
「ゆるくないっすよ!! ししまるさん」第2話
〇 雑居ビル・漫画喫茶
個室でテレビを見る、真田と小山田。
真田「テレビで”ししまるくん”の特集をやるって本当かよ?」
小山田「これからです」
テレビは獅子が丘のローカル番組『こんにちは 獅子が丘』が流れ
る。
〇 ローカルテレビ番組『こんにちは 獅子が丘』
昼の情報番組。
『人気上昇中‼ ”ししまるくん”現象全国へ』とのテロップ。
キャスター「この前のコンビニ強盗の一件以来、『ゆるくないゆるキャラ』
として”ししまるくん”の人気が高まっているようですね」
女子アナ「動画投稿サイトに投稿された、”ししまるくん”の強盗撃退動画は
再生回数100万を超えました」
〇 山県組・事務所
テレビで『こんにちは 獅子が丘』を観ている組員たち。
山県組組員A「へっ、人気あるんだな。”ししまるくん”」
山県組組員B「お前もゆるキャラに入ってみたらどうだ? 金になるんじゃ
ねえの?」
笑いあう組員たち。
山県の声「うるさい‼」
黙る組員たち。
組長の椅子に座る山県。
山県「呑気にテレビなんか観てんじゃねえぞ‼」
山県組組員A,B「は、はい」
萎縮する組員たち。
山県「それよりも、高坂の野郎をいつ殺るんだ?」
山県組組員A「へ、へい……。それなら今度の日曜、若いのを使わせてやる
ことになりましたんで……」
山県「絶対に失敗するなよ。確実に仕留めろ。7年前は失敗して、偉い目に
あったんだからな……」
額の傷を押さえる、山県。
山県「今でも額の傷が疼きやがる……」
〇 高坂組・事務所
ソファに座り、『こんにちは 獅子が丘』を観ている組員たち。
高坂組組員A「何か、最近ピリピリしてねえか? 親父……」
高坂は組員を叱責している。
高坂「わかってんのか‼ てめえは‼」
高坂組組員B「山県に狙われている不安もあるんだろうな。それに7年前の
トラウマもあるんだろう……」
高坂組組員A「『第三次獅子が丘抗争』のことか。当時の黒龍会と獅子王会
との全面抗争で、真田が単独で黒龍会系の事務所を一人で片っ端から乗り
込んで、全員半殺しに……」
高坂組組員B「その抗争で返り血で真っ赤に染まった真田の姿を見て、この
業界の人間は真田を『血染めの唐獅子牡丹』と呼ぶようになったと」
高坂組組員A「そう言えば、真田はどこにいるんだろうな。ムショからはも
う出ているんだろ? 獅子王会も解散したしな」
テレビは、ボールペン、ぬいぐるみ、ストラップにTシャツなど、”し
しまるくん”グッズの紹介をしている。
高坂組組員A「しかし、どんな野郎が、”ししまるくん”の中身に入ってるん
だろうなあ」
高坂組組員B「案外、真田だったりな」
高坂組組員A「まさかあ」
笑い合う、高坂組組員たち。
〇 漫画喫茶・個室
札束を数える普通の恰好の真田と小山田。
部屋の中には、”ししまるくん”のボールペン、ぬいぐるみに、ストラ
ップ、Tシャツなどグッズであふれかえっている。
小山田「ゆるキャラって、いいシノギになるんですね。笑いが止まらねえ
や」
真田、不機嫌な表情。
真田「……」
小山田「どうしたんですか? アニキ?」
真田「というか、いつになったら萌香に会えるんだ?」
小山田、手帳を開いて、
小山田「ちょっと、待ってください。近いうちにししがおか商店街でのイベ
ントのオファーがあるんですよ。ひょっとしたら、そこで萌香ちゃんと会
えるかも……」
真田「本当か?」
真田、喜びの表情。
〇 小学校・教室
”ししまるくん”を蹴った松永、三好、細川の悪ガキ三人組が周りの男
子に自慢げに語っている。
松永「”ししまるくん”をこの前蹴ってやったんだぜ!」
三好「あいつ超弱いんだぜ~‼」
細川「つまり、俺らが最強ってことなんだな」
離れたところで、その集団を冷ややかに眺めている萌香、結愛、花
蓮。
結愛「やだー。男子って野蛮―」
花蓮「それより、萌香ちゃん、そのボールペンは?」
萌香「ママに買ってもらったの。可愛いでしょ」
萌香の手には、”ししまるくん”のイラストが入ったボールペン。
結愛、花蓮「いいなあ~。かわいい~」
照れる、萌香。
花蓮「そう言えば知ってる? 今度、”ししまるくん”が商店街に来るんだっ
て」
結愛「その話、私も知ってるよー。ネットニュースで見た」
萌香「えっ!? 本当? 私、”ししまるくん”に会いたい!!」
〇 ししがおか商店街
警視庁主催の『暴力団追放キャンペーン』が行われている。
警察関係者や商店街組合関係者たちが『暴力団追放』の襷をかけて、
「暴力団を獅子が丘から追放しよう」と声をかけながらビラ配りをし
ている。
その中に”ししまるくん”姿の真田も『暴力団追放』と書かれた襷をか
け、ビラ配りをしている。
隣の”ししこちゃん”姿の小山田も、ビラ配りに参加している。
真田「どういうことだよ。なんでヤクザの俺たちがサツに協力して、『暴力
団追放運動』のビラ配りなんてしているんだよ‼」
小山田「だって、萌香ちゃんに会えるためなら何でもやるってアニキ言って
いたじゃないですか」
真田「それでもヤクザのメンツってもんがあるだろ‼」
小山田「女性のファンだって沢山来てくれるかもしれないじゃないですか。
アニキ女好きだし……」
真田、小山田を腹を思いっきり殴る。
小山田、腹を押さえながら、
小山田「いてて……」
真田「おい、竜二。馬鹿を言ってんじゃねえぞ‼ 俺は漢の中の漢だぞ‼ 女
にキャーキャー言われたぐらいで、浮かれる俺だと思うか……」
女子大生Aの声「あー。ししまるくんだー」
振り返ると二人組の女子大生。
無茶苦茶可愛い。
真田に近づき、
女子大生A「握手してー」
女子大生B「(ししまるくんの頭をなでながら)わー、かわいい~」
真田、テンション高くなり、
真田「いつも応援、ありがとう‼ うれしいよ♪」
小山田M「うわあ……」
× × ×
女子高生の3人組の集団と、スマホで一緒に写真を撮っている真田。
両脇にはちゃんと美少女を侍らせている。
無茶苦茶女子高生と密着している真田。
女子高生「はい、チーズ‼」
真田「チーズ‼」
真田、ノリノリでピースをしている。
遠巻きで真田を眺める小山田
小山田M「ノリノリになってるよ、このオッサン」
× × ×
お姉さん系OLとハグしている真田。
OL「ししまるくん、大好き」
真田「僕も大好きだよー」
真田のハグする手つきがやらしい。
小山田M「ただのセクハラ親父だよ……」
酔っ払いの声「フン! 何が”ししまるくん”だ‼」
ワンカップの酒を片手に持った、酔っ払いのジジイが通行人に絡んで
いる。
酔っ払い「いい年した大人が着ぐるみなんか着て恥ずかしくないのか? そ
う思わね?」
他の通行人にも絡みだす、酔っ払い。
酔っ払い「こんな、愛嬌もないただの着ぐるみがチヤホヤされるなんて、世
も末だわ」
通行人、迷惑そうにしている。
真田、酔っ払いの男にゆっくり近づき、いきなりハグをする。
酔っ払い「な、何だよ⁉ 突然、は、離しやがれ!」
真田「やだなあ、せっかく獅子が丘市の市民どおり、仲良くしようよ」
酔っ払い「や、やだぞ。誰が仲良くなるものか……」
酔っ払い、真田を振り払おうと抵抗するも、真田の力が強く振り払え
ない。
さらに力をいれる真田。
酔っ払い「いたた……」
真田「(ドスの利いた声で)酔っ払い過ぎじゃねえのか? このまま背骨で
も折って、酔いを醒まさせてやろうか」
酔っ払いの男を離す、真田。
酔っ払いの男の顔は青ざめ、そそくさとその場から去る。
萌香の声「あー‼ ししまるくんだー♪」
声の方を振り返ると萌香と玲子が立っている。
真田「(小声で)も、萌香―!?」
(第2話 終)
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