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職場には感情を持ち込むべき -理性は情念の奴隷

職場に感情を持ち込むべきかどうか議論の対象となることがありますが、感情がない職場は墓場に等しいと私は考えます。感情は人間特有のものであり、AIにはない唯一の特徴です。したがって、感情がなければ人間らしさを失った世界となり、そのような無機質な環境で働くことは誰も望まないでしょう。しかし、感情が仕事や意思決定に悪影響を及ぼすことも事実です。不安があると仕事が手につかず、怒りがあると冷静な判断ができなくなります。仕事に集中しなければ、冷静に判断しなければと思っていても、ネガティブな感情に支配されていると、論理的な思考や判断が難しくなるものです。哲学者デイヴィッド・ヒュームは「理性は情念の奴隷である」と述べています。これは、理性が感情に大きく影響されるという意味です。情報を収集する際にも、感情によるバイアスがかかり、都合の良い情報に目が行きがちで、都合の悪い情報を見過ごすことがあります。また、尊敬する人の言葉は信じがちですが、好きではない人の正しい言葉には共感しにくいこともあります。これも理性が感情を完全にはコントロールできていない証拠です。

最近、メンタルヘルス、レジリエンス、エンゲージメントといった用語が注目されており、これは職場での感情の重要性が認識され始めていることを示しています。心からやりたいと思えない仕事において主体性を発揮することは難しいですし、嫌悪感を抱く相手と協力して仕事をすることも困難です。ビジョンが不明確な会社で仕事に熱中することはできませんし、自分の存在意義や価値が見出せない環境ではモチベーションも低下します。つまり、人と組織の多くの問題は人の感情に根ざしており、感情に対して適切なアプローチを行っている企業は、人々の潜在能力を最大限に引き出していると言えます。
ゴールデンサークル理論で有名な作家で哲学者のサイモン・シネックの言葉に
"If we don't understand people, we don't understand business"
があります。
「感情面も含めてひとりひとりを理解することが、ビジネス全体の状態を理解することにつながる」
それほど、ビジネスにおいて人の感情が重要だということなのです。

ビジネスの世界では、ロジック、論理性、合理性、効率性などが先行して、感情はあとまわし、むしろ面倒なものと考えられることがしばしばあります。論理的思考、ロジカルシンキングは重要なビジネススキルですが、コミュニケーションはそれと同等もしくはそれ以上に重要なスキルでもあります。相手を理解するということは、相手に関心を持って、相手の感情を受け止めることから始まります。相手の感情を理解しなければ、その主張の本質を把握することは不可能だからです。したがって、コミュニケーションの第一歩は、相手の立場に立って丁寧に傾聴することですし、部下との1on1で、まず健康や心理状態について確認することなどは、相互理解においてとても重要なことだと言えます。

人は本来、相互に理解して認め合いながら仕事がしたいと思っているものです。お金を稼ぐことも重要な仕事の目的のひとつですが、人は仕事を通じて自己実現を果たすこと、精神的に満たされること、豊かな人生を送ることを望んでいます。そのためには、職場における感情にしっかりと目を向けて、お互いの考えや想いを共有することができる環境づくりが大切だと思います。時に論理が先行して後回しにされがちな感情ですが、感情がなければ論理は実行に移されない、ただの机上の空論で終わってしまうということを忘れてはいけません。


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