エフェクチュエーションについて

年明けからいきなりいろんなことがあって「おめでたい」などと言えない年初になってしまいましたね。皆様にはいかがお過ごしでしょうか?

年末年始は、執筆中の「クリティカル・ビジネス・パラダイム」に首っぴきで全く休めなかったのですが、缶詰で執筆したかいもあってなんとか九分九厘のところまでは力づくで持って行きました。

3月くらいには出版できると思いますが、断片的にはNOTEの記事でも出していきたいと思いますが、その一つとして、今日は「エフェクチュエーション」に関する箇所の抜粋を共有します。

決定稿では全くないドラフトなので、本になった時にどのように変わっているか、楽しんでもらえればと思います。

アファーマティブ・ビジネス・パラダイムからどう離脱するか?

クリティカル・ビジネスの概念説明についてはすでに以前の記事で考え方を紹介しましたので、この記事では割愛します。

こうやって見てみると結構書いていますね・・・ということで、この記事では「どうやってクリティカル・ビジネスを組織から生み出していくか?」という論点に付随して「エフェクチュエーションの理論」を紹介したいと思います。

アファーマティブ・ビジネス・パラダイムからどう離脱するか?

クリティカル・ビジネスを社会から生み出していくための組織にとっての最初のチャレンジが「アファーマティブ・ビジネス・パラダイムからの離脱」になります。

あらためて整理をしておけば、

アファーマティブ・ビジネス・パラダイム
投資家、顧客、取引先、従業員などのステークホルダーの既存の価値観や欲望を肯定的に受け入れ、彼らの利得を最大化させることを通じて自己の企業価値の最大化を目指すビジネス・パラダイム
 
クリティカル・ビジネス・パラダイム
投資家、顧客、取引先、従業員などのステークホルダーの価値観を批判的に考察し、これまでとは異なるオルタナティブを提案することを通じて社会に価値観のアップデートを起こすことを目指すビジネス・パラダイム

ということになります。

この点についてはすでに前の記事でも触れましたが、データと分析を用いて論理的に市場機会を見出し、合理的な計画を作成してビジネスを作り出すという、古典的な事業創造アプローチではクリティカル・ビジネスを生み出すことはできません。

クリティカル・ビジネスが定義からして顧客や市場のトレンドに対してカウンターとなる提案を行い、市場にかしづいておもねるのとは真逆に、むしろ市場を教育・啓蒙するという要素が含まれている以上、市場や顧客を起点に考えるアファーマティブ・ビジネスのパラダイムは原理的にクリティカル・ビジネスのパラダイムと対立します。

しかしでは、どのようにして、私たちは呪いのようにして私たちに絡みついているアファーマティブ・ビジネスのパラダイムから自分達を解くことができるのでしょうか?

アファーマティブ・ビジネスの方法論の体系である経営学には百年にわたる知的蓄積がありますが、クリティカル・ビジネスは勃興しつつある新しいパラダイムであり、依拠できるような体系的な方法論は未だ整備されていません。しかし、そのような状況の中でも、サラスバシーの提唱する「エフェクチュエーションの理論」は、クリティカル・ビジネスの実践に有用な洞察を与えてくれるのではないかと思います。

エフェクチュエーションとは

バージニア大学の経営学者、サラス・サラスバシー教授は、多くの成功した起業家を観察・分析することによって、彼らの思考・行動様式が、従来のビジネス・スクールで教えられていた伝統的なビジネス・プランニングの公式や定石とは著しく乖離していることに気づき、これを「エフェクチュエーションの理論」としてまとめ、提唱しています。

サラスバシーは、このエフェクチュエーションのコンセプトに対置して、従来のビジネススクールで教えられていた古典的な公式や定石をコーゼーションと名付け、両者を対となるようにして次のように整理しています。

エフェクチュエーションもコーゼーションも日本人にとっては手触りのない言葉でイメージがわきにくいかもしれませんが、あえて意訳すれば、

コーゼーション=計画的・因果論的アプローチ
データと論理を元に市場の大きさと構造を予測し、その予測を実現するために最適な計画を策定し、資源を投下して実現を目指すアプローチ

エフェクチュエーション=適応的・創発的アプローチ
手元にある資源をもとに、許容できる損失の範囲内でまずやれることをやった上で、状況の変化をポジティブに取り込んでいくことを目指すアプローチ

ということになります。

より具体的には、サラスバシー自身は、メタファーを用いて、コーゼーションとエフェクチュエーションの違いを次のように対比しています。

とてもイメージが膨らむ詩的な説明ですね。サラスバシーがここで巧みにメタファーを用いながら説明しているエフェクチュエーションの説明が、筆者がここまで述べてきたクリティカル・ビジネスのアクティヴィストに見られる思考・行動様式と非常に似通っていることに気づかれると思います。

既存のパラダイムとの一番の違いは「市場機会に関する考え方の違い」にあると思います。古典的な競争戦略、マーケティング理論の中では、市場機会は「発見され、利用される」ものだと考えられてきましたが、エフェクチュエーションの理論において、市場機会は、その事業に携わる人の人生観と価値観に基づいて「紡ぎ出される」のです。

サラスバシーの本に序文を寄せた経営学者のサンカラン・ベンカタラマンは、次のように序文を締め括っています。

このシンプルなアイデアは「発見される世界」についてではなく「創造される世界」に関する美しい理論を形づくっている。

素晴らしいですね。私たちがこれからやらなければならないことを実に端的に表していると思います。

市場調査を信じない

したがって当然のことながら、エフェクチュエーションに長けた百戦錬磨の起業家は、アファーマティブ・ビジネスの世界で重んじられる市場に関するデータを信用しません。著作から引きます。

最初にデータから浮上してきた発見は「熟達した起業家は市場調査を信用しない」ということだった。ここでいう「市場調査」とは、経営学の教科書的な意味であり、定量調査やフォーカスグループインタビュー、その他の潜在的需要を予測する体系的なアプローチを指している。つまり、成功した起業家たちは、体系的な市場調査の有効性をはっきりと否定しているのである。そして意識的にも、あるいは無意識的にも、意思決定における未来の予測に対して、明確な不信感を持っていたのである。

サラス・サラスバシー「エフェクチュエーション」

なぜ成功した起業家たちは未来予測に頼らないのでしょうか?

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