プロジェクトを炎上させないための「たった一つのコツ」
「勝てるプロジェクト」を見極める
僕はコンサルタントという仕事をかれこれ20年以上続けていますが、一つ自慢があって、それは「プロジェクトを炎上・爆発させたことが一度もない」ということです。こう書くと、ではプロジェクトマネジメントになにか特殊なテクニックを使っているのかと思われるかも知れませんが、そういうわけではありません。
まあ、多少は気の利いたことをやっている部分もないわけではないですが、筆者とプロジェクトをしょっちゅう炎上させている人とのあいだに、「プロジェクトマネジメントのスキル」について、なにか大きな違いがあるとは思えない。
ではどこに違いがあるのかというと、「プロジェクトの目利き」に違いがあるのだろうと思っています。端的にいうと、僕は「確実に成功が見込めるプロジェクトだけをやってきた」ということです。「確実に成功が見込めるプロジェクト」では、ちょっと定義が長いのでここから先は短く「勝てるプロジェクト」と短縮しましょうか。「勝てるプロジェクト」を見極めて、そこに自分の身を置く。これが、プロジェクトリーダーとして成功する為の最初のポイントになります。
なあんだ、そんなことか、と思われましたか?
でも、これは軍事でもマーケティングでも基本的に同じことです。たとえば、連戦連勝で知られた「作戦の天才」ナポレオン・ボナパルトのその「強さ」の秘密について、19世紀プロイセンの軍事学者で「戦争論」の著者として知られるクラウゼビッツは端的に「勝てる闘いしかやらなかったから」と指摘しています。
有名なのはトゥーロン港の攻防でしょう。1793年、重要拠点であるトゥーロン港をめぐって英仏両軍は消耗戦をくり返していました。ここで若きナポレオン(当時二十四歳)は、トゥーロン港を直接攻撃するのではなく、トゥーロンの内港と外港をつなぐ位置にあるレギエットの要塞を攻略し、英軍にとって不可欠な海からの補給を絶つという作戦を将軍に進言したのです。
この進言は、一度は断られたものの最終的には採択され、フランス軍は勝利します。この功績によりナポレオンは一気に准将まで昇進します。「勝てない闘い」を避け、「勝てる」かつ「意味がある」戦場を見つけ出す。これがナポレオンのやったことでした。
NHKの「プロジェクトX」などを見ていると、「不可能を可能にする」ようなリーダーが次々に登場してきますが、こういった人物は一種のファンタジーであって、007シリーズのジェームズ・ボンドのようなものだと思っていた方が良いでしょう。
不可能に挑んでこれを可能にした、という一人のリーダーに光を当てれば、その陰に同じことをやろうとして失敗した数百倍、数千倍の屍が横たわっています。
だからこそ彼らはテレビ番組で取り上げられるわけで、現実の世界で実際にプロジェクトを着実に成功に導くリーダーというのは、ああいった派手なものではありません。いわゆる「勝ち筋」を見いだして、その筋に沿ってプロジェクトの計画と体制を整える。とても地味だし、周りから見てみれば「成功して当たり前だよね」と感じるものです。
しかし、ここにこそスゴさがあるのです。「成功して当たり前だよね」というプロジェクトをこなして、毎回成功させ続ける人と、なぜかしょっちゅうプロジェクトが炎上している人との違いは、プロジェクトマネジメントの巧拙によるのではなく、最初の「勝てるプロジェクトかどうか」の見極めによっている、と僕は思います。
「勝てないプロジェクト」を見極めるチェックポイント
プロジェクトを成功に導く為の最初のポイントは「勝てるプロジェクト」を見極めること。では、どうやったらプロジェクトの勝算を見極められるでしょうか?
最初に指摘したいのが「目的が不明確なプロジェクトはポシャる可能性が高い」ということです。たとえば「複線型人事制度を導入する」とか「サプライヤーを集約する」とか「管理会計システムを導入する」とかは、すべて「手段」であって「目的」ではありません。
ところが、日本企業ではこの「手段」ばかりが議論される一方で、「なんのためにやるか」という「目的に関する議論がスッポリと抜け落ちていることが少なくありません。
では「目的」がないとなにがマズいのか。「目的」がないと、大きく二つの問題が起きます。
一つ目。「目的」が明確に設定されていない場合、プロジェクトに問題が起ったときに迂回路を取れないという問題が発生します。目的が明快であれば、当初やろうとしていた手段に問題があるとわかった場合、別の手段を採用してでも結果的に目的が達成出来れば問題ありません。
ところが、目的が明確化されずに単に手段だけが合意されている場合、手段に問題があるとわかったときに、とたんにプロジェクトが暗礁に乗り上げてしまうのです。
二つ目。チームメンバーの管理が難しくなります。プロジェクトメンバーに自己裁量を委ねて実力を発揮してもらうためには「○○をやれ」という具体的な行動の指示命令ではなく、「○○を達成しろ」という目的を伝達することが必要です。
これはよく言われる「壁と大聖堂」のたとえ話です。中世の時代、大聖堂を建築する為の現場リーダーが三人いました。
一人は「朝現場に来たら、夕方までここにレンガをひたすら積め。毎日毎日ちゃんと朝来い。」と指示します。
もう一人は「君には高さ15メートル、幅50メートルの壁をつくって欲しい。期限は半年間だ。」と指示します。
そして最後の一人は「ここに大聖堂を立てて苦悩している人が集まれる場所をつくろう。君には西側の壁をつくって欲しい。これが完成予想図だからこれを見て東側の壁を担当する人と連携して欲しい」と伝えます。
どのリーダーの下で働くスタッフが、動機づけられ自己裁量を発揮して創意工夫しながら良い仕事をしてくれるか、比べるまでもありません。
気をつけなければいけないのが、例えば「複線型人事制度の導入」や「シェアードサービスセンターの設置」といった、一見するとまともそうな目的が設定されている状況です。
確かに、これはこれで目的と言えなくもないのですが、重大なポイントが抜けています。なんだかわかりますか?それは「なんのために?」という疑問に対する答えです。ビジネスでは往々にして「手段」に議論が集中しがちです。先述した「複線型人事制度」も「シェアードサービスセンター」も、それ自体としては単なる手法でしかありません。
大事なのは「手段」ではなく「問題」であるはずです。「問題」とは「現状」と「理想」のギャップですから、「問題」を議論するということは「何を、どう変えたいのか」ということを議論するということであり、その点がはっきりすれば、プロジェクトの目的として「何のために」という答えをはっきりと語ることができるようになります。
この「何のために」という答えを、目の前の地面の上に据えておかないと、人はどうしてもどこかでシラケてしまい、熱量を維持することができなくなります。
人は「意味のない仕事」には一生懸命になれない
ニーチェは『力への意志』において、ニヒリズムを次のように定義しています。
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