外資系コンサルの知的生産術 対話篇 その1

10年前に出したこちらの本、お陰様でこの手の本としては異例のロングセーラになっております。

で、先ほどファイルをガサゴソと掘り返していたら、この本を書くにあたって作成した、プロトタイプの「対話篇」が出てきまして、これがなかなかに味わい深かったので、NOTEで少しずつ共有していきたいと思います。

結果的にこちらの対話篇はボツになり、通常の独白型になったのですが、読者の理解と歩調を合わせるということでいうと、こっちの方が良かったのじゃないかしら、と思うところもあり。

皆さんの感想をいただければと思います。いかが「外資系コンサルの知的生産術 対話篇」の冒頭になります。

ちなみにここでのPはパートナー、Jはジュニアの略語で、コンサルファーム用語ですね。

第一章:知的生産の「戦略」を策定する

1.        深さと新しさ

P:仕事でもプライベートでも構わないのだけど、なんらかの知的生産を行う、ということになったらまず何をやる?

J:そうだなあ、まずは資料を集めるとか、その領域に関連する本を買ったり、ネットで関連する情報を集めたりといったことでしょうか?

P:うん、そうだね。普通に大学を卒業してある程度の知的生産のトレーニングを受けてきた人はまずそういう動きをすることが多いんだけど、実は情報収集はもっとずっと後回しで構わないんだ。

J:情報収集をせずに何をやるんですか?

P:戦略を立てるんだよ。

J:戦略。。。?

P:うん、戦略。まずそもそもの考え方からしっかりと共有したいのだけど、僕らが行う知的生産には基本的に経済的な対価が支払われている。これは全てのホワイトカラーワーカーに言えることなんだけど、つまるところ、僕らは知的成果を生産して売っている個人業者、ということに他ならない。ここまではわかるかい?

J:はい。確かに、それはその通りだと思います。

P:商品を生産して売る、つまりこれはマーケティングの一種ということだ。マーケティングの基本は一通りやっているよね?マーケティングで最も大事なポイントって何だと思う?

J:差別化ですかね。

P:そう差別化だ。もっと厳密に言えば「差別的パーセプションを形成する」ということだけど、まあここではざっくり差別化で構わない。ではここで敢えて聞きたいのだけど、差別化ってそもそもどういうことかな?

J:他社の競合製品と異なる付加価値を生み出す、ということだと思いますが。

P:優等生の解答だね。恐らくビジネススクールの先生も含めて殆どの人はそう答えるだろう。が、満点の正解ではない。何が欠けていると思う?

J:うーん、一応ビジネススクールではそう習ったんだけどなあ。ちょっと待って下さいね、考えますから。うーん、いまの定義を要素還元すると、構成要素は「他社の競合製品=差別化の対象」と「異なる付加価値=生み出すもの」の二つだけだから、いじれるとしたらこのどちらかですね。「異なる付加価値」は差別化の根幹に関わる要素なので、これ以上いじりようがないように思います。いじれるとしたら「他社の競合製品=差別化の対象」という指摘に何らかの過不足がある、ということになりますね。

P:おおお、なかなか鋭いね。そう、先ほどの差別化の定義には一つ問題がある。差別化というとマーケティング畑の人はすぐに競合製品との比較をイメージするけれども、実は一番大事な比較の相手は競合製品ではないんだ。なんだと思う?

J:そこまでヒントをもらえればさすがにわかります。顧客が既に持っているソリューションが最大の競合になる、ということですね?

P:そうだ。差別化は一般にシェアの議論に用いられるけれども、シェアは市場規模があってこそ議論として浮上する。市場がなければシェアもへったくれもないからね。では市場規模はなにによって決まるか?それは顧客が既に持っているソリューションと市場が提供できるソリューションの便益の差分の合計値ということになる。ここまではわかるよね?

J:はい。

P:この上で、では知的生産を行うに当たって、何を最初にやらなければいけないかを改めて考えると、なにか見えてくる?

J:相手が既に知っている知識とどう差別化するか、という点を考えないといけない、ということですかね?

P:そう、その通り。まず、僕らが知的生産を行う際に求められるのはもちろん差別化なのだけれども、その差別化の対象になるのは、なんといっても「相手がすでに持っている知識」なんだ。

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