リソース・ベースド・ビューのコンセプトを人生に活かす
リソース・ベースド・ビューとは?
リソース・ベースド・ビュー(=以下RBV) は、企業の持続的な競争優位性が、その企業が持つ独自のリソースや能力に依存しているとする経営戦略の理論です。1990年代初頭に、ジェイ・バーニー(Jay Barney)などの経営学者によって発展されました。
この説明を読んで「おや?」と思われた方もおられるかもしれませんね。そう、この考え方は以前の記事で説明した「ポジショニング」の考え方と真っ向からぶつかる考え方なのです。
あらためて整理すれば、両者を対比すれば、次のようになります。
こうやって並べてみれば、なるほど両者が真っ向からぶつかるのがよくわかります。したがい、両派の経営学者は犬猿の仲と言っていい状態で、中でもポジショニング学派の開祖であるマイケル・ポーターは「何もそんなにムキになんなくても・・・」と言いたくなるくらいに激しくRBVを攻撃しています。
現象を説明する理論をできる限り少なくしたい、できれば一つにしたいということなのでしょうが、このあたりはいかにもアタマでっかちというか、学者なのだなあと思わせられます。
経営実務に携わっている私たちのような立場からすると「企業のポジショニング」も「企業の能力や資源」も「そんなの、どっちも大事に決まってるじゃん?」で終わりの話です。
ですから、ここでは両者のどちらがより優れた理論なのかという不毛な問いを立てることは止めて、リソース・ベースド・ビューの理論が、ライフ・マネジメント・ストラテジーにもたらす洞察について踏み込んで考えてみましょう。
RBVの考え方をライフ・マネジメント・ストラテジーに活かす
さて、あらためてRBVで用いられる概念を説明すれば、次のようになります。
RBVの主な概念
リソース:
リソースとは、企業が持つすべての資産、能力、プロセス、知識、情報などを指します。これらは物的リソース(設備や資金など)や人的リソース(従業員のスキルや知識など)、組織リソース(ブランド、文化、独自のプロセスなど)に分類されます。
持続的競争優位:
持続的競争優位を持つためには、リソースが以下の4つの条件を満たす必要があります:
ケイパビリティ(Capabilities):
ケイパビリティとは、リソースを組み合わせて有効に活用する企業の能力です。これには、組織のプロセスや従業員の協働、技術的なノウハウなどが含まれます。
以上の主張を踏まえ、RBVの考え方をライフ・マネジメント・ストラテジーに適用してみると、三つのポイントがあるように思います。
希少性
一つ目は「希少性」です。つまり、その人が持っている知識や能力が希少であるかどうか、が重要な要件になるということです。
これはRBVの指摘の中でも、なかなかにハッとさせられるポイントだと思います。というのも、多くの人は、その能力が希少かどうかなどという観点から、その人の競争優位を考えないからです。
これを裏返しにすれば、誰もが規定演技のように身につけようとしている能力や知識というのは、RBVの観点からすると競争優位の形成に寄与しないということです。
この指摘は、私たちの学習や成長に関して、大きな洞察を与えてくれます。というのも、もし競争優位の形成に寄与するのが、希少な知識や能力なのだとすれば、その時代においてホットになっている学位やスキルというのは、ある意味で「最も競争優位の形成に寄与しない知識や能力」になる可能性が高いからです。
典型例がMBAです。今から30年前の1990年代であれば、特に海外の大学のMBA学位の保有者は本当に珍しかったので、彼らが持っている知識やスキルは、まさに「希少な資源」となったわけですが、今日の日本ではMBAの学位保有者はすでに数万人の単位で存在している上に、さらに毎年、数千人のペースで生み出されているわけですから、学位そのものの希少性はこの先、非常に薄まっていくことになるでしょう。
経営学の知識が有用かどうかの判断はともかくとして(私自身は有用だという立場を取りますが、例えばイーロン・マスクはMBAを積極的に避けると明言しています)、RBVの考え方からすると、ここまで増えてしまうとMBAは競争優位に貢献しないということになります。
これを敷衍すれば、その時代において流行している知識やスキルというのは、RBVの観点からすると、実は最も獲得に時間資本を投下してならない知識やスキルだということになります。
「強みは何か?」を考えるより「私の特徴は何か?」を考える
希少性に関するRBVの指摘を踏まえると、私たちが自分の強みを考えるにあたって、新しい視点を提供してくれます。それはつまり、私たちは、「自分の強みは何か?」を考えるよりも「他の人にはない、私の特徴は何か?」を考え、その特徴をどうやったら強みに繋げられるかを考えた方がいい、ということです。
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