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マザレス番外編 烙印の報復 死体処理屋 没エピ 鳴海ケンイチ編④ スピンオフ
咥えタバコの男が鼻歌を歌いながら手馴れた動きでケンイチの亡骸を黒い死体袋に詰めている。
「悪いがその鼻歌をやめてくれないか」
ソンは苛立たしそうに顔をしかめながら言った。
「ああ、すまない、牧師さん。耳障りだったかな、下手くそな歌で悪かった」
「いや、そういうことじゃないんだが……」
「そうか不謹慎って事かな?」
「いや、もういい。兎に角急いでくれ、あとは完全に無いものにしてくれたらそれでいいんだ」
黒いニット棒を被り全身黒ずくめの男はしゃがんだ姿勢から立ち上がると不自然にあごを上げたポーズでソンを見た。そしてその上下斜視でやぶ睨みの顔をくしゃくしゃにしてでニヤリと笑った。
「ああ、なんだ、それは心配しなくても大丈夫だよ、今回もちゃんとわからないように消すから、死体は硫酸の樽でジューって溶かしちゃうんだ、最初はすっげえ臭えけど一週間で肉から骨まできれいに消えちゃうよ、硫酸っていったけど本当は塩酸も混ぜるんだ、そうしないと樽まで溶けちゃうからね、そこらへんのさじ加減が難しいけどよ。まあ俺は熟れてっから、言うなら特殊技術だな。こんな完璧なプロの仕事は俺しかできねえ。まかせといてくれよ、牧師さん、なんの証拠も残らないから」男は胸を張って自慢げにいった。
「ああ、わかった、よろしく頼む」ソンはたじろぎながらそう返答した。
「死亡診断書は後で送るから、その後に代金は振り込んでくれればいいよ、お得意さんだから今回は一割引きでいいってボスが言ってた。よかったな、牧師さん」
「そうか悪いな……」
「いや、悪くないよ、こっちも商売だ。でも手を怪我した職員さんは大丈夫だったかな。指つながりゃいいけどな。どうせこの悪ガキが生きてたっていずれは世の中の害になるだけだし。死んで当然だ。牧師さんはいい事したって事よ。でもこっちのかわいい顔した女の子はどんな悪さしたのかな」そういうと男は二つの死体袋を肩に担ぎ部屋を出て行った。こうしてケンイチとアユミの死体は闇組織の死体処理屋によって極秘裏に施設より運び出された。ソンは自分の犯した性的虐待が発覚する事を恐れケンイチを射殺の後にアユミを絞殺したのだった。
車は施設を出てしばらく走ると廃屋と化しているドライブインの駐車場に止まった。男は車から降りると小走りで駐車場の隅へと急ぐと立ち小便をはじめた。
───ふう、もう少しで漏らすとこだった。この時間はやっぱりまだ冷え込むな。
時刻は明け方四時半、男の吐く息は白い。用を足しながら見上げるとかろうじて『旭屋』と読める朽ち果てた看板がかかっている。辺りは人影はおろか猫の子一匹いそうにない寂しいばかりの風景である。
───あのガキたちも可愛そうに。重犯罪を犯したとはいえまだ子供だ。牧師さんも死者のためのお祈りくらいしてやればいいのに。アーメンのひとつも言わなかったな……。
車に戻って乗り込もうとしたとき、トランクから微かに物音が聞こえたような気がした。
───今、確かに音がしたよな……。
男は恐々とトランクを開けた。死体袋の中で身をよじる様な音と呻き声が漏れている。
───なんだ、このガキまだ生きてやがる!
男はあわててトランクを閉じるとポケットから携帯を取り出した。
───大変だ、ボス、男のガキがまだ生きてますよ。
───ええ確かに頭に弾ぶち込まれてましたけど……。小口径の護身用の銃だったからかな。
───トランクで死体バックがごそごそ動いてやがる、気持ち悪くて。
───牧師さんに返してきましょうか?
───はあ、それは無理ですか……。
───えっ! バラせって……、俺がですか!? とんでもない、殺しなんてできませんよ。
───困ったなあ……。
───え、どこの研究所ですか?
───そこに運べばいいんですね。
男は運転席に戻り車を急発進させると一目散にその場を後にした。