エア本屋・いか文庫の空想ブックフェア【第15回】 「おやつ」の世界に飛び込もう!フェア
お店も商品も持たない「エア本屋」・いか文庫。
テレビにラジオに書店の棚に、神出鬼没のいか文庫が『小説すばる』誌上で開店しました!
第15回のフェアのテーマは「おやつ」です。
いか文庫 ◆店主(リアルでも書店員)と、イカが大好きなバイトちゃん(ベトナム支社)、バイトぱん(東京支社)、バイトもりもり(関西支社)、バイトいも(イギリス支社)の計5名で活躍中のエア本屋さん。
店主 バイトぱん、今日のおやつは何ですか?私はね、最近あらためて美味しいなあと思ってる、果物のグミです。
バイトぱん(以下、ぱん) 果物のグミ!懐かしいです。昔よく食べてました。私はチョコレートです。
店主 チョコもいいね!どんなチョコ?
ぱん スパイスの入った板チョコです。丸かじりにハマってて……最近の板チョコはおしゃれな味がしますね。
店主 板チョコまるかじり!憧れる! あ、でも、子供の頃にも、すっごくおしゃれな板チョコがあったよ。ハマってよく食べてたんだよね、ティラミスチョコっていうの。
ぱん ティラミスチョコ!最近読んだ本に載ってました!オカシ屋ケン太さんの『おやつストーリー』って本なんですけど、知ってますか?
『おやつストーリー』オカシ屋ケン太(講談社)
店主 なんと!私もその本、持ってるよ!
ぱん 本当ですか!ケーキ屋さんとか洋菓子屋さんのおやつじゃなくて、コンビニとかスーパーで買える、素朴なおやつを紹介したコラムなんですよね。
店主 うんうん。私は子供の頃パン屋さんでおやつを買っていて、さっき言ったティラミスチョコとか、飴とかガムとかを、おつかいついでに買ってたよ。
ぱん パン屋さんでおやつが売ってるんですね!ティラミスチョコ、私は食べたことないんですけど美味しそうです。
店主 あとこの本、一つのおやつを取り上げて、気になるところをつついてくる感じも面白いよね。私の今日のおやつのグミのことなんて、食感が苦手って書いてるもん。
ぱん そうそう、自分が好きだったおやつを取り上げてたりすると嬉しくなりますよね。昔、テディグラハムっていうクマの形をしたクッキーが大好きで、この本でも紹介されてるんですけど、パッケージのテディベアの大群を見てると不気味な気分になってくるって書いていて。昔は可愛いと思ってたけど、たしかに今見るとちょっと不気味かも……って思いました。
店主 テディグラハム知ってるー!私も可愛いと思ってたけど、たしかに大群は……かも(笑)。最後の方におやつの検索ページも載ってるんだね。全部見開き2ページのコラムだし、気になるものを選んで読めるのもいいね。
ぱん そうなんですよね。あと、それぞれのおやつにBGM付けたりもしていて、おやつを食べながらその音楽を聴くのも楽しそうって思いました!
店主 あ、じゃあ次のフェアのテーマは「おやつ」にしない?お菓子じゃなくて、おやつにフィーチャーしてみるの。
ぱん いいですね!私最近までお菓子とおやつは同じ意味だと思ってたんですけど、おやつには軽食も入るんですよね。
店主 そうなんだ!
ぱん おやつの可能性は無限大です。日本だけじゃなくて世界にもおやつはありますからね。この、岸田麻矢さんの『異国のおやつ』っていう本にはいろんな国のおやつが紹介されてるんですが、なんと、全部東京で食べられるんですよ。
『異国のおやつ』岸田麻矢(エクスナレッジ)
店主 異国なのに!? すごっ!バイトぱんが食べてみたいものは?
ぱん 私が気になったのは、もちもちしたドーナツみたいな、ピカロネスっていう、ペルーのおやつです。甘酸っぱいシロップをかけて食べるらしいんですが、どんな味なのか全然想像がつかなくて、すごく気になります……。
店主 ペルーのドーナツ……それは確かにイメージできないね。あ!このマヨルカっていうお店知ってる!
ぱん えっ本当ですか?行ったことありますか?
店主 うん。スペイン料理のレストランなんだけど、よくテイクアウトするんだ。え、でも待って。いつも食べてるこのエンサイマーダ、ラードをたっぷり使ってるって書いてない?か、か、か、カロリー!!
ぱん この、ふんわりサクサク、渦巻き菓子パンってやつですね。ラードは強いですねぇ。でも、めちゃくちゃ美味しそうです〜。
店主 そうなの〜ぺろりと食べられるんだよ〜。コーヒーにもとても合うし、最高のおやつだよ。そういえば、異国の食べ物の本といえば、米原万里さんの『旅行者の朝食』もあるね。
『旅行者の朝食』米原万里(文藝春秋)
ぱん 昔読んで、ハルヴァがどうしても食べたくなって探し回った記憶があります。
店主 あ、そうそう、ハルヴァのところをちょうど話したかったの。子供の頃にロシアのお土産として食べたハルヴァっていうお菓子の美味しさがずーっと忘れられない米原さんが、ひたすらに追い求める話。日本で言うと落雁に似ているっぽいけど、衝撃的な美味しさで食べる手が止まらない……っていうのが、こちらまで興奮するよね。
ぱん そうそう、あまりにも美味しそうに書いてるから気になってネットで調べたら、見た目は全然美味しそうじゃなくて……。逆にますます食べたくなったんです。ちなみにさっき話した『異国のおやつ』にもハルヴァの話が載っていて、米原さんの本のことも書いてるんですよね。
店主 それで言うと、ハルヴァに似てるって米原さんが書いているスペインのお菓子、さっきのスペイン料理店にも売ってる!
ぱん ハルヴァとの繫がりが、いろいろすごい!
店主 米原さんのハルヴァへの探究心がさらに進んで国々の歴史にまで到達するのを読んでると、おやつの奥深さを学べるね。コンビニで買うおやつだって『おやつストーリー』で気づいたように、その時代時代の影響を受けているし、これは一つの学問とも言える!
ぱん たしかに!こんな学問だったらよろこんで学びますね。ちょっと雰囲気が変わりますが、午後さんの『眠れぬ夜はケーキを焼いて』というコミックエッセイもおやつの本かも。
『眠れぬ夜はケーキを焼いて』午後(KADOKAWA)
店主 あ、まだ読んでなかったけど気になってたよ。タイトル通り、ケーキを焼くんだよね?
ぱん ケーキだけじゃなくて、プリンや豆腐のアヒージョなど、まさにおやつですね。午後さんは、毎日寝る時間と起きる時間、眠る長さも違うので、真夜中に目が覚めて眠れなくなってしまうことが多いらしく、そんな時におやつを作るそうなんです。
店主 ほうほう。レシピも載ってるの?
ぱん レシピも載ってます。普段料理をしない私でもコレなら……って思えるくらい簡単に簡潔に描かれていて、おやつ作りの合間に、ここで洗い物を片付けるとか、ちょっと休憩とかもあるので、手順をイメージしやすいんです。いつもおやつは命がけ、くらいの気持ちで作っていたので、こんなにゆるくていいんだって、目から鱗でした。
店主 そういえばこの間、疲れすぎて変なテンションになっちゃったんだけど、クッキー作ったら落ち着いたって言ってた子がいたな……そんな感じかしら?
ぱん そんな感じかもしれないですね。
店主 自分で作ると自分の好きな味に作れそうだから、満足度も高いかもね。
ぱん そうですね。あと焼きたてのおやつの香りってなんか心が落ち着く気がしますよね。私も気持ちがわーっとなって眠れない時があって、今まではなんとかして寝ようとベッドでゴロゴロしてたんですけど、今度はおやつ、作ってみようかなと目論んでます。
店主 いいね、いいね。幸せな気持ちになりそう。おやつって、食べるものもその時間も、束の間だけどすごくほっとするよなって思うの。だからそんな気持ちを味わえる本をもう何タイトルか選んで、いいフェアにしたいね。
ぱん そうですね。美味しくて幸せになれるおやつの本、探してみます!
※本記事は『小説すばる』2021年8月掲載分です。第16回は『小説すばる』2021年9月号誌面にて掲載予定です。(http://syousetsu-subaru.shueisha.co.jp/)