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12月31日23時59分59秒の、1秒後

『好きです。付き合ってください』


僕は、一生の全てを賭けた告白をした。



その回答は


「わかった。じゃあ、返事は来年」



僕の賭けは、見事に失敗した。



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『かんぱーいぃぃ!!!』


幼なじみとの忘年会は、

僕の失恋を慰める会に変わった。



キンキンに冷えた生ビールを、一気に飲み干す。


"ちょっと…"


"ただでさえお酒弱いんだから、倒れるのだけはやめてよ"




『うるさいぃ』


『山下には関係ないだろっ!』


298円のたこわさを頬張りながら、

ストレスを噛み砕くたこの足にぶつける。



"大ありだよ…幼なじみが失恋したのを慰めてあげてるんだから"



『まぁ…たしかにそれは…』


『ありがとう』



そうだよな…

こんな忙しい年末に、忘年会とは言え

やりきれない思いを発散する会に付き合ってもらってるんだ。



さっきまでの振る舞いに反省していると、





"でもさ、飛鳥さんは「返事は来年」って言ってるんでしょ?"



"まだ正式に断られた訳じゃないんだから、チャンスはあるんじゃないの?"



『いや、だってあの難攻不落の飛鳥さんだよ?』


『返事持ち越しって、絶対無理じゃん…』



"じゃあ何で、すぐに断らなかったんだろ?"



『どうせ、いつものドS発動でしょ…』



冷蔵庫から出されたばかりの

白い冷気が張り付いたジョッキと

少し泡が少なめに盛られたビールを眺め、



飛鳥さんが難攻不落と呼ばれた、

その所以を思い出していた。




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ウチの大学のダンスサークルで、

一番と言ったら誰か?



誰もが同じ名前を挙げる、


それが齋藤飛鳥、という先輩だった。



華奢な体から繰り広げられる、

ダイナミックかつ流麗で表現力豊かなダンス。



端麗な容姿、

小さな顔、

長い脚、

おしゃれなファッション、

ビビッドなメイク。



これだけ目立つスタイルなのに

あまり前には出たがらない性格、

真面目で努力家なところ、


結構な頻度で出るドS、

たまに見せる優しい部分、


誰よりも他人を観察していて

人の機微に気づくところ、


あまり見えない他人の長所に気づくところ。




こんな完璧な人が、モテないはずなどない。




先輩も同級生も後輩も、アタックしては

ことごとく砕け散っていく姿をこの目で見てきた。



でも、来年の春になったら、

飛鳥さんはいなくなってしまう。



だから、今しかない。



そうやって、一世一代の告白に挑んだのだけれど


結果はまさかの<結論持ち越し>。



この顛末は流石に今まで

聞いたことは無かったけど、



これほどまでに、

敗戦濃厚なことなどあるだろうか?




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『じゃあ、良いお年を!』


"良いお年を"



"ほんと、途中でコケたりしないでね"



『わかってるよぉ、やまぁ!』



そう言って、彼は上機嫌のまま、

自宅の方向に消えていった。




そういえば、

久しぶりにその名前で呼ばれたな。



そんな、幼い時の記憶を思い出しながら

私も、自宅へ向かった。




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普段なら全然見ないテレビも

カウントダウンの瞬間だけは、と


とりあえず惰性で眺めている。




5



4



3



2



1




新年を迎えた、その瞬間


メッセージを知らせるスマホのバイブ。




新年の挨拶か。



そう思って、メッセージの一覧を見る。




友達や家族の中に混じって、



<飛鳥さん>とのメッセージに




通知がついていた。





開いてみると、そこには






「今年からずっと幸せにしないと、許さないから」





僕はそのメッセージを見て

一瞬、固まってしまった。



でもすぐに



『え?僕はもうてっきりダメかと』


と返信した。




「せっかちだなぁ」



「返事は来年、って言ったでしょ?」




よっしゃあぁ!!




僕は咄嗟に喜びを、山下に送った。





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"え?!良かったじゃん!おめでとう!!"


歓喜のスタンプも上乗せして、

彼にメッセージを送る。




メッセージを送った後、

枕の横にスマホを放り投げ、


体を一回転させて、天井を見つめる。





"はぁ…"






"やっぱり、飛鳥さんには勝てなかったかぁ…"




年またぎになった
私の微かな確率の願いは叶うことなく、

深い夜の中へ消えていった。


寝室にあるエアコンの温風が、

私の顔を流れて枕に沈んだ水を
そっと、乾かしていた。