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わたしは解き放たれたいのです
「おひとりさま」なんて言葉が生まれるほど、ひとりでいることが受け入れられてきている現代。
わたし自身、とても生きやすくて助かるーと感じている。なのに、自分の中にまだ、ひとりでいるのはさみしいことだと囁いてくる自分がいる。
人と会話するとき、左手の薬指に指輪があるかどうかを無意識にチェックしている自分。
外出先で男女のペアを見ると、恋人同士かなぁと勝手に想像して羨ましく感じる自分。
結婚している友人たちをなんとなく避けてしまう自分。
あぁ嫌だ。あぁ苦しい。
そんなとき、思い出すセリフがある。
「この世の男と女の恐ろしい業から解き放ってくださいませ」
わたしが大好きなドラマ『大奥』で、堺雅人さんが演じる有功(ありこと)が放つこのセリフ。
上様(多部未華子さん)と心は通じ合っているのに、ふたりの間に子はできなかった。しかし、世継ぎが必要なことはお互いわかっている。上様は他の男に抱かれなければいけないし、有功はそれを止めることができない。愛する人が何人もの男に抱かれ、子を成していく。そんな中、久しぶりにふたりで会えたというのに、有功は上様を抱くことを拒否するのだった。
上様は最初、有功が自分を拒否する理由を、他の男で穢れた身体だからだと思ってしまうのだが、そんなことはない。
身を焼かれるような嫉妬の炎から逃れるために。
息もできないほどの悲しみから抜け出すために。
愛する人をただ、愛するために。
上様を抱く(子を成す)という役目から、私を解き放ってくださいと懇願したのだ。
恋愛、男女、そういう業から解き放たれて、自身の尊厳を誰にも踏み躙られることのない領域へ行きたかったのだなと……
めっっっちゃわかる。
わたしの感じていた苦しみの正体はこれだったのだと、とても感銘を受けたのを覚えている。恋愛しないといけないような、結婚することが正解として成り立っている世の中に嫌悪感があったのだ。
といっても、ドラマ放映当時のわたしは独り身ではなく結婚していたので、その苦しみは過去のものになっていた。左手の薬指に指輪があることで、わたしはその業から一瞬は解き放たれていたと言える。異性を求めること、異性に求められることから。
その後、離婚して時が経ち、付き合った人もいるが長続きしなかった。別れたときには周りから「次だ!次!」と言われた。
励ましの言葉としてよく使われるもので、今までに言われたことも言ったこともある。けれどそのときのわたしは、なぜ次を探さなければならないのだろうか、ひとりでいてはいけないのだろうかという気持ちになった。
たしかに、若い頃のわたしの中心には恋愛があり、好きな人と結婚して家族になって子どもが産まれて……それが人生のすべてとも思っていた。だから苦しかった。今、その苦しみがなくなったわけではないけれど、もう人生のすべてだとは思えなくなったようだ。
有功は、上様の身辺をお世話する御中臈(おちゅうろう)から大奥取締役に役職を変え、男女の業から解き放たれた。現代にそんなシステムはないし、あったとしても一般市民のわたしには関係がない。ならば、この業から解き放たれるにはどうしたらいいのだろうか。
自分を縛っているのは自分で、他の人はそんなこと考えていないのでは? とも思ったが、Xで「結婚するメリットを教えてほしい」という投稿を見たこときのこと。そのリプ欄の中で最も多くのいいねを集めていたリプは、「もう恋愛をしなくていいこと」だったものだから……
ほな、解き放たれたいと願っているのはわたしだけじゃないかぁ。
とわたしの中のミルクボーイが言ったのだった。
Xという狭いSNSの中のことであるが、少なくとも独りよがりの考えではないことが判明したことで、もっと深く考えていきたいと思った。
「あなたは恋愛がしたいんだよ」と言われたことがあるけれど、いいえ違います。
わたしは解き放たれたいのです。