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エア本屋・いか文庫の空想ブックフェア【第16回】 あれもこれもゲーム!フェア

お店も商品も持たない「エア本屋」・いか文庫。

テレビにラジオに書店の棚に、神出鬼没のいか文庫が『小説すばる』誌上で開店しました!

第16回のフェアのテーマは「ゲーム」です。

いか文庫中

いか文庫 ◆店主(リアルでも書店員)と、イカが大好きなバイトちゃん(ベトナム支社)、バイトぱん(東京支社)、バイトもりもり(関西支社)、バイトいも(イギリス支社)の計5名で活躍中のエア本屋さん。

店主 もりもりって、将棋が大好きじゃない?将棋の小説とかも読むの?

バイトもりもり(以下、もり) もちろん!読みます読みます!将棋って難解なゲームなので、駒の動きだけ見ても私はわからなくて。だからその勝負の世界を、どんなふうに言葉で表現するのかなってすごく興味があって読んでしまうんです。

店主 私は将棋をテーマにしたマンガなら読んだことあるんだけど、たしかに勝負の時はすごく集中しないとついていけなかったな。最近読んだ将棋小説でおすすめのものってある?

もり はい、芦沢央さんの『神の悪手』です!将棋をテーマにした短編ミステリ集なんですが、著者の芦沢さん自身が将棋がお好きということもあって、棋士の心情とか勝負の描き方とかもう表現が全てリアルで痺れました。

神の悪手書影

『神の悪手』芦沢 央(新潮社)

店主 将棋とミステリの組み合わせ!予想外だったよ。どんなお話なの?

もり 表題作は棋士の養成機関である「奨励会」で棋士を目指す青年が主人公の物語です。そこは年齢制限のある過酷な世界で、彼は大事な対局の前日に精神的に追い込まれていて、ある罪を犯してしまうんです。それを隠しながら対局に臨み、あるアリバイ作りを思いつく……というお話です。

店主 将棋の試合ってただでさえプレッシャー凄そうだけど、そんな状況に追い込まれるほどって……。リアルに感じられる空想の世界って、よりいっそう手に汗握るから入り込んじゃうよね。

もり まさに、その追い込まれていく様子とか心理が、読んでいてもひしひし伝わってくるんです。作中「こんなもののために」っていう主人公の言葉があって。こんなものっていうのは将棋のことなんですが、好きで始めたことなのに今はもう苦しくて苦しくて、それでも指している自分がいるという切なさとか虚しさが伝わってきて、堪らなかったです。

店主 苦しさや虚しさといえば、私は最近こんな本を読んで、思わず何度か「わ!」って声を出したよ。gozzさんの『無人島漂着100日日記』という、1日1ページ、イラストと少しの日記で描かれていく物語です。

無人島漂着100日日記書影

『無人島漂着100日日記』gozz(KADOKAWA)

もり どんなお話なんですか?

店主 主人公が無人島の浜辺で倒れているところから始まるのだけれど、記憶が無くなってしまっていて、自分がなぜそこにいるのか?がわからないの。

もり 気になる始まり方!どうなっちゃうんですか?

店主 わからないんだけれど、でも、生きてこの島を抜け出さなきゃって思ってね。いろんな食べ物を試したり、火おこしして釣りや狩猟で獲物をとったり、あと家を作ったり。生活に使えるものが無いか、抜け出すための道具は無いかと、島を探検したり。でも人間以外の謎の生き物も棲んでいて襲われたりもする。

もり すごい。サバイバルな日々の記録なんですね。

店主 そうなの。その上イラストが変わっていてね。主人公がいる場所が、平面じゃなくて立体的に、しかも断面図を含めて描かれているの。主人公の身に起きている、見えている事柄はもちろんなんだけど、足下に広がる地下にどんな物事が潜んでいるかが読んでいるこちらにだけ見えちゃってるから、危機感とか不穏感が漂っていて、どうなっちゃうの?大丈夫なの?って、ページをめくる手が止まらない!

もり なるほどそういう効果が!

店主 私、コンピューターゲーム、特にRPGゲームが、興味はあるのにできない人なんだけど、この物語のゲームならちょっとやってみたいって思った。

もり うんうん。私は逆にゲームにはまりすぎちゃう性格で、むしろ熱中しないように気をつけているんですが、これがゲームになるのは面白そうです。そういえば最近、ゲームを作っている人の本を読んだんですが、ゲームの奥深さを感じました。

店主 もしかして、『岩田さん』

岩田さん書影

『岩田さん 岩田聡はこんなことを話していた。』ほぼ日刊イトイ新聞 (株式会社ほぼ日)

もり そうですそうです!任天堂の元社長で、「ニンテンドーDS」や「Wii」の生みの親である岩田聡さんの本です。店主も読まれましたか?

店主 ずーっと読みたいと思ってて、でもまだ読めてない……。詳しく教えて!

もり 岩田さんが仕事をする上で大事にしてきたことが書かれているんですが、ゲーム作りの部分で特に印象的なお話がいっぱいあって。例えば岩田さんはWiiを開発するときに「家庭内でゲームが敵視されないようにするためにはどうしたらいいか?」をずっと考えていたそうなんです。

店主 敵視かぁ。たしかに、夢中になりすぎて他のことが手につかない、ってイメージあるもんなぁ。

もり ですよね。でもそういう社会的に悪いイメージを変えるためにも、ゲーム機に全く触らない人たちにさえ日常的に触ってもらえるようなゲームにするにはどうしたらいいか?と、考えたそうです。

店主 「Wii Fit」とか、ゲームで運動!?って思ったもんね。

もり はい、そういうご褒美がスコアやクリアーじゃなくて実生活に表れるというのも、ゲームをしない人に向けた新しいアプローチだったそうです。「こうしないとゲームらしくないぞ」と枠を決めていたのは自分たちだったと書かれていて、自分の仕事でもそういうのいっぱいあるかも……と思いました。

店主 ほんとうにそうかも。ゲームっていう娯楽から、仕事の哲学も学べるんだね。ゲームにすごく興味が湧いてきた!あ、じゃあ今度のフェアのテーマは「ゲーム」にしよっか。

もり 賛成です!店主は他におすすめのゲームの本ありますか?

店主 急にアナログになるけど、これ。ナショナルジオグラフィックの『西洋アンティーク・ボードゲーム 19世紀に愛された遊びの世界』なんてどうかな?

西洋アンティークボードゲーム書影

『西洋アンティーク・ボードゲーム 19世紀に愛された遊びの世界』
エイドリアン・セビル(日経ナショナルジオグラフィック社)

もり 一気に世界観が変わって素敵!中はどんな本なんですか?

店主 19世紀にヨーロッパで広まったボードゲームを、見開き1ページずつ紹介していく本だよ。日本でいう「すごろく」みたいなゲームがたくさん集められているんだけれど、16世紀末に生まれた「がちょうのゲーム」から始まって、ゲームしながら学べる教育的なものや、社会への風刺を込めた大人向けのものなど、いろいろな種類が作られていたそう。繊細で色鮮やかなデザインばかりだから、まるで一枚の絵を見ているようで、楽しいよ。

もり 店主が気になったゲームは?

店主 ジュール・ベルヌの小説『八十日間世界一周』をベースにしたもの、ココアで有名なバンホーテンが宣伝のために作ったゲーム、あと、女性参政権獲得のための闘争運動の流れを追ったゲームまであってね。ゲームがただ楽しむだけじゃなく、時勢に大きく寄り添うものだってことも知れるんだ。

もり そんな側面もあるんですね。知らなかった……。ゲームの世界って知れば知るほど奥が深くておもしろいですね。

店主 最近はプロのゲーマーが世界を相手に戦うeスポーツも人気だよね。テクノロジーが進んでますますゲームの可能性は広がるだろうし、苦手だからと言わずにチャレンジしてみたいな。

もり うんうん。歴史あるゲームの将棋も、今は中継にAIが使われていて、ゲームの対戦画面に近い感じで観て勝負を楽しめるようになっているんです。

店主 そっか、観て楽しむだけでもいいんだね。ますます興味が湧いてきた!フェア、ゲームするみたいに盛り上げようね!

※本記事は『小説すばる』2021年9月掲載分です。第17回は『小説すばる』2021年10月号誌面にて掲載予定です。(http://syousetsu-subaru.shueisha.co.jp/

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