バナナの皮。

 バナナの皮を踏んで滑って転ぶ。昔からある古典的なこのギャグは、いったいどこの誰が始めたのだろうか。そんな事を、今日バナナを食べながら思った。
 軽くインターネットを使って調べてみると、どうやらチャップリンがこのギャグの始祖らしい。らしいというのも、何やら様々な説が出てくる。今から約100年程前に作られた「アルコール先生海水浴の巻」という作品の中でチャップリンによってこのギャグが使われた、とか。いや、そうではなくカル・スチュワートと言う人の方が9年程早くこのギャグについて言及している、とか。
 とまあ、このシンプルだが味わい深いギャグが100年かそれ以上前に行われ、今日まで様々な媒体によって使いまわされている。中々に不思議な事である。決して文化的な行為でも無ければ、アーティスティックでもない。ましてや人間の心くすぐるストーリー性のある物でもないのに、このギャグを知らない人はいないのだ。
 今日はそのことについて、幾らかの妄想を膨らませよう。

 さて、バナナの皮で滑るというが、何も滑るだけの物ならバナナに限らず世の中に溢れている。例えば氷。ある晴れた冬の空の下、かじかむ手を擦りながら歩いているとつい足元の注意がお留守になってしまう。そんな時、決まって我々は不注意から靴が氷の上を数センチ滑ることで、バランスを崩しあわや大事故になりかねない転び方をする。もちろん氷に限らず、濡れた床に注意する声かけをスーパーで聞いたりすることもあろう。また、濡れていなくとも滑ることはある。例えば、そう、犬の糞を踏んだ時とか……これ以上を思い出すのはやめにしよう。お食事中の方、大変申し訳ない。
 だが、ただ滑りやすいというだけでは、バナナには勝てない。この比較において大前提とすべきは、その行動がギャグ足りえるか否かである。ギャグにおいて必要不可欠な要素は、意外性だ。人は予想していなかった展開を目の当たりにした時、思わず笑ってしまう癖がある。自分の思っていた事と全く違う出来事が目の前で繰り広げられたときに、つい笑ってしまった事が読者の諸君にもあるだろう。私の好きなギャグマンガの中に、「ボボボーボ・ボーボボ」という漫画があるが、この作品は全体を通して支離滅裂で意味不明な展開が続き、誰も予想しえない場面をずっと見せられる。子供の頃はこの漫画でよく笑ったものだが、大人になった今でも意味が解らず、亀ラップでニヤリとする瞬間がある。
 さて、話がそれてしまったが、その意外性という物をバナナはきちんと兼ね備えているのだ。氷や水は滑る事が周知の事実であるが、バナナの場合はそうではない。バナナの本来の使用目的は食べる事であり、その栄養を体内に取り込む事だ。バナナの栄養価は高く、朝バナナ生活が一時流行った事もあった。アスリートなどは試合前にバナナを摂取することで、それに含まれるカリウムのおかげで足を攣ったりする事が減るらしい。尤も、この説は私自身で試し、見事に足を攣った過去があるため、個人的にはあまり信ぴょう性があるとは思っていない。(私の運動不足である可能性も否定できないが)
 そのバナナを、しかも後は捨てられる未来しか残されていない皮を、誰が足で踏んずけてずっこける展開を予想できようか。食べて、捨てて、終わる。このパターンから外れ、バナナの皮のギャグは生まれ落ちたのだ。
 では、意外性のある物ならばバナナの皮でなくとも良いのでは? と思うだろう。例えば日常的なところでパッと思いついた物を挙げると、リンゴの皮や牛肉だったり、土鍋だったりスカートだったり、物質に限らず言えばあの子に対する淡い恋心でもいいだろう。だが、それらは滑らなかったのだ。イグノーベル賞を受賞された馬渕教授が、バナナの皮の摩擦係数が通常の時と比較して1/6程しかないという研究結果を出している。これはリンゴの皮には出せない数値であった。牛肉を踏むのは勿体なく、土鍋は滑らない(今試した)。スカートは女性はともかく大多数の男性諸君にとって日常的ではないだろうし、淡い恋心に摩擦係数などありはしない。誰もが目に触れる事の出来る日常的なアイテムで、かつ摩擦係数を恐ろしく低い値にすることのできる、ただ滑って転ぶだけの行為をギャグ足りうる物に出来た存在が、バナナの皮だったのである。

 さて、ここに書かれた文章はあくまでも私の妄想であり、インターネットという便利なツールを少しだけ使い仕入れた知識を元に作成したに過ぎない。今日のエッセイは私にとってきっかけにしかすぎず、おそらく明日以降、無意味にバナナの皮にとらわれ、手に入れられる文献に片っ端から目を通していくであろう。
 もしそうなって、正しい、或いはより深い知識を得られるようならば、このエッセイの続きを書いてみようと思う。
 正直見切り発車で書き始めた文章ではあったが、思いのほか長くなってしまった。これ以上読者に意味のない文章を読んで頂くのは忍びないため、この辺に終わりにしようと思う。

 さて、明日の朝ご飯をバナナに決めたところで、私はゆっくり布団にもぐらせて頂く。よい夢を、おやすみ。


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