なぜ漫画家はAIや海賊版サイトを敵視するのか?
なぜでしょうか?
多分、作品に甚大な被害をもたらすからですよね。
業界団体の「出版広報センター」によると、漫画海賊版サイトによる被害は甚大です。
何せ「本当に海賊版の被害は甚大です」と書いてあります。
例えば、「漫画村」 。
被害額3,200億円だそうです。
2016年1月開設→2018年4月閉鎖ですので、開設期間は約28ヶ月 。
1ヶ月あたり約114億円の被害です。
では、ここで2014年から2023年までのコミック販売額を見てみましょう。
漫画村開設期間の前後でコミック販売額に大きな差はありません。
あるいは一般社団法人ABJが今年発表したところによると、漫画海賊版サイトは現在1207サイトあるそうです。
内、日本語版サイトは294あり、2023年の被害額は3,818億円と主張しています。
しかし、グラフを見るとコミックの販売額は前年より167億円増えて6,937億円と過去最高です。
結論です。
業界団体が主張する被害額は「嘘」です。
海賊版サイトは漫画を滅しません。
では、AIは漫画を滅ぼすでしょうか?
今年、僕は日経新聞の取材を受けました。
ここで指摘されているのは、著作権侵害の疑いです。
2024年3月、文化庁はAIによる文章や画像の無断利用が著作権侵害にあたる場合もあるとした考え方を取りまとめています。
法の遵守はとても大事です。
著作権を侵害してはいけません。
著作権侵害が作者の気分を害することは明白です。
だけど、それ以外に実害があるのかと言えばどうでしょうか。
経済的な被害は今の所認められていません。
つまり、AIが漫画を滅すとは言えません。
「お前、漫画家のクセに何言ってんだよ?こんな時こそ漫画家が一丸となって反対しなきゃダメだろう?」と思われる方もいるかもしれません。
僕は2012年に著作「ブラックジャックによろしく」を二次利用フリー化しました。
フリー化により、作品を商用・非商用の区別なく、事前の承諾を得ることなく無償で複製し公衆送信できるようにしました。
どのような翻案や二次利用(外国語版、パロディ、アニメ化、音声化、小説化、映画化、商品化など)を行うことも可能です。
作品データを無料でダウンロードできるサイトも用意しました。
言わば、海賊版に先立って、作者がデータをバラ撒いたのです。
AIに先立って、作品の学習、利用を推し進めたのです。
結果はご覧の通り。
二次利用件数4338件。
佐藤秀峰作品全体の電子書籍ロイヤリティ ¥557,505,766。
「ブラックジャックによろしく」に限って言えばロイヤリティは1年間で¥4,648,501。
タダでダウンロードできるにも関わらずです。
問題なく儲かっています。
東京を離れ、海辺の街で平和に暮らしています。
では、なぜ漫画家はAIや海賊版サイトを敵視するのでしょうか?
日経新聞の取材を受けた時の記者の方との会話です。
「こんな田舎まで来なくても、漫画家なら東京にいっぱいいたでしょう?
僕みたいな元有名漫画家じゃなくて、今が旬の作家に取材したほうが反響もあるんじゃないですかね?」
「それが出版社に問い合わせても漫画家に会わせてもらえないんですよ。
AIに賛成の立場の作家っていないんですかね?」
「いるんじゃないですか。
ただ、AIを肯定するとフルボッコにされる風潮がありますよね」
「まあ、実際被害に遭ってる作品もあるわけですし、表立っては言いにくいですよね」
「被害ってなんですかね?
漫画家って、ごく一部の大ヒット作家は年収が億を超えますけど、他の95%の作家の年収の中央値って多分200~300万円なんですよ。
仮に尾田先生や青山先生が『被害』を受けたからって、生活に困ることがありますか?
年収200万円の作家は元々作品が売れてないわけだから、AI側も著作権を侵害したところでお金にならないでしょう。
だから、(侵害)しないですよね。
つまり、作家はAIによって経済的ダメージは受けないんです。
もしダメージを受けるとすれば、出版社でしょう?」
「新聞のほうも協会はAIに基本反対なんですよね。
個人的には活用できる部分は活用すれば良いと思うのですが」
電子書籍の台頭により、漫画市場は「作家」「電子書籍ストア」「読者」がいれば成り立つことが証明されつつあります。
中間業者である出版社は、その存在意義を失わないために仮想敵を創造し、作家を団結させているように見えます。
それにより、彼らが支配する業界構造を維持しようとしているんのではないでしょうか。
ちなみに僕の最新作の「Stand by me 描クえもん」もnote上で全話無料公開しています。
同時に各電子書籍ストアで有料販売していますが、普通に売れています。