト by freehand