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【祝5刷‼】2000年生まれのド新人編集者、結城真一郎さんの“2年ぶり超待望の新作”を任される【大きめの告知アリ】

みなさま、お久しぶりです。もしくは、はじめまして。集英社文芸書編集部で小説の編集をしています、髙橋と申します。2023年の4月に新卒で集英社に入社した、ひよっこもひよっこの編集者です

3月にアップした記事『2000年生まれのド新人編集者、新人作家と本を出す』は、note公式より「3月にもっとも読まれた記事」の一つに選出され、想像を大きく超える反響をいただきました。記事をきっかけに単行本を購入した方もいらしたとのことで、本当に嬉しいです。ありがとうございます。



現在私は、6月26日に刊行される結城真一郎さんの新刊『難問の多い料理店』を担当しています。

そのカバーデザインがこちら。



とんでもなくカッコいい一冊だと、何度見返しても思える素晴らしいデザインになりました。

結城さんと言えば、日本推理作家協会賞(短編部門)受賞作「#拡散希望」を収録した『#真相をお話しします』(新潮社)が大ヒットし、2023年の本屋大賞にもノミネートされた、いま最も話題の若手ミステリ作家。私が担当している新刊『難問の多い料理店』は、結城さんにとって『#真相をお話しします』以来、2年ぶりの新刊になります。

正直に言うと、そこそこのプレッシャーを感じています。プレッシャーがあるのはどの作品でも同じなのですが、今作は著者にとって2年ぶりとなる待望の新刊で、さらに前作は累計20万部越えの大ヒット作。結城さんのためにも、そして、新作を待っている読者のためにも、私は担当編集としてこの作品の面白さを多くの方に伝える責務があります。

そこで、『難問の多い料理店』の衝撃的な面白さを一人でも多くの方に知ってもらうため、私は懲りずにnoteへ記事を投稿することにしました。 

前回の記事では、弊社主催の公募新人賞「小説すばる新人賞」の受賞から発売までを追いかける形で、入稿から校了までの流れを満遍なく取り上げましたが、また同じような記事にすると、二番煎じっぽさが出てしまうような気がします。

ということで、このnoteでは焦点を合わせるポイントを変え、書籍の第一印象を大きく左右する「装丁」に注目し、先ほどお見せした、妖しくサイケデリックでありながらも、ポップなデザインが完成するまでの流れをご紹介いたします。 

最後には、『難問の多い料理店』に関連する大きめの告知が2点ございますので、併せてお読みいただけますと幸いです。



ド新人編集者、装丁の方針策定に苦戦する

遡ること半年前。結城さんの新刊を担当することになった私は、デスクで困り果てていた。

装丁が、決まらないのだ。

結城さんといえば、2022年夏に刊行された『#真相をお話しします』を思い出す方も多いだろう。収録されている短編5編が、いずれもインパクトの大きい珠玉のミステリであることは大前提として、『#真相をお話しします』というインパクトのあるタイトルと、男の子の目をタイトルロゴで隠した怪しげな装丁に惹かれて購入した方も多いのではないだろうか。


『#真相をお話しします』(新潮社)


そう、タイトルや装丁から受ける第一印象は、大きく購買意欲を左右する

これは小説の良いところでもあり、昨今のタイパ重視的観点から見ると大きな課題でもあるが、小説は中身を100%知った状態で買うかどうかを判断することができない。100%どころか、10%を知ることすら難しいかもしれない。

だからこそ、予想を大きく超える一作と予期せぬ形で出会うこともあるし、買うところまで決断できず傑作を買い逃す可能性もある。単行本の担当編集は、「読者が担当作を買い逃してしまう可能性」を低くするべく、装丁について試行錯誤しなければならないのだ。


「『#真相をお話しします』とは違う雰囲気にしつつも、匹敵するレベルのカバーデザインにしないといけないよなぁ……」 


『難問の多い料理店』の装丁について思うことは常にこの一点だった。結城さんを担当することが決まり、『難問の多い料理店』が『#真相をお話しします』の次作になると確定した時点から、私はずっとこの「難問」をどう解決するか悩み続けていた。

この記事を読んでいる皆さんが『難問の多い料理店』の担当編集なら、以下のあらすじを読んでどのような装丁をイメージするだろうか。ここからは、皆さんにもぜひ編集者になった気分で読み進めていただきたい。

『難問の多い料理店』の舞台は、東京・六本木。ビーバーイーツ配達員として日銭を稼ぐ大学生の僕は、ある日注文を受けて向かった怪しげなレストランでオーナーシェフと出会う。彼は虚空のような暗い瞳で、「お願いがあるんだけど。報酬は1万円」と、噓みたいな儲け話を提案し、あろうことか僕はそれに乗ってしまった。そして気づいた。

どうやら、この店は「ある手法」で探偵業も担っているらしいと。
 
空室に届き続ける置き配、火災現場に突入した謎の人物、なぜか指のない轢死体……。オーナーはどんな難問も華麗に解いてしまう。そして、配達員にこう伝えるのだ。
 
――もし口外したら、命はない

コロナ禍で急速に発達したオンライン上の料理配達システムから、ここまで面白い安楽椅子探偵が誕生するのか。初めて拝読した時に受けたこの衝撃を、忘れることはないだろう。

結城さんにとってはキャリア初の連作短編集なのだが、とてもそうとは思えない骨太な謎が各話にあり、魅力的なキャラがこれでもかと登場し、連作として綺麗にまとまっている。ミステリが好きな読者なら、間違いなく楽しめる」そう言い切れる作品だと思った。 


***


そんな『難問の多い料理店』の装丁について考えた時、最初に浮かんだのは「『難問の多い料理店』というタイトルから、『注文の多い料理店』をオマージュするような装丁はどうだろうか?」というアイデアだった。

そもそも、『難問の多い料理店』は、かなり難産なタイトルだった。結城さん、雑誌「小説すばる」に連載していた時の担当編集、そして単行本の担当編集である私の3人で、数時間に及ぶタイトル会議を行い、その末に決まったのが『難問の多い料理店』だ。レストランが舞台となっている点や、ちょっぴりのホラー要素がある点など、(話自体は全く違うが)『注文の多い料理店』と似ている部分も多いことから名づけられた。 

せっかくタイトルも『注文の多い料理店』に寄せていることだし、と当時の私は軽い気持ちで〈注文の多い料理店〉と画像検索をした。

検索結果が出た瞬間、オマージュは無理だと思った。想像してみれば、簡単に分かることだった。実際に検索していただければ分かる通り、『注文の多い料理店』は既に著作権が切れている都合上あらゆる出版社から刊行されていて、装丁だけで何種類も用意されている。これでは、人によって装丁のイメージがばらつくことは間違いない。

さらに言えば、装丁をオマージュすることで、物語の中身自体も『注文の多い料理店』を模しているものではないかと読者に思われる可能性もあった。『難問の多い料理店』は、主人公が二人組ではなく、森に迷い込むわけでもなく、体に塩を塗り込むわけでもない。この案はほどなくして却下となった。


では、六本木を舞台にしているのだから、実際に六本木のサイバーな雰囲気を撮影した写真を使うのはどうだろうか? サイケデリックな六本木の夜は、きっと装丁にしても映えるだろう。そう考えた私は、六本木を訪れた際に適当に写真を撮影してみた。 


六本木交差点にて


この写真に、タイトルと著者名が入ることを想像してみる。

……あまりにも、ノンフィクションすぎないか?

「夜の街、六本木にある一風変わったレストランを取材したルポ」っぽくなっていないだろうか?

『難問の多い料理店』はドエンタメなのに、こういった雰囲気の装丁にするとエンタメらしさが削がれてしまい、物語の良さを減衰させてしまう可能性が真っ先に浮かんだ。物語の舞台の妖しさは表現できるけれども、それと引き換えに失うものが多すぎる気がして、この案も却下した。

だが、六本木の夜ならではのサイバーな雰囲気は捨てがたいと感じたのも事実だった。『難問の多い料理店』全体に漂う不穏さと予想のできない面白さは、白色LEDの街灯だけではない様々な色の光が溢れる雰囲気と、ぴったりマッチしている。他にも、記事には書いていない諸々のアイデアの却下を繰り返した末に、私は「夜のネオン光る街を、配達員が駆け回るイラスト」をカバーに据えようと決めた。

この方針が立ったことで、デザイナー・イラストレーター選びは一気に進んだ。

まずデザインは、川谷康久さんに依頼をした。川谷さんと言えば、文字の配置で遠近感を見せる独自のデザインが印象的で、集英社では雑誌「別冊マーガレット」の表紙をはじめとして、特に少女マンガのデザインを多く手掛けている。文芸作品では、ライト文芸と呼ばれるジャンルの装丁が多い。

『難問の多い料理店』は大人のミステリ好きにはもちろん、学生にも手に取ってほしいという思いが私の中で強く、川谷さんのデザインはまさに届けたい読者層とマッチするだろうと判断した。 

川谷さんのこれまでのお仕事は、以下の記事から搔い摘むことができる。おそらく、皆さんもどこかのタイミングで川谷さんの手掛けた書籍に接していることだろう。



そして、イラストを手掛けてくださったのはハチナナさん。ハチナナさんは、2022年に大ヒットした、なとりさんの楽曲「Overdose」のMVイラストを手掛けたイラストレーターだ。私も「Overdose」をキッカケにしてハチナナさんを知ったのだが、それ以外のイラストも奥行きのある複雑な構成と、太い線で描かれた印象的なキャラクター、そして夜ならではの独特の妖しさを醸し出していて、『難問の多い料理店』の世界観を描けるのはこの方しかいないと思った。 

ハチナナさんのイラストは以下のリンクからご確認を。『難問の多い料理店』のカバーイラスト以外も惹かれるものばかりなので、ぜひ目に焼き付けていただきたい。



この時、『難問の多い料理店』の刊行まで残り4か月。こうして今作の装丁は始動したのだった。



ド新人編集者、帯の宣伝文句に迷う

デザイナーとイラストレーターが決まって一安心、と思えたのもたった数日のことで、私は次なる「難問」に直面していた。読者の購買意欲を引き出すためには欠かせない、書籍の下三分の一くらいに巻かれているアレ……。そう、「帯」である。 

帯は、その本を買わせるための宣伝文句が書かれた広告だ。著名人からのコメントなどを除いて、宣伝文句は基本的に編集者がどうにかして絞り出す部分である。というより、書籍の中身は著者によって執筆されたものであり、カバーはイラストレーターとデザイナーによるものなので、むしろ帯くらいしか編集者自身が絞り出す部分はないとも言える。 

結論から言うと、『難問の多い料理店』の帯コピーは、これまでに担当した小説の中で最も迷った。帯の文言を考える時、この層にピンポイントに売りたいという作品の場合は比較的ストレートに考えられる。しかし、『難問の多い料理店』はとにかく多くの人に読んでほしい作品だった。想定する客層を広げれば広げるほど、帯のコピーを考えるのは難しくなる。暇な時間の大半を費やしてコピーをいくつも考える中で、最初に自信を持って「いける!」と思えた案は、眠る直前に思いついたものだった。

が、そのコピーはボツになる。というか、自分でボツにした。 

なぜなら、そのコピーは若干物語の結末をネタバレしてしまうもので、今作の面白さが削られてしまうような気がしてならなかったから。

ミステリの帯を作る時に迷うのは「どこまでトリックの根幹に迫るのか」という部分だと思う。たとえば、どんでん返しがあることを、あらかじめ帯で語るかどうか。たとえば、叙述トリックを敢えて明かして、読者に挑戦状を叩きつけるかどうか。今作でも、解決篇のネタバレに踏み込みそうな要素をどこまで出すか迷い、最終的にはそうした要素を一切出さないことにした。 

……この判断が、コピーを考える上で自分の首を絞めることになる。 


***


ミステリでネタバレをせず、魅力のあるコピーを作るのは難しい。ネタバレを食らった方が最初から面白い本に出会える可能性が高い、というタイパ至上主義の読者が増えている現代ではなおさらだ。ミステリの根幹に触れないようにしつつも、つい手に取りたくなるようなコピーにする。この条件を満たすコピーは、なかなか思いつかなかった。 

悩み苦しんでいる間も、〆切は刻一刻と近づいてくる。迷える時間は容赦なく減っていく。自分のコピーライター的センスの無さに打ちひしがれ、絶望する……。 

この窮地から脱することができたのは、書店員さんから来ていた感想のおかげだった。 

実は『難問の多い料理店』は、できるだけ多くの書店員さんにいち早く読んでもらいたいという思いがあり、「プルーフ」と呼ばれる簡易製本版の書籍を作成し、発売前に書店員さんにお送りする準備を進めていた。プルーフをお読みいただける書店員さんを募集したところ、想像以上に「読みたい!」という声が殺到。感想も驚くほど多くいただき、続編を希望する声、解決篇にやられたという声がいくつも上がっていた。 


『難問の多い料理店』プルーフ


最も実際の読者に近い位置で仕事をしている書店員さんから、これだけ「面白い」とストレートな感想が来ている。それなら、そのストレートな感想をそのまま読者にも伝えればいい。そう確信することのできた私は、シンプルな言葉を帯コピーに使うことにした。 


こんなミステリを、私たちはずっと待っていた」 


発売前なので、このコピーがどれだけ売り上げに良い影響を与えてくれるかは全くもって分からない。ただ、このコピーは、ミステリフリークの書店員さんから、普段ミステリをあまり読まないという書店員さんまで、広く「面白い」という感想が来ていなければ、間違いなく生まれていなかった。

ミステリの面白さをまだ知らない人も、既にミステリの面白さを知っている人も、『難問の多い料理店』を手に取ってほしい。いただいた沢山の感想の力を、その熱量のまま読者に届けることができますようにと祈り、私はコピーを送り出した。 



ド新人編集者、できあがった装丁に感動する

結城さんに本文の再校をご確認していただいている間も、装丁は着々と完成に向けて進んでいた。

 ハチナナさんに依頼したカバーイラストの要望は主に以下の三点。
・夜の街を駆け回る配達員たちを描いてほしい
・妖しさのある雰囲気を出してほしい
・作中に登場する印象的なモチーフをできる限り入れてほしい 

他にも、ハチナナさんの過去のイラストの何点かを参照しながら「この構図が理想的で……」ということはお伝えしたものの、今こうして振り返ってみるとあまりにもアバウトな注文で申し訳なさが募る。 

アバウトすぎる注文にもかかわらず、「多分大丈夫です!」と快諾してくださったハチナナさんの優しさに甘え、イラストのラフが到着するのを待つこと約1か月。東京都内では桜が咲き誇る頃、ハチナナさんから一枚の画像が送られてきた。


カッコよすぎでは??

縦横無尽に駆け回る配達員たち、靄が立ち込める怪しげなレストラン、妖しく光るネオンの経路案内……。あのアバウトすぎる注文から、こんなにもカッコいい構図が上がってくるのだから、イラストレーターさんの才能は凄い。このラフを見た瞬間に、ハチナナさんにご依頼して良かったと心から思った。 

その後は、書籍のサイズに上手く合わせる形で構図の微調整をしていただき、本番イラストがやってくるのを待つ。「待つ」と言っても、他の担当作を並行して進めているので、待っている感覚があるわけではない。けれど、昼食を取っている時や、寝る前の無為な時間などのふとした時に思い出して、どんなイラストになるのかソワソワとしてしまう。

4月下旬。ハチナナさんから「完成イラストをお送りします」という題のメールが来た。少し緊張しながら、メールに添付されていた画像を開く。 



ちょっと待って、凄すぎない??? 

想像していた5倍、いや10倍は素晴らしいクオリティのイラストが上がってきて、思わず会社で「おぉ~!」と言ってしまった。 

まず目が向くのは、赤いハイライトが怪しさ満点の配達員。眩しい光を放つスマホには、一体何が表示されているのだろうか。自転車で走ってきたであろう経路には蛍光グリーンのラインが煌々と光り、暗い闇に浮かんでいる。 

さらに凄いのは、背景にこれでもかと描き込まれたモチーフの数々だ。たとえば、左上にはいくつかのスープの名前が書かれた注文画面がある。このやたら名前の長いスープは、謎を解決に導く重要なカギだ。そこから視線を右にずらしていくと、ドアノブに「餃子の飛車角」と書かれたビニール袋がかかっている。さらに右にはUSBメモリと、「マルミちゃん」なる人物のSNSアカウントが見える。 これらは全て『難問の多い料理店』に登場する。

ただ。描き込まれたモチーフはこれだけではない。とにかく、文章で全てを説明しようとするとキリがないレベルなのだ。この描き込みを100%味わい、驚嘆していただくためにも、皆さんには『難問の多い料理店』をお読みいただきたい。そして、最後まで読み終えた上で、もう一度カバーイラストを見返してほしい

 さらに、このとんでもない最強のイラストに、川谷さんのデザインが組み合わさっていく。そうして出来上がった『難問の多い料理店』の書影が、これだ。



めちゃくちゃ良い……!!

何度でも言える。「この装丁は最高にカッコいい」。少しの不穏さを醸し出す「にじみ書体」で大きく書かれたタイトルと、蛍光グリーンでパッキリと書かれた副題の「THE GHOST RESTAURANT」の文字がとにかく目立つ。副題に関しては、実物も蛍光グリーンの特別なインクで刷ることになったので、書店で見かけた際にはここもぜひ注目してほしい。

そして、このカバーの下部に、あの「迷いに迷って、書店員さんの力をお借りした帯」が巻かれることとなる。私は川谷さんに「帯はこんな感じでお願いしたいです」と、これまた雑なネームを送っていた。そのネームがこちら。



10分クオリティのパワーポイントで申し訳ないのだが、なんとなくこんな感じで作りたいという雰囲気は伝わるだろうか。「こんなミステリを、私たちはずっと待っていた!!」というメインコピーを大きく出しつつ、ヒット作『#真相をお話しします』の著者であることも伝えられるような帯を、川谷さんにはお願いした。 

この10分クオリティのパワポ画像が、川谷さんの手によって大改造されると……



やっぱりかっけぇ……!!!

さっきからカッコいいだとか最高だとか、小説の編集者とは思えない語彙力になっている気がするが、毎回カッコいいのだから仕方がない。この帯の、『#真相をお話しします』の箇所は、元々の書籍のカバーと色味を合わせていて芸が細かい。背の部分も、あえて重ねるデザインにしつつも視認性を下げすぎない絶妙な塩梅で、著者名も目立つ。

このデザインがあまりにも良すぎたので、帯は特にこちらから修正依頼もなく「これでお願いします!」とお伝えした。そうしてカバーと帯が合わさった状態がこちら。



最高。 

もう、それしか言えない。ミステリらしい妖しさがありつつも、ポップさも残すというなかなか難しい領域を見事についた素晴らしいデザインを、ハチナナさんと川谷さんが見事に仕上げてくださった。本当にありがとうございます。

どの作品であっても、担当作の装丁が上がってくる瞬間は「単行本の編集をしていて良かった」と心から思う瞬間だ。 ここには詳しく書けなかったが、『難問の多い料理店』は仮フランス装というお洒落な製本様式を採用していたり、カバーを外した表紙にも金色の印刷が施されていたりと、随所にこだわりが見られる一冊に仕上がっている。このこだわりを最も間近で感じられるのが単行本の編集者の醍醐味であると、入社してからの1年間で何度も体感した。

編集者は多くの才能の間近で働き、その才能に驚き続ける仕事だ。殊に小説の編集は、作家の才能によって生み出された物語に、イラストレーターやデザイナーの才能を適切に掛け合わせることが求められる。それらの相乗効果が上手く行った時、本という形になった物語は、多くの読者に届いていくのだと思う。『難問の多い料理店』も、そうなることを心から願っている。


 

終わりに

こうして校了に辿り着いた、結城真一郎さん待望の新作『難問の多い料理店』。記事ではカバーデザインに焦点を合わせましたが、今作はカバーだけでなく、本文中の目次などのデザインも併せて川谷さんに依頼しています。このデザインがまた素晴らしくカッコいいのですが、そこまで見せてしまうと買った時の楽しみが無くなってしまうような気がするので、カバー以外のデザインは、購入していただいた方だけのお楽しみです。 



『難問の多い料理店』の発売日は6月26日(水)。特に示し合わせたわけでもないのですが、奇跡的に前作『#真相をお話しします』の新潮文庫版と同日の発売です。発売まで残り2週間ほど、どうぞ首を長くしてお待ちください。

各ネット書店での予約は、以下のリンクより可能です。リンク先のページからは、今作の詳細なあらすじもお読みいただけます。この記事を読んで少しでも『難問の多い料理店』が気になった方は、ぜひ予約をしていただけますと嬉しいです



さて、記事の冒頭で、こう書いていたことを皆さんは覚えていますでしょうか。「最後には、『難問の多い料理店』に関連する大きめの告知が2点ございますので、併せてお読みいただけますと幸いです」と。 

ということで、大変お待たせしてしまいましたが、最後に『難問の多い料理店』に関連した告知を2点させていただきます。



1.『難問の多い料理店』第一話全文特別公開!

『難問の多い料理店』の第一話にして、『本格王2023』(講談社文庫)にも収録された、ミステリ界でもお墨付きの作品「転んでもただでは起きないふわ玉豆苗スープ事件」を、6月13日(木)23時ちょうどに、集英社・文芸のnoteで全文公開いたします。

「転んでもただでは起きないふわ玉豆苗スープ事件」は、ビーバーイーツ配達員の「僕」と、怪しげなオーナーシェフが、火災現場に突入した謎の人物の正体を追う本格ミステリ短編です。30分ほどあれば、この物語の魅力にどっぷりと浸かれるかと思います。6月13日は、ほんの少し夜更かしをして物語の怪しげな世界をご堪能ください。

しかし『難問の多い料理店』は連作短編集。もちろん第一話だけでも謎解きを堪能できますが、連作短編集独自の面白さがにじみ出てくるのは第二話以降です。もしかすると「転んでもただでは起きないふわ玉豆苗スープ事件」の登場人物が、後々の展開に意外な影響を与えるかもしれません。『難問の多い料理店』は、6編通して皆様に極上の謎を配達いたします。 

第一話が公開され次第、集英社文芸書のX(旧Twitter)やInstagramでも告知を行いますので、アカウントをお持ちの方はぜひこの機会にフォローをよろしくお願いいたします。 




2. 刊行記念スピンオフ短編が、雑誌「小説すばる」に掲載決定!

二つ目のお知らせです。『難問の多い料理店』の刊行を記念し、スピンオフ短編「今度こそ許すまじ春野菜といんげん豆の冷製スープ事件」が、雑誌「小説すばる」7月号に掲載されます。噂によると、どうやら『難問の多い料理店』に収録されている6つの謎とは少し様子の異なる謎が、あなたを待ち受けているようです。

 発売は6月18日(火)。『難問の多い料理店』の世界を少しでも早く味わいたいという方、もしくは『難問の多い料理店』の発売直後に物語の虜となってしまい、この世界観をさらに楽しみたくて仕方がないという方は、ぜひこちらも併せてご購入ください。 雑誌の性質上、店頭に並ぶのは発売日から約1か月となります。買い逃しの無いように、十分ご注意ください。



さて、前回の記事が10000字程度になってしまったこともあり、今回は5000字程度で収めようと考えていたのですが、相変わらず私は文字数の管理が下手で、気づけばまた10000字になってしまったようです。ここまでお読みいただいた皆様、本当にありがとうございました。

それでは、『難問の多い料理店』へのみなさまのご来店を、心よりお待ちしております。



◉書誌情報
『難問の多い料理店』
著者:結城真一郎
2024年6月26日発売/1,870円(税込)
352ページ/四六判仮フランス装
装画:ハチナナ 装丁:川谷康久
ISBN:978-4-08-771870-6

◉収録作
転んでもただでは起きないふわ玉豆苗スープ事件(『本格王2023』選出作)
おしどり夫婦のガリバタチキンスープ事件
ままならぬ世のオニオントマトスープ事件
異常値レベルの具だくさんユッケジャンスープ事件
悪霊退散手羽元サムゲタンスープ事件(『本格王2024』選出作)
知らぬが仏のワンタンコチュジャンスープ事件

◉著者略歴
結城真一郎(ゆうき・しんいちろう)
1991年、神奈川県生まれ。東京大学法学部卒業。2018年『名もなき星の哀歌』で第5回新潮ミステリー大賞を受賞してデビュー。2021年「#拡散希望」で日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞。「#拡散希望」を収録した『#真相をお話しします』で、2023年本屋大賞ノミネート。その他の著書に『プロジェクト・インソムニア』『救国ゲーム』がある。


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