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【Interview-10Q】1人目:國光俊樹さん

10Qは、「10個の共通Question」を「109人」の人に聞いていく、インタビュー企画です。様々なバックグラウンドを持つ方々のお話を通じて、ひとりひとりの価値観や人生に触れるきっかけをつくることを目指しています。
特定の企業や団体とは無関係の、個人としての活動です。

1. あなたについて教えてください

國光俊樹です。
デザインの領域で長く仕事をしてきており、今はAlgomaticという生成AI×事業開発のスタートアップで働いています。


2. 今、一番熱中していることは何ですか?

新規事業の立ち上げに熱中しています。
新規事業は、とにかく辛いし楽しい。この半年間はほぼデザインをしていませんでした。顧客に会いに行って、話を聞いて、事業アイディアを練り直して。導入顧客に深く関わりながら、「がっつり事業開発にコミットしたな」という半年間でした。ユーザーが使う前提ではないサービス、AIネイティブな時代のサービスをつくっているという感覚があります。

今までの思考回路や経験則だと否定したくなるようなプロセスを、あえてチームで採用していきました。一番大きかったのは、「いかにつくらないか」というアプローチをとったことです。どうしてもデザインしたくなるし、動くものをつくりたくなるんですが、そこを我慢して。いかにつくらずに価値を生み出し、高速に学習を積めるか。実際に自分たちで営業代行をして、営業プロセスを追体験して、ユーザーの抱える負を体験しながら「ここを解決しよう」と決めていくプロセスは、事業開発そのものでした。

自己否定を重ねたチャレンジの結果受賞した、
「Unleran賞」のトロフィー。

3. 人生で一番嬉しかったことは何ですか?

家族や長年の友人など、自分の人生に深く関わる人が少しずつ増えたことです。

自分の価値観が広がっていくきっかけは、仕事よりもプライベートの方が大きかったかもしれないです。ライフステージが変わる中で、「自分自身も変わり続けないといけないな」と思うようになりました。「これが自分の生活である」「こういう生き方をしたいんだ」という芯があるのはいいことだけど、状況はずっと動いていくし、同じではない。新しい悩みは次々出てくるし、変わらざるを得ない。プライベートの変化を通じて、自分自身が変化することが当たり前になったのは面白かったです。


4. 人生で一番悔しかったことは何ですか?

前職時代に、新規事業で大失敗をしてしまったことです。こういう事業をつくりたいと思って、時間をかけてどんどん深めていくアプローチをしてしまった。今思うと、反省しかありません。早く動くことも全然できていなかったし、顧客との対話を十分に深められず、アンチパターンを踏みまくってしまったように思います。

意思決定をしないまま、うまく切り替えることができない期間が長く続いてしまい、結果として得られる成果もどんどん小さくなってしまった。ダメだったら次に行こうという決断をすべき立場だったのに、それがまったくできなかったのがいちばんの心残りです。そんな反省を生かして、事業開発をちゃんとやっていきたいと思い、新しいキャリアに進みました。


5. 自分の人生を変えた出来事を教えてください

以前働いていたグッドパッチに入社したことです。明確に人生を変えた分岐点でした。人生の中でも分岐点はいくつかありますが、いちばん変化の角度が大きかったです。

元々、環境を変えることは好きでした。そもそもでいうと20歳まで高専(工業系)にいて、そこからデザイン畑にガラッと環境を変えて。グラフィックをやってウェブデザインをやって。UXデザイナーから事業開発というように、どんどん軸足を変えてきました

グッドパッチに入社したのは20代後半の頃でした。このままウェブデザインをしてクリエイターになった時の人生と、そうではない人生を比べてみて、どちらの人生に進むのかを考え抜いて決断しました。選考を通じて話を聞く中で、顧客に向き合っている人がいっぱいいて、デザインや顧客に向き合う熱量が高いところが印象に残り、それまでの自分の人生とはまったく違う役割や環境へ飛び込むことを決めました。結果として、自分の意思決定の中では一番レバレッジが効いていると思います。


6. 一番影響を受けた曲を、一曲教えてください

ELLEGARDENの『Missing』です。
高専の時にバンドをやっていたんですが、もともとJPOPやJROCK的なものを自分は全然知らなくて。「これいいよ!」と同級生に聞かされたのが、エルレのこの曲でした。

日本のバンドなのか、海外のバンドなのかもわからない。どういうジャンルなのかもわからない新しさや独自性が自分にハマって、そこからずっとエルレが好きです。

パンクとか、「このジャンルはこういう音楽だよね」というのがありますよね。そういう流れに沿ったものじゃなくて、「どの流れなんだ?これは何なんだ?」というものに出会うことがそれまではあまりなくて。Missingをきっかけに他の曲も聞くようになって、「これはなんなんだろう」と、どんどんハマっていきました。ロックなんだけど、これはなんだ、という衝撃があって、ずっと大好きなアーティストです。


7. あなたの人生に欠かせない作品は何ですか?

作品と言われるとすごく難しくて、ジャンルで言うと漫画全般とデザイン全般はとても大きな影響を受けてるし、大好きなものがたくさんあります。

ただ、今回「作品」と言われてふと思いついたのは、クリスト&ジャンヌ=クロードでした。凱旋門に大きな白い布を被せたり、とにかくスケールが大きい作品で知られるアーティストです。

この人は、「こういうプロジェクトをやりたい」というラフなスケッチを描いて、それをアートとして売ることで資金集めをして、行政とも折衝しながら巨大なプロジェクトを成功させる、ということを何回もやっています。とにかくスケールがやばい。崖にカーテンをかけるとか、歴史的な建造物を丸ごと覆うとか、ネジが外れてる。ネジが外れてるんだけど、普通に考えたら実現できないことを実現しちゃうコミットメントも本当にすごい。

絵に描いた空想は誰でも考えられるけど、他の誰も実現できなかった形でそれを現実に持ってきてしまう。数十年かけてでも実現してしまうところが、とても好きです。20代前半、学生だった時に知って衝撃を受けました。当時はスタートアップなんてまったく知らなかったけど、とてもスタートアップ的だし、起業家精神そのものだなと思っていて、自分の中にずっと残っている作品・アーティストです。


8. あなたを形作った場所はどこですか?

グッドパッチです。グッドパッチに入ってなかったら、今の人生はなかったと断言できます。「これからの人生どうしよう」と悩んでいたのが20代後半の自分でした。

グッドパッチに入る時にUXデザイナーになり、自分の手でモノのデザインをしないという選択をしました。強い人と一緒にチームを組めるなら、自分でつくらなくてもいいや、と。コトに向き合いたい、それができるUXデザイナーという仕事があるらしい、ということで入社を決めて、そこから人生が変わりました。

いろんな人と仕事をできたことが、とにかく大きかった。クライアントワークをやっていたので、これまで話したことがないような企業の経営層とか、ビジネスをど真ん中でやってる人とか、大企業からスタートアップまで。いろんな会社があって、いろんな人がいるんだな。いろんな領域ですごい人、素敵な人がいるんだなということを、グッドパッチに入って初めて知りました。そういう人たちがいることを知れて、そんな人たちと仕事ができて、とてつもなく大きな変化でした。

グッドパッチ社のオフィスにて

9. 大切にしている価値観は何ですか?

好きな言葉でもあるんですが、「トレードオン」という考え方を大事にしています。二者択一のトレードオフではなく、二律背反を超えて、新しい価値を生み出す、という意味合いです。デザイナーとして、自分はずっとこれをやってきたな、と思っています。AでもBでもなくC、あるいはまったく異なる1つを生み出す。特にビジネスの世界では、絶対に矛盾する二つを同時に取らないといけない局面があると思っていて、それを両方取り続ける意識を大事にしています。

この考え方が言語化できて、しっくりきたのはこの3年くらいです。家庭もそうだし、仕事もそうだし、人生もそうだし、全部につながる考え方だなと思っています。

自分は、ずっと葛藤してきました。挑戦もしたいし、同時に土台もちゃんと作りたいし。どっちを取るかと言われても選べない。自己矛盾している自分に悩んでいた時期があって、その時にトレードオンという考え方を知って「これじゃん」となった。矛盾したまま、葛藤したまま、その状態で両方を取ればいい。新しい第三の選択肢をつくったっていい。以来、大切にしている価値観です。

10. これからどんな人生を歩みたいですか?

トレードオンにもつながりますが、「葛藤しながらバランスする」ことを続けていきたいです。

葛藤しているのが20代のうちはかなりストレスでした。どっちにもなれない・決められない自分が優柔不断で嫌だったし。でも、葛藤している状態が自分のベースラインだなと思うようになって、葛藤しながらバランスしていく、というのが今のテーマです。まったく違う選択肢の間で振り子を振りながら、葛藤し続ける。自分に幅を持たせられるし、思考も経験の幅も広がるし、悩みまくればいいじゃん、と今では思っています。

あと、こうして振り返ってみて、変化の主体が変わってきたなと思います。20代後半までは、「自分の力で自分をいかに変化させられるか」という勝負をしていたんだなと。色々な人と関わるようになって、他者が自分を変化させてくれるようになった。今の自分のキャリアも、最終的な判断軸は「人」でした。

「自分で自分を変える」ことに10代〜20代は苦しんできたけど、他の人からいろんな影響を受けて、いろんなところに足を運んで、自然に変化していこうと思えるようになったことが、人生を変える出来事の起点になっていました

丘の頂上のゴール目掛けて、必死になって岩を押し上げていた時期もありました。今は「あっちに転がってもいいよね」「こっちに行っても面白いよね」という気持ちで、自由に転がれるようになったかもしれません。これからもそんな風に歩めたらいいなと思います。