下町やぶさか診療所 5 第二章 居場所がない・後/池永陽
【前回】
午後の患者もあと数人というところで、耳打ちをするように八重子が話しかけてきた。
「大先生、あの娘、ちゃんときてますよ」
「あの娘って、吉沢明菜さんのことか――そうか、ちゃんときてくれたのか」
独り言のようにいう麟太郎に、
「待合室の隅に座っているのをちらっと見かけたので、受付の知子さんに訊いてきたら、一番あとで診てもらいたいということでしたよ」
得意げな顔で八重子はいう。
「ということは、今日は腹を括って話をするつもりってことか」
「そのようですね――おまけ