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「ダークエルフの骨董屋(アンティーク)」第二話「雌飛竜の涙の香水」
<第二話>
○骨董屋『下弦の月停』・表(夜)
リイナの声「やってらんねえわよ!!」
○同・店内(夜)
べろんべろんに酔った、踊り子のリーゼ(27)。
呆れてリイナを見ているマレーネとリティ。
リティ「誰? こいつ?」
マレーネ「知らん」
リーゼ「ねえ、私が何でこんなに怒ってるか知りたい?」
マレーネ「いや」
リティ「別に」
リーゼ「14歳の時に踊り子になるためにこのドルムントに来て、踊り子のス
ターだったわ……。半年前までは」
リティ「こいつ勝手に自分の半生を語り始めたぞ」
○(回想)劇場(昨晩)
ステージ上で踊るリーゼ。
ガラガラの観客席。
リーゼの声「それが後輩の子に人気を奪わられ、昨晩、興行主から解雇を告
げられたの……」
○元の「下弦の月停」・店内(夜)
リーゼの話を興味のなく聞くマリーネとリティ。
リティ「で?」
リーゼ「今朝、たまたま踊り子の後輩だった子と出会って……」
○(回想)ドルムント王国城下町・広場(夕)
元気なく歩くリーゼ。
ハンナの声「リーゼさん?」
振り返るリーゼ。
三つ編みでそばかすのハンナ(23)が立っている。
リーゼ「ハンナじゃない! 踊り子を辞めて今は何をしているの?
ハンナ「大通りの花屋で売り子をしてます」
リーゼ「そう。あなたらしいわ」
ハンナ「リーゼさんにご報告したいことがあって。この度、結婚することに
なりました」
リーゼ「本当!? おめでとう!!」
フリックの声「ハンナ」
リーゼ、声の方を向く。
裕福な商人のフリック(26)が立っている。
高身長でイケメンだ
ハンナ「紹介します。私の夫となるフリックです」
ニコニコ笑顔のハンナ。
さわやかな笑顔のフリック。
リーゼを必死で笑顔を作って、
リーゼ「まあ、素敵な人と巡りあえてよかったわね」
○元の「下弦の月停」・店内(夜)
リーゼ、突然、泣き出す。
リーゼ「私が真面目に踊っている間、ハンナは上物の男ゲットしていたの
よ!」
関心なさそうなマレーネ。
マレーネ「人気の踊り子だったんだろ? お前にも男性の一人や二人いるん
じゃないのか?」
リーゼ「いるにはいるけど……」
○(回想)劇場
ガラガラの観客席でリーゼを応援する肥満体のサンチョ(38)。
サンチョ「俺はリーゼたん一筋だから!!」
リーゼM「どうしても恋愛対象には見れないのよねー」
○元の「下弦の月停」・店内(夜)
リーゼ、駄々をこねる。
リーゼ「ハンナみたいな、私より、可愛くなくて踊りも下手な子があんな金
持ちのイケメンを取っ捕まえるんだから、私はそれ以上の金持ちでイケメ
ンな相手じゃなきゃやだ!」
リティ「この女、本音をぶっちゃけ始めたぞ」
マレーネ「と、いうことは男にもてるようにすればいいのだな」
マレーネ、ごぞごそと棚から香水の瓶を取り出す。
リーゼ「香水? 香水ぐらい私も使っているわよ。王室御用達の」
マレーネ「ただの香水ではないぞ。雌飛竜の涙から作った香水だ」
リーゼ「雌飛竜?」
○イメージ・エーツ山脈
巨体の雌飛竜が涙を流している。
マレーネの声「ああ。エーツ山脈に生息する、寿命1万年の飛竜の発情期は
わずか3年あまり。その3年の間に雌の飛竜はフェロモンたっぷりの涙を流
して雄の飛竜を惹き付け交尾を行うんだ」
○元の「下弦の月停」・店内(夜)
マレーネの説明が続く。
マレーネ「雄の飛竜をメロメロにしてしまうほどの効果だぞ。人間のオスな
ぞイチコロだ」
リーゼ「なんだか胡散くさいんだけど……」
マレーネ「なら、いい」
マレーネ、雌飛竜の涙の香水を片付けようとする。
リーゼ「嘘です! 嘘です! 私が買う!! 有り金全部払うから!! 」マレーネ「一つだけ使用する際の注意。使用の際は必ず1プッシュだ。それ
以上はダメだ」
リーゼ「わかった。わかった」
リーゼ、金貨で支払い、香水を購入する。
○集合住宅・リーゼの部屋・内(日替わり)
二日酔いのリーゼ。
リーゼ「あ~。気分悪いわ~。昨日は飲み過ぎた~」
手には雌飛竜の涙の香水。
リーゼ「本当に効果あるのかしら?」
香水を1プッシュ。
リーゼ「何よ。これ。全然匂いがないじゃない!」
ドアがドンドン叩かれる。
大家の声「ちょっと、今月の家賃払ってくださいよー」
リーゼ「大丈夫です。ちゃんと払いますんで」
○ドルムント王国城下町・目抜き通り
靴や小物と言った、貴族や富裕層向けの高級店が並ぶ。
店員募集がないか探すリーゼ。
リーゼ「踊り子は全然金くれなかったから、貯金はないし。仕事をしない
と」
貴族用の服を売っている店の前で足が止まる。
リーゼ「こんな素敵なお店で働いたら素敵な殿方との出会いがあるかし
ら……」
貴族のフルメンス(28)が店の中から出て来て、リーゼとぶつかる。
尻もちをつくリーゼ。
リーゼ「どこ見てるのよ」
フルメンスの手が差し出される。
フルメンス「申し訳ございません。お怪我はないですか?」
高身長のイケメンのフルメンス。
リーゼM「あら、イケメン」
リーゼ、急にしおらしくなり、
リーゼ「いえ、大丈夫です」
フルメンス「いけない。洋服が汚れてしまっている」
リーゼ「いえ、お気になさらず」
フルメンス「それでは僕の気がすまない」
フルメンス、リーゼの手を取り、高級婦人服店へ向かう。
リーゼM「ひょっとして、これが香水の効果?」
○高級レストラン・店内
テーブル席で食事をするリーゼ、フルメンス。
リーゼは新品のドレスを着ている。
フルメンス「ここのお店の料理。お口に合いましたでしょうか?」
リーゼ「ええ。とても」
リーゼ、ナプキンで口元を拭う。
リーゼ「今日は本当にありがとうございます。こんな高いドレスも買ってい
ただいた上にこんな美味しいお料理もご馳走になって……」
フルメンス「いえ。こちらの責任ですので……」
リーゼ「まさか、名門フルメンス家のご長男とは、聞いてびっくりしまし
た」
フルメンス「名門だなんて。ただ、祖父が大臣を経験したくらいですよ」
フルメンス、ナイフとフォークをテーブルに置く。
フルメンス「あの……。お願いがあるんですが……」
リーゼ「何でしょうか?」
フルメンス「また、こうやって二人きりであってくれますか?」
リーゼ、満面の笑み。
リーゼ「はい」
リーゼM「キタキタキター」
○市場(日替わり)
買い物デートをするリーゼとフルメンス。
○庭園(日替わり)
花を見ながら、談笑するリーゼとフルメンス。
○オペラハウス(日替わり)
VIP席でオペラを鑑賞するリーゼとフルメンス。
○集合住宅・リーゼの部屋(日替わり)
頭をかきむしるリーゼ。
リーゼ「1ヶ月も経過したのにプロポーズしてこねえ!! 奥手なの?」
ドアがノック。
大家「ちょっと、家賃まだなの!!」
リーゼ「今日中にちゃんと払いますから!」
雌飛竜の涙の香水を手にしている。
リーゼ「少しくらいいいよね」
リーゼ、香水を次々とプッシュし、全身に振りかける。
○ドルムント王国城下町・広場
噴水前に向かうリーゼ。
フルメンスの姿を見つける。
リーゼ「遅れて申し訳ございません」
フルメンスの頬が赤くなる。
フルメンス「リーゼさん……。今日はまた一段とお美しい……」
フルメンス、片膝をつく。
フルメンス「リーゼさん、伝えたいことがあります」
リーゼ「何でごさいますでしょうか?」
通行人Aの声「私と結婚していただけませんでしょうか?」
リーゼM「やったー! 大勝利……!! ん?」
リーゼ、声の方を向く。
見ず知らずの男性の通行人。
リーゼ「お前、誰だよ!」
フルメンス「リーゼさん、そのお方は?」
リーゼ「違います! 全然関係ない人です!」
通行人B「結婚してください!」
通行人C「結婚してくださいな!」
通行人D「おい! 結婚しろ」
男性の通行人から次々とプロポーズされるリーゼ。
通行人A「何だお前ら」
通行人B「お前こそ何だよ」
通行人C「やんのか? こら」
通行人D「ボコボコにしてやんよ」
遂に通行人同士で殴り合いの大げんか。
リーゼ「何よ。これ?」
マレーネ「いいつけを守らなかったな」
リーゼの横にいつの間にかマレーネとリティ。
リーゼ「な、何が悪いのよ!」
リティ「実はあれは惚れ薬ではなく、女性パーティーが雄モンスターを混
乱させて同士打ちにさせるために使用するものなんだ」
マレーネ「300年前、とある女性パーティー一行が雌飛竜の涙の香水を使っ
て旅に出てな。旅の途中に出くわした屈強な雄のオークやリザードマンが
同士討ち」
リティ「ところが村に立ち寄ると子どもから老人まで男たちもみな、香水の
ために混乱して殺し合いとなり、村は全滅」
リーゼ「はあ? とんでもなく危険なブツじゃない! 何でそんな大事なこ
と言ってくれないのよ!」
マレーネ「『人間のオスなどイチコロだ』と言ったではないか」
リーゼ、怒りをこらえる。
リーゼ「とにかく、フルメンス様、二人でここから逃げましょう!」
リーゼ、横を向くとフルメンスはサンチェのチョークスリーパーを食ら
い、口から泡を吹いて失神。
リーゼ「サンチェー!? 何やってんだ!! てめえー!!」
フリックがリーゼにとびかかる。
フリック「リーゼさん、私と結婚してください」
怒りのハンナがナイフでリーゼを刺そうとする。
ハンナ「この泥棒猫~!」
リーゼ「ご、誤解よ!」
リーゼ、外へと向かって走って逃げる。
○ドルムント王国・周辺の森
目がハートの複数のゴブリンに襲いかかられるリーゼ。
リーゼ「いや、こっちこないで!!」
ゴブリンを足蹴するリーゼ。
突然、ゴブリンが一斉に恐れをなして逃げていく。
リーゼ「ひょとしてフルメンス様?」
リーゼの後ろには、3メートルはある醜い顔のトロル。
目がハートのトロル、リーゼを両手でつかむ。
リーゼ「きゃああ!! 助けていくぇぇぇえ」
リーゼの様子を遠くから眺めるマレーネとリティ。
マレーネ「よかったな。素敵な殿方と出会えて」
(第二話 完)
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