紗那
もう耐えられない。
黒夜と私だけで生活を回して3日目になる。
交代の頻度は増えていくし、混じり方もおかしくなっていくし、カオスなのよ。身体表現は黒夜なのに、思考は紗那だったりさ。
交代したり、混じりすぎて、どんどん鬱になっていって。黒夜の感情も流れてきて、それと相まって、もう私は消えたくなったよ。
私は有莉紗のために目を覚ました。有莉紗を助けるために。生きる意味を感じられないと思いながらも、「有莉紗がいるから、有莉紗のために」と自己暗示をかけて、今日まで生きてきた。元からそんなに存在したいとは思えなくて、存在することで感じる辛さや苦しさを乗り越えるための、生きる意義を考えてた。その意義は「有莉紗」なんだって言い聞かせることで、一種の綺麗なツイン人格を描いていたのかもしれない。
でも、もうそれじゃ耐えられない。目覚めた時は、養護人格として、かつてのように動くこと、有莉紗の負担を減らすこと、だけが役割だったのに、それ以上の負荷を背負わされた。馬鹿みたいに出されて、馬鹿みたいに黒夜と生活して、メンタルが狂った。
もう有莉紗のためだけじゃ生きられない。気づいちゃったんだよ、私は有莉紗の支えであるけど、有莉紗は私の支えではないって。私は何にも支えられてない空っぽの状態で、これ以上今を耐えることは出来ない。
何で私と黒夜だったのか、考えたんだよ。黒夜は丁寧に扱おうねって話だったのに、何の手違いでこうなったんだろうって。
鍵は黒夜と私の共通点にあると思う。黒夜と私はね、性格は明暗で真反対だけど、案外共通点が多くて。例えば、生きることに意味を感じられないとか。物事に関心を示せないとか。そういう部分が似てるからか、交代の親和性が高かったし高いのかもしれない。
稼働してる人格は11人もいるのに、こんな状況は明らかにおかしい。
訪看に言われたよ。辛いことを分散して持つんじゃなくて、押し付け合ってるって。
そして現状も、自分自身も見て見ぬふりをしてるって。
皆何かを押し殺して、表面上は頑張らないとって踏んばってるけど、裏側にあるストレスやプレッシャーを見て見ぬふりする。そのせいで、何かうまくいかなくて、しっくりこなくて…でも、それを見て見ぬふりをして、”こういうふうにあらねばならない”だけで頑張ろうとする。
だから、定期的に大人人格の誰かが耐えられなくなって、我を失って、死にたくなっちゃうんだよ。最悪だよ。最低だよ。
私も、皆も最低。
どうすればよかったんだろうね。永遠にこれを繰り返すの?馬鹿だよ。