ビートルズから学んだ「人生の戦略」とは?

僕は自分の趣味である音楽から、随分と「人生の戦略」に関する示唆をもらってきました。その最たるものの一つが、小学生の時からずっと聴いているビートルズです。

ビートルズから僕が学んだ「人生の戦略=ライフ・マネジメント・ストラテジー」には、次の三つがあります。

  1. 順番が大事

  2. 人選が大事

  3. 密度が大事

順にいきましょう。

順番が大事

まずは「人生では順番が大事」ということです。この話は以前に、番組ナヴィゲーターを務めているJ-WAVEさんのインタビューでしたことがあるので、そのまま抜粋を持ってきます。

僕、一冊目の本を出したときはそこそこ売れたんですけど、二冊目の本はまったく売れなかったんです。二冊目のほうが、本当に僕が書きたいことを、本当に気合を入れて書いていたんですが、一方で世の中に受け入れられなかった。この現実を目の前にして悟ったんですね。それは「自分が書きたいものを書けばいいってものじゃない」、さらに言えば「品質の高いアウトプットだから売れるというものでもない」ということです。じゃあどうするか?と考えた際に、ビートルズについて分析したんです。

――というのは?

僕はこれを「ビートル戦略」と呼んでいるんですけど、きちんとメディアでお話するのはこれが初めてなんじゃないかな。ビートルズは8年間の活動期間で合計13枚のアルバムを出していますが、途中から音楽性が大きく変化していきますよね。
初期の頃は恋愛をテーマにしたシンプルなラブソングがメインでした。タイトルも「She Loves You」とか「I wanna hold your hand」といったわかりやすいものばかりです。こういった、顧客の好みにドンピシャに合う曲をたくさん書いて音楽マーケットにおいて一定のポジションを築いた彼らが、それまでのわかりやすいラブソングから一気にギアを変えて出したのが、七枚目の「リボルバー」でした。
リボルバーの一曲目は「タックスマン」で税金について歌い、二曲目は「エリナーリグビー」で孤独に苛まれながら生きていく人々を描いた歌です。エリナーリグビーは出だしの和音から短調ですしね。つまり、初期の頃にバンドを好きになった顧客を裏切っていくような音楽スタイルに変化したわけです。

――そうですね。

そして最終的には、非常に難解な「ホワイトアルバム」のレベルまで突き進んでしまう。しかし、このアルバムは世界中から支持される作品になったわけです。
この一連のシークエンスを整理して改めて気づいたのが「大事なのは作品の質よりもリリースする順番だ」ということです。
もしホワイトアルバムがデビューアルバムだったら、おそらくビートルズは全く受け入れられずに消えていたと思います。つまり重要なのは「作品の質」ではなく「作品の順番」だということです。これがビートルズの成功を分析して得られた一つ目の洞察ですね。
なので僕は二冊冊を目を出して全く売れないという事態に直面した後に、「自分の書きたいものを書く」ということを一旦保留して、「この人が出せば一定の部数が売れる」という信頼をまずは勝ち得る状態を作る、ということに戦略目標を大きくシフトしました。

――企業に属していたとしても、その考え方は勉強になりますね。初めから自分のやりたいことを提案しても、信用が積まれていないから、上司も仕事を任せられないでしょうし。

そうですね。「やりたいことを提案したけれども上司が受け入れてくれない」というのはよく聞く話ですけど、これも順番の問題です。「やりたいことをやる」前に、まず「あいつだったら結果を出すだろう」「あいつがいう企画ならうまくいくだろう」と思ってもらえる状態に持っていかないとなかなか自由には働けないですよね。職種が異なっていても、アーティストの戦略というのは大いに参考になると思います。

ということで、僕はこの戦略を実践して、「市場の信頼を一定程度獲得した」と判断された時点で、ギアを一段変えて「世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか」という本を出しました。つまり、この本は僕にとっての「リボルバー」なのです。

戦略意図の通りに、この本はもっぱらスキルや知識については書かれていないのですが、ビジネス書としては異例の25万部という部数を記録しましたから目論見はまんまと当たったということになります。

それ以前の本は、ほとんどの書籍のタイトルに「外資系コンサルの・・・」という枕詞がついていることからもわかるとおり、基本的にすべて「スキル系」の本です。

率直に言って、自分としては、それほど書きたいテーマというわけでもなかったんですが、「これを書けば確実に売れる」ということはわかっていたので、とにかくまずはそれらのテーマについて書いて、市場や出版関係者の間に信用を作ってから、書きたいものを書かせてもらおう、ということをやっったわけです。

これが、ビートルズから学んだ「人生の戦略=ライフ・マネジメント・ストラテジー」の一つ目=「人生は順番が大事」ということです。

人選が大事

ビートルズから学んだ「人生の戦略=ライフ・マネジメント・ストラテジー」の二つ目は「人生は人選が大事」というものです。これは、そのままジョン・レノンの有名な言葉を引用しましょう。

僕は人生で多くの間違いを犯してきた。しかし決定的なところで二つだけ、正しい選択をしたと思う。それはヨーコとポールだ。

ヨーコについての言及はリップサービスだと思いますが、確執と愛着のないまぜになった複雑な感情、まさにコンプレックスを抱いていたであろうポール・マッカートニーについてこう言及するのであれば、おそらくは本当にそう思っていたのでしょう。

ジョン・レノンという才能はおそらくはソロミュージシャンとしてもそれなりに開花していたと思いますが、ポール・マッカートニーという天才と一緒にいたことでより大きく花開いたと言えると思います。

面白いのは、ジョン・レノンは、ポールをメンバーに加えることについて、ものすごく悩んだと述懐しているんですよね。

こいつはルックスもいいし頭も切れる、何より音楽センスは抜群にいい。こいつをバンドに入れれば俺のバンドがパワーアップすることは確実だけど、もしかしたらバンドの主導権を奪われるかもしれない・・・・

最終的に、迷った挙句にジョンはポールをバンドに引き入れることにするわけですが、二つの巨大な才能が一つのバンドの中にあることで、バンドには常に一種のテンションが生まれることになり、これが最終的に8年という短期でバンドが崩壊してしまった原因でもあると思います。

ジョン・レノンという人は本当に鋭い人で、ポール・マッカートニーをバンドに入れることによって得られる「功」も「罪」も、彼は見通していたのですね。

ジョンとポールの関係をみていて改めて感じるのが、「誰といるか」「誰とやるか」が、その人の人生にとってとても重大なポイントになる、ということです。

ある人の才能や特性というのは、周囲にいる人によって、開発されたて大いに花開いたり、逆に封殺されて角を矯められてしまったりもします。

自分と同様水準の人と刺激しあい、切磋琢磨できるような人と一緒にいれば、自分も刺激を受け、才能に磨きをかけることができるでしょう。ジョンとポールの関係は、まさにこれだったと思います。

ビートルズのプロデューサーだったジョージ・マーチンはビートルズの思い出についてこういうことを言っています。

ビートルズとの録音セッションで思い出深いのが、とにかく「質問が多い」ということ。セッションが終わると「あそこはどういう和音なのか?」「どういうアレンジなのか?」「なぜああいう響きになるのか?」と質問攻めにあってなかなか帰してくれない。普通のバンドは終わったらすぐに帰りたがるんだけどね。

ジョージ・マーチンはクラシックの作曲のトレーニングを受けて、管弦楽法にも通じていた「生きる音楽図鑑」みたいな人でした。当時のビートルズのメンバーは20代の青春真っ盛りですから、彼女もいたでしょうし、演奏が終わってもう帰れるとなったらサッサと切り上げて帰りたい気持ちもあったでしょう。

でも彼らはそうしなかった。メンバーの一人がジョージ・マーチンに色々と質問して、ああでもない、こうでもないと議論を始めたら、やはりそれに刺激を受けて、自分も・・・と当然に思ったでしょう。

才能は放っておけば開花するものではありません。周囲から様々な刺激を与えて育んであげなければ開花するものも開花せずに終わってしまいます。

世の中には決して悪い人ではないのだけど、周囲にいる人につい流されてしまって、その人の持っている可能性が毀損されてしまっているという人がたくさんいますね。

吉川英治の「宮本武蔵」には、そのような人物の典型として本位田又八という、なんとも絶妙に残念なキャラクターが出てきます。

私たち個人はみな複雑な人間で様々な側面が同居しています。優しさと厳しさ、善良さと邪悪さ、賢さと愚かさ、ポジティブさとネガティブさ等々。自分の中に潜んでいるこう言った両面性のうち、どこが発現するかは周囲の人との関係に左右されるところが大きい。

どちらが発現するかは大きく環境によって左右されます。善良さと邪悪さの両面を持っている人でも、周りを邪悪な人間に固められれば善良さは芽吹かせることは難しいでしょう。

これは逆に言えば、私やあなたが、いま発現させている人格というのは、周囲の人との相互作用の中で引き出されている一つの側面でしかないということでもあるのです。

つくづく「人生を変えたければ付き合う人を変えろ」という格言は本当なのだなと思いますね。人は、その人の良き面を引き出してくれる友人・知人と一緒にいることが重要、つまり「人選が大事」ということになるわけです。

密度が大事

最後に、人生の、特に20代から30代の前半戦では「密度が大事」になる、という話をしたいと思います。次のリストを見てください。これはビートルズが発表した公式アルバムをリリース順に並べたものです。

1. Please Please Me – 1963年3月22日
2. With the Beatles – 1963年11月22日
3. A Hard Day's Night – 1964年7月10日
4. Beatles for Sale – 1964年12月4日
5. Help! – 1965年8月6日
6. Rubber Soul – 1965年12月3日
7. Revolver – 1966年8月5日
8. Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band – 1967年5月26日
9. Magical Mystery Tour – 1967年12月8日
10. The Beatles (White Album) – 1968年11月22日
11. Yellow Submarine – 1969年1月13日
12. Abbey Road – 1969年9月26日
13.
 Let It Be – 1970年5月8日

8年間に13枚・・・恐るべきペースです。ここで特にポイントになるのが、リボルバー以降の、いわゆる後期に至っても、リリースのテンポが落ちていない、ということです。

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