イルカ探訪誌 4
腹をくくって、ウィキペディアの『イルカ』の項目について見ていく。まずは一行目。
イルカ(海豚、鯆)は、哺乳類偶蹄目クジラ類ハクジラ亜目に属する種の内、比較的小型の種の総称(なお、この区別は分類上においては明確なものではない)。
私は目を疑った。目薬『養潤水』を差し、眉間を指で念入りにほぐして、蒸したタオルを瞼の上に5分間置いた。
目を意識的にぐるぐると回し、正常に機能しているのを確認すると、次に自分の頭を疑った。
首周りをゆっくりとほぐし、3時間ほど仮眠をとった。目を覚ますと、熱いシャワーを浴びて冷水で顔を洗った。
リラックスするために、エンヤを聴きながらコーヒーを飲んだ。
仕上げに、暗算で1から10まで足し合わせた。
55。
そこから今度は10から1までを順に引いていった。
0。
オーケーだ。問題ない。
私は深呼吸をして、もう一度パソコンの画面に向き直った。
文面は変わっていない。
なんということだ。
足元が音を立てて崩れるのがわかった。
意識と体がバラバラになり、虚空へ放り出されて落ち行く自分の体を、真上から見下ろしていた。
なんということだ。
私は冷静になろうと努めた。
バラバラになった意識を何とか一つにまとめようとした。
それはとても時間のかかる作業だった。
額はじっとりと汗ばみ、口の中はカラカラだった。
なんということだ。
イルカがクジラだって?
一体何の冗談だ。
やはりウィキペディアを頼ったのは間違いであったか。
いや、間違いであってほしかった。
確かにインターネットでは鮮度の高い情報を得ることができるが、その正確さにおいて欠陥があることは周知の事実だ。
メディア・リテラシーなんてものを今更私が語るべくもない。
誤った情報に踊らされた者は、迷える子羊のように、やがて狼の贄となるだろう。
ここで判断を下すのは早計だ。
私は自分に言い聞かせた。