「グラン・メゾン・パリ」のリーダーシップ分析

遅ればせながら、木村拓哉さん主演の劇場映画「グラン・メゾン・パリ」を見てきました。

ドラマをずっと見てきたので、もちろんエンタテインメントとして、とても楽しめたのですが、この映画をみてとても感心したのが、脚本が、組織開発のフレームに照らして、非常に説得力のあるものになっていた、という点です。

以前に、こちらの記事で、リーダーが組織を動かす際に用いる6つのスタイルについて共有しました。

あらためて確認すれば、この記事では、僕が以前務めていたコンサルティング会社が用いていたリーダーシップ分析のフレームとして下記を紹介しています。

リーダーが発揮する6つの組織介入のスタイル

すでにあの映画をご覧になった、という方であればすぐにわかると思いますが、映画の前半で木村拓哉演じる尾花夏樹シェフが発揮していたリーダーシップ・スタイルは完全に「指示命令」と「率先」でした。

それぞれの領域に多様な能力と専門性をもったスタッフがいるにも関わらず、それらスタッフの提言やアイデアをことごとく「お前の意見なんか聞いてねえ」と却け、とにかく自分の言う通りにやらないと容赦しない・・・それができなければ「自分の指示が実践できないのであれば去れ」とばかりに仕事を奪ってしまう。

映画の冒頭で、スタッフの一人が「もうちょっと人に任せてもいいんじゃないですかね」という嘆息に、尾花夏樹のリーダーシップスタイルの偏りがはっきり出ています。

尾花夏樹が発揮していた「指示命令」と「率先」という二つスタイルは、短期的にパフォーマンスを高めるには有効なものの、長期にわたって継続すると組織は疲弊し、退職は増え、いわゆる「燃え尽き症候群」に陥ることがわかっています。

そして、実際に映画でも同様のことが起きます。自分の実力でミシュラン二つ星までは取れたものの、どうしても三つ星が取れない。焦る主人公はさらに高圧的になり、責任をスタッフになすりつけて感情的に怒鳴りつけます。

しかし、このスタイルには決定的な問題があります。それは何かというと、このスタイルを続けている限り

リーダーの器以上のものを、組織が生み出すことができない

ということです。どんなに多様な専門性や才能やバックグラウンドをもった人を組織に抱えていても、それを引き出すことができない、というのがこのスタイルの最大の問題なのです。

ネタバレになる可能性もあるので詳細は端折りますが、最終的に追い詰められた主人公は、自分の延長線上に三つ星の可能性がないことを悟り、スタッフに「みんなの力を貸して欲しい」と協力をお願いします。

これをリーダーシップスタイルでフレームで考えれば、これは「民主型」の発揮ということになりますが、ここでポイントになるのが、それに先行して、主人公が

うちの店の強みは西洋、アフリカ、東洋といったバックグラウンドの異なるスタッフが集まっていること。そのバックグラウンドの多様性を活かして、新しいフレンチの提案をしたい。どうか皆さんの知っている食材でフレンチに活かせそうなアイデアがあれば、それをぜひ聞かせてほしい。

と明言したことです。

もうわかりますよね、これは先ほどのフレームで言えば「ビジョン型」を発揮したということです。「民主」のスタイルは、組織の活性度を高め、貢献実感を生み出す上で非常に有効なスタイルではあるのですが、実はこれだけを発揮しても業績向上への貢献はそれほどないことがわかっています。

この「民主」のスタイルが、真に業績に貢献するのは、その前提に、組織の構成員が湧き立つような共感できる「ビジョン」が示されている時なのですね。

そして、まさに主人公の尾花夏樹は、この「組織構成員が湧き立つような共感できるビジョン」を示した上で、スタッフ全員に力の限りアイデアを出してほしい、と依頼しているのです。

ということで、この映画は、エンタテインメントとして優れているだけでなく、実は組織開発・リーダーシップ開発の側面から捉えても、大変に説得力のあるものになっている、ということがわかります・・・

というよりも、正しくは、現実に起きうる組織の変革、リーダーの成長のパターンをドラマの中で描けているからこそ、そのドラマには説得力が生まれる、というべきなのでしょうね。

実は、古今東西の大ヒット映画や名作映画をこのフレームで分析してみると、とてもよく出来ていることがわかるのですよ。

たとえば、同じく大ヒットした国民的映画「踊る大捜査線 レインボーブリッジを閉鎖せよ」では、本庁から派遣された沖田仁美捜査官の発揮したリーダーシップスタイルと、それに変わって指揮を取ることになった室井慎次のリーダーシップスタイルが、とても対照的に描かれていることがわかります・・・ということで、こちらの分析はぜひ皆さん自身の手でやってみてください。

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