イルカ探訪誌 1

私がイルカについて何かを書こうと思ったのは、冬と春の境目に線を引くように雨の降った日のことだった。

 それは稲妻が心臓を貫くような運命的な神の啓示などではなく、腹の底からじわりとこみ上げる使命感だった。

 最初に一つ留意しておいて欲しいのは、私はこれまでの長いとも短いとも言えない人生の中で、イルカと関わるようなことはほとんどなかったという点だ。

 もちろん、私の生活がイルカとは全くかけ離れた、縁もゆかりもないところで営まれたというわけでもない。

 水族館に行った際には、タイムスケジュールが合えば必ずイルカのショーは観るようにしているし、大学三年生の時、友人のD氏がお土産にイルカの風鈴を買ってきてくれたこともあった。

 もっと記憶を遡ると、私が幼稚園に通っていた時分には、「イルカは軽い」という回分が園内で一世を風靡したこともあった(注1)。

 小学生のとき、スイミング・スクールに通っていたクラスの女子が、人魚のようなものすごいスピードで、見事なドルフィン・キックを披露していたのを見て私は衝撃を受け、必死に練習したこともあった(注2)。

 また、村上春樹氏の名著「羊をめぐる冒険」(1982 講談社)並びに「ダンス・ダンス・ダンス」(1988 講談社)では、『いるかホテル』なるホテルが物語の重要な要石として登場していたことは、少なからず私にイルカを意識させることになったし、鳥山明氏の国民的人気マンガ「ドラゴンボール」(1984-1995 集英社)では、カメハウスへ向かう悟空に対し、イルカが流暢な日本語で道案内を買って出ていたように記憶している(注3)。

 もっと朧げな記憶を辿ると、岸本斉史氏の同じく国民的人気マンガ「NARUTO」(1999-現在 集英社)では『いるか先生』というキャラクターが出ていたように思うし、秋元治氏のこちらも同じく国民的人気マンガにして大作、「こちら葛飾区亀有公園前派出所」(1976-現在 集英社)には、『ドルフィン刑事』というセーラー服を着た刑事が登場していたことも記憶の彼方にある(注4)。

 しかしながら、思い返してみても、私とイルカの接点は以上に列挙した程度に留まるものであり、あとはテレビや本の中で時たま目にするくらいのものだった。

注1:この「イルカは軽い」という回分だが、「逆さにすると体重が軽くなる動物はなんでしょう?」というような、なぞなぞの形をとることもしばしばあった。

注2:結局できるようにはならなかった。

注3:もちろん私の記憶違いである可能性も十分にある。何せドラゴンボールを読んだのは小学生の時のことなのだ。

注4:確かドルフィン刑事はイルカを自由に使役するという特殊な能力を持っていたように思う。

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