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SaaSのMRRをARRに変えてくれるPipeがなかなか面白そう

最近 My First Million というPodcastで紹介されていた Pipe というフィンテック系スタートアップ(のビジネスモデル)に個人的にかなり感心したので、自分が理解している範囲で紹介します。

尚、自分はファイナンスの専門家でもなんでもないので、間違っていたり観点がズレていたらご指摘ください。

Pipe とはどういうサービスか

Turn your MRR into ARR.™ というシンプルな解説や、Instant access to your annual cash flow という説明からわかるように、月額(または四半期ベース)課金のサブスクリプション型サービスを展開している企業と、その月額課金契約を年間契約として購入(投資)してくれる投資家をマッチングさせるマーケットプレイス的なサービスです。

サブスクを展開している企業はSaaS(Software as a Service)企業だけではないとは思いますが、Pipeの対象としてはたぶんSaaSがメインとして考えていると思うので、ここでは対象企業 = SaaS企業としておきます。

SaaS企業からみれば、月額課金ユーザーからもたらされるであろう(将来的な)年間の収益を前払いで受け取ることができるので、あたかもその月額課金ユーザーが年払いユーザーに変わったようなイメージです。MRRからARRへのシフト、ですね。

もちろん入札金額は月の課金額 x 12ヶ月そのままの金額ではなく、ある程度ディスカウントされた金額で bid が行われるわけですが、通常SaaS企業だと年払いプランでは2ヶ月分程度の割引を適用している会社も多く、入札時のディスカウントはそれと比較するとかなり小さく、一般的な年払いプランよりも結果的にトータルの収益は大きくなる、というような説明が公式サイトのFAQにはありました。ちなみにディスカウント率は事業規模や過去のトレーディング履歴などによって変動するそうです。

そして投資家からみれば、PipeはSaaS企業のRecurring Revenueに投資できるという非常にユニークなマーケットプレイスと捉えることができます。Pipeはこれを新しいアセットクラスと表しており、投資家は fixed income(確定インカム)のような収益を期待できる、と謳われています。

Pipeとしてはトレード(サブスクの売買)で発生するトランズアクションの一部を得る、というビジネスモデルなんだと思います。(これ以外にも収益方法あるのかもしれませんが。)

尚、トレードは1契約者(サブスクリプション)ごとに可能で、万が一1年以内にChurn(解約)が起こっても他の契約者と入れ替えることができるようです。

Pipeのマーケットプレイスに参加するには当然ながら審査が必要で、現在は米国企業と米国に子会社がある企業に限定されていますが、今後他の国にも展開されていくと予想されます。

SaaS企業がPipeを使うメリット

ディスカウントは発生しますが将来的な収益を前払いで受け取ることができるので、兎にも角にもキャッシュフローが改善します。

結果として、エクイティーで資金調達したり、借り入れ(Debt)をする必要性を抑えることができます。

いわば、プライベートマーケットにおけるそれら2つとは異なる第3の資金調達方法とも言えるかと思います。

まあEarnest Capital等がやっているSEALという手法もありますが。

Pipeを利用するにはまずそもそも月額課金ユーザーが一定数必要にはなりますが、株式を希釈させることなく、借金もすることなく、ある意味信用でお金を調達することができるのは、非常に面白いなーと思います。

SaaS企業であれば Monthly と Annual の両方のプランを提供しているのが一般的かと思いますが、Annualプランがいいユーザーはそのままそれを契約してもらい、Monthlyプランのユーザー(の一部?)はPipeを使ってARRに変換、といったようにエンドユーザー側にはいっさい変更や負担をかけることなく、フレキシブルに利用できそうなところもGoodです。

投資家がPipeを使うメリット

一般的には限られた人や方法でしかアクセスできない、プライベートマーケットでのSaaS企業に投資でき、fixed income が期待できます。

もちろん通常の株式を取得する通常のベンチャーファイナンスとはリスクもアップサイドも全く異なる性質の投資にはなりますが。

どれくらいのディスカウントでどれくらいの利回りを期待できるのかは現時点ではほとんど情報がないのでわかりませんが、個人的には不動産投資とか、REIT株の利回りを超えてくる可能性は十分にありそうな気がします。気がするだけで全くわかりませんが。リスクに関しても昨今のコロナによる商業不動産市場の不透明さなどを考えると、素晴らしいプロダクトを開発しているSaaS企業のRecurring Revenueというのはさほどリスクが大きいとは個人的には思いません。もちろんあらゆる投資と同じく目利きは必要になりますが。