多摩でつながりをデザインする 東京郊外の住宅地を面白くするには

約430万人が住む多摩地域でどんなつながりができると、東京郊外の住宅地が面白くなるのか。そんなことを考えてデザインを活かしたプロジェクトをつくり活動している。

10年前に地域で活動するデザインディレクターとして「明星大学デザイン学部」の設立時に教授になった。デザインビジネス科目の授業と、地域連携担当の両輪を担っている。日野市、八王子市、青梅市、立川市、府中市、国分寺市、国立市、小平市などの行政とも連携している。

そうした中で、社会の課題を解決する「ソーシャルデザイン論」という授業を担当することになった。近代デザインのはじまりが約150年前で、そもそも工業化や都市化による課題を解決する方法として、手仕事や美術や建築の考え方や方法を活かした取り組みがデザインだったことを再認識した。

そして、2000年以降、社会が大きく変わる中で、デザインの役割も変化してきた。環境問題や災害、少子高齢化や地方の過疎化、介護や医療など、対応すべき社会の課題が顕在化し、対策がおこなわれる中で、様々な分野にデザインが活用されはじめている。

工業や商業に活用される経済発展のためのデザインだけでなく、芸術や教育やスポーツも含めた文化振興のためのデザイン。そして、平等で暮らしやすい社会を実現するためのまちづくり、行政や政策にもデザインが活かされるようになってきている。

それでは、具体的にどんな地域連携活動をしているのか。5つのプロジェクトを紹介したい。

ひとつ目のプロジェクトは、「デザインセッション多摩」である。毎年、テーマを変えて、多摩エリアで活躍するクリエーターがリーダーとなり、行政、企業、市民、NPOなど様々な立場の人たちが話し合い、課題に対する解決策を考え、デザインを活かしてプロジェクトを企画して提案するものだ。

これまで7年間のテーマは、地域に愛着を持ち活動する「シビックプライド」。多摩地域ならではなの「都市農業」のあり方。「こどものまなび」にデザインをどう活かすのか。東京の山とまちをつなげる「木でつなぐ山とまち」。家や仕事場と違う第3の居場所「サードプレイス」。多摩丘陵の10大学をつなぐ「みどりのオープンキャンパス」。地域の物語を視覚化する「映画と地域」だった。今年度は、「まちなかファクトリー」というテーマで、工場とまちとの関係を考える。2025年3月1日(土)に開催予定である。

ふたつ目のプロジェクトは、「明星SATOYAMAプロジェクト」。本学の理工学部の柳川先生が中心となり、複数の学部が連携して、大学のキャンパスの緑地を活かした取り組みだ。

デザイン学部では、ソーシャルデザイン論の授業の課題で緑地をテーマにしたプロジェクトを企画し、このプロジェクトのロゴやリーフレット、ウェブサイトのデザインや映像制作をはじめ、地域の人たちが参加するワークショップやフィールドワークなどを実施してきた。ぼく自身、このプロジェクトのおかげで、デザインの視野がひろがり、人と自然との関係を考える機会が増えた。

3つ目のプロジェクトは、高校生のための公開講座「つながるデザインワークショップ」。在学生の発案ではじまった高校生が学生といっしょにデザイン学ぶ機会。今年度は、「フラワーロス」をテーマに、近隣の花農家、生花市場、フラワーショップと連携して、高校生と大学生がチームを組んで、花を暮らしの中に活かすプロジェクトを企画して提案した。

その中から、移動フラワーショップというアイデアが生まれ、その後、日野自動車と連携して、日野市内で「つながるフラワーパレット」という取り組みとして実現した。

4つ目のプロジェクトは、「くにきたトラベル」という取り組み。地元の国分寺市の西側、JR中央線の国立駅の北側をフィールドにして、まちとくらしを面白くする取り組みを続けている。きっかけは、公民館からまちづくりの講座を頼まれたこと。自分たちが暮らすまちがどんなまちなのか資源や魅力を再確認することからスタートした。一昨年は、国分寺崖線の「坂道」、昨年は、住宅地の中の小さな「公園」、そして、今年は、農家の「直売所」をテーマにして、地域のマップをつくり、イベントやツアーを企画している。

最後のプロジェクトは、「じっかつ」である。数年前から郊外住宅地に目にみえて増えてきた「空き家」。19年前から実家の空き店舗を活用して「つくし文具店」を開いていたが2年前に母が亡くなり自分の実家が空き家になったこともあり、空き家をどう活用するのか模索しはじめた。現在は、まちがどデザインセンター「ツクシハウス」と名付けて、自分の本を持ち込んでまちのライブラリーにしたり、モーニングや、ゲーム大会、庭の草刈りなどに取り組んでいる。実家を活用して、まちに開く活動を「じっかつ」と名付けて、同じ気持ちの仲間を探して、ゆるやかにネットワークをつくり、情報共有をはじめている。

この5つのプロジェクト以外でも、授業や自主的な活動として、行政や企業と、様々な地域連携の活動を進めている。大学の目的は、研究と教育に加えて、社会や地域への貢献がある。多摩地域に根ざした明星大学として、デザイン学部でも地域連携を重視している。

自分たちのまちと暮らしを、自分たちでデザインしたいと考え活動する人が増えたら、多摩地域はもっと面白くなると信じている。都心に通勤して寝に帰るだけの優秀な人たちが、地域の可能性に気づき少しずつでも活動をはじめたら、すごいことになるポテンシャルを多摩地域はもっている。

都心に依存した東京郊外の住宅地。住む人はたくさんいるのに活動する人や働く人が少ない。こどもが減り、高齢化する社会の中で、多摩地域が面白くなるにはどうしたらいいのか。課題も大事だけど、その魅力や可能性に目を向けて、デザインを活かした活動をこれからも続けていきたい。多くの仲間と連携していきたい。

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