僕の好きな漫画17「いつかティファニーで朝食を」

佐藤秀峰が影響を受けた漫画、好きな漫画をご紹介するコーナー「僕の好きな漫画」第17回目です。今回ご紹介するのはマキヒロチ著「いつかティファニーで朝食を」です。

最近、Kindleを利用するようになって、久しぶりに漫画熱(読むほう)が高まってきたことは、すでに書いておりますが、ついに連載中の作品に手を出してしまいました。作品が話題になっていることはなんとなく知っていて、Kindleで死刑問題を扱った「モリノアサガオ」を読んでいる時、あまりのヘヴィさに息抜きがしたくなり、ストアに並んでいた本をカートに入れたのが、読み始めたきっかけです。毎週出版社から送られてくる雑誌を、封筒を開けるのすら面倒で捨て続けてきた上、事務所の引っ越しを機に「雑誌は読まないので送らなくていいです」と各社にハガキを出し、せっかくの献本まで断ってしまった僕が、Kindleのおかげでついに新作を読む習慣を手に入れましたよ。電子書籍様々ですな。

紙の書籍の第1巻発売が2012年9月。実際の朝ごはんの名店を巡りながら、今を生きる女性たちが描かれる物語となっております。

あらすじはこんな感じ。


28歳の東京で暮らす佐藤麻里子は、編集者の創太郎と7年同棲していたが、そのだらしない生活に幻滅。豊かな朝ごはんを楽しむ家庭で育った彼女は、恋人と別れ、自らの朝食を見直し、新たな生活をしようと決意するのだった!

グッドモーニングカフェ、築地の和食かとう、ル・パン・コティディアン、七里ヶ浜のbills……など、実際の美味しい朝食のお店を巡りながら「朝食女子」たちの姿を描く新感覚ストーリー

Webで第1話が読めるようです。

Web@バンチ http://www.comicbunch.com/comicinfo/itsuka_tiffany/

第1話 http://comicbunch-enquete.com/bunchviewer/index.html?mg=tiffany

で、すごく面白く読みました。主人公を中心に4名の女性の生活が描かれ、それらのバラバラのストーリーが朝食というキーワードでつなげられつつ、時々、重なったり、重ならなかったり。ライトなフリをして記憶に残る絶妙な作りで、大変心をつかまれました。コマのリズムの心地良さだけで、最初はなんとなく流し読みしていましたが、時々、グッと来るエピソードもあったりして、なかなかにあなどれないのです。僕はこういう深さの物語が描けないので、スゴイなぁと思いました。浅瀬だと思って歩き続けたら、随分、岸から遠くまで歩いてきてしまったような、野菜だと思って食べたら、肉だったみたいな、ジュースだと思ったら酒だったみたいな、普通列車に乗ったつもりが急行だったみたいな、うまく説明できませんが、大変面白かったです。

読んでいるうちに自分の過去の体験が呼び起こされて、ページを追いつつも自分の記憶と混ざり合って、気がつくと泣きそうになっていました。作品が素晴らしいことはもちろんですが、「漫画って素晴らしいなぁ」と漫画の力を感じました。読み味はあくまでライトなので、例えば、通勤電車の中で読むにはもってこいです。いつでもそばにいるのに、こちらが本を開く余裕がない時は知らん顔をしていて、本を開けば明るく語りかけてくれます。自己主張はあるけど、押し付けがましくないというか。そういう距離感の作品ってなかなかないですよね。

でもKIndleのレビューを見ていると必ずしも絶賛ではないようなのです。良いほうのレビューはこんな感じ。(要約してます)

・実際のカフェやレストランが紹介されている所が良い。

・息抜きに買ってよかった。

・いろんなタイプの女性が出てくるが、等身大でとてもいい。登場人物たちが悩みながらも前向きに歩いていく姿に、自分もモチベーションがあがる。

・主人公たちと同い年、東京暮らしの私からすると、これは結構東京のリアルだなと思う。

・友人同士だけど、OLだったり主婦だったり…それぞれの立場でストーリーが展開するので飽きません。

・出てくる食べ物が本当に美味しそうです。

・実際ヒトの心変わりなんて、こんなもんですよね。と個人的には納得できる部分も多かった。


うんうん、分かる分かる。少年漫画的な嘘くさい正義の味方が主人公なのではなく、それぞれの登場人物の良い面も悪い面も等身大に描かれているのが、リアルで感情移入できるというか。一方、悪いほうのレビューを見てみるとこんな感じ。


・グルメ漫画としても、アラサー女子ターゲットの漫画としてもすでに手垢まみれの題材。

・何か斬新な工夫があるわけでもなく、先発作品の劣化コピー。

・主人公の自己客観性を欠いた傲慢さが不快。

・お店のチョイスもいまいち。作者はたぶん食べることが好きじゃない。

・同性から見て、出てくる女性がそれぞれ皆腹立つ。

・主人公の仕事や恋愛に対する考え方、態度がイラつきます。

・「アーバンでオシャレな私」が好きな、ミーハーで全然オシャレじゃないおばさんが描いた漫画って感じ


あー…、うん、これも分かる。ケチをつけようと思うなら、こんな所でしょう。でも、これって作品を最後まで読んだ上での感想ですよね。読者としては読まされた時点で負けだと思います。最後まで読んだ上で、どうでもいいとは思えずに、「嫌い」というレビューまでわざわざ書かせてしまうとは、作品の力を証明しているだけではないでしょうか。「不快」という印象を残せるだけでも、実はスゴイことなんですけどね。「好き」の反対は「嫌い」ではなく「興味がない」です。「嫌い」と言っているみなさんは、作品に興味津々のようです。

連載中の作品の続刊を楽しみにする感覚が久しぶりでなんだか嬉しいです。生活し、仕事をしている人なら誰もが通る問題に、ネガティブな面からもポジティブな面からも光を当て、あくまで等身大に展開するストーリーに非常に好感を持ちました。

「食事」「仕事」「恋愛」「生活」

描いているテーマに普遍性があるのでしょうね。


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