「大人になった、僕達」
「乾杯」
向かい合わせの席に座って、
ビールの入ったグラスを交わす、僕達。
初めて彼女の地元に来て、最初の夜ご飯。
「いきなり実家はしんどいから、少し離れたところがいい」と言うので
彼女の家から
常識的な範囲でギリギリ帰ってくれる帯広を選んだ。
そんな僕らの目の前には、中瓶と料理が。
一つはホッケの干物。
もう一つは、地鶏の炭火焼き。
どっちも、この店の名物だ。
「ねぇ、これ食べよ?」
そう言って、みり愛が指さしたのは
ホッケの干物。
『相変わらず、みり愛っていちいちセレクトが渋いよな』
「そっちこそ、隙あらばお肉ばっかり食べるし、ずっと子供じゃん」
『うるせー。酒飲んでんだから子供じゃないですー』
自覚はありつつも、みり愛に反抗して
地鶏の炭火焼きを頬張る。
口の中に肉汁が広がって
鼻には香ばしい炭火の匂いが抜ける。
柚子胡椒を付けると華やかになり、
胡椒自体も辛くないので食べやすい。
『うまっ』
『みり愛も食べなよ』
「じゃあ、交換しよ?」
ホッケの干物と入れ替える。
ホッケを口にすると、
凄く身がふわふわしている。
塩味もそこまで強くない。
のだが、如何せん僕が不器用だから
中々骨が取れない。
僕が意識的に焼き魚を避けて来た理由だ。
魚に悪戦苦闘していると
「ほら。取ってあげるから貸しな」
とみり愛が助け舟を出してくれた。
「こっち食べてな」
と地鶏の炭火焼きを戻してくれた。
せっかく頼んだので、
追加トッピングの山わさびを地鶏に盛ってみる。
わさび特有の辛味が少なく、爽やかになる。
テーブルにある自家製のタレをかけると
醤油ベースの濃厚な味へと変わる。
山わさびと合わせると、これはヤバい。
どんどんお酒が進む。
『うっま』
「ねぇ、私のぶん残しておいてよ」
『わかってるって』
「取れたよ」
そう言って、ホッケの入った小皿を出す。
「世話が焼けるなぁ…」
ボヤきながらもやってくれるみり愛。
『悪いとは思ってる』
「じゃあ」
「明日かっこいいとこ見せなかったら、怒るから」
明日締めるネクタイを、いつもより綺麗にしなきゃ、と思った。
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作品のモチーフ
青沼kokekokko(帯広市)
十勝新得地鶏と自家製干物が名物のお店。
帯広駅から程近く、ドリンクメニューも豊富。
お店に入ってすぐ脇に厨房があり、
香ばしい炭火の匂いと、
炎を上げて焼き上げる様子を見ることが出来る。
地鶏MIX焼きは、様々な部位が一皿にまとまっていて
キャベツ、もやしと組み合わせた時の
食感のコントラストがたまらない一品。