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お酒について#50
以前。サウナ内のおじさま同士は自分の資産がいかに多岐にわたり存在し、友人は医者や区議会議員であり、最近は物忘れの自覚があるなどと資金と趣味と病気の自慢合戦であった。オペラについてオペラに全く興味なさそうな相手に一方的に語っていたのを見聞きした時、たまたま上の段に座っていてそのやり取りに一人密かに笑っていたが、今思えば含蓄があった。が、それも一期一会、マウントの取り合い、その合戦の範疇にたまたまオペラが利用されただけで互いに利益がある講義とは言い難い。
一部のおじさまは無害そうな同年代の同性に出会った時、そうしないと自己を確認できない、画一的な悲しい性を持ち得ている。
今は黙浴、黙サウナ、黙水風呂、黙着替えになった。ジムのプールには最近「黙泳」と、プールの端から見てもよく見える巨大サイズのポスターがピクトグラムと共に掲示されている、私的には問題無い、一生それでも良い。
女性風呂サウナもメディアで知る限り、見えない人間関係、縦の糸、横の糸が存在していて「主(ぬし)」といわれる存在が、特に銭湯に敷設しているサウナにとぐろを巻いていて新参者は気苦労がある様である。しかし、その自然発生的封建制度的頂点「主」も「黙サウナ」時代で影が薄くなっているだろう、そう勝手に思っていた。
それは違った。「主」の概念が間違っていたのである。
アタクシ的には砂かけババアみたいなのが取り巻きを従えてサウナ内において、常に指定席をキープ、温度が熱すぎる時は手下にドアを開けさせ温度を下げ、機器にダメージを与える塩を勝手に持ち込み、初顔には容赦無く言葉の洗礼を浴びせる、それが私が勝手に思っていた「主」のイメージであった、要は海賊の長(おさ)である、それがサウナの主であり、利用者にはマイナスの存在でしかないと思っていた。
先ほど書いたプールサイドにはスチームサウナがある、水着着なので性別関係なく入れる、スチーム発生時はパワフルで、噴射口近くに足があると熱くて少し逃げる。しかしながらスチーム発生時と非発生時の間隔がちょいと長くて熱いときは熱い、ぬるい時はぬるい印象がある、それでも泳いだ方、プールで運動した方が腰を下ろして休憩するには十分広く、静寂性があってリラックスできるし、運動後の楽しみにしている利用者は多い。
冬は重宝する、そこで十分温まってから風呂に行くと途中失われるであろう体表面温度を逆算して補充できるからである、かといってプールを上がってガラス張りのスチームサウナを覗くと女性でぎっしりだと遠慮して入らない。できるだけ少人数の時に入室し、タイミングでは貸切の時もある。が、そんな事を繰り返していると、常にいる人がいる事に気づく、それが本当の「主(ぬし)」であると確信した。午前、正午、真昼、夕方、どの時間帯でも「フッ」と、空気の様に居る。
年の頃50代くらいか、紺色に白のふちどりがあるスタンダートなワンピースの水着が豊満な体を凝結している、けどその存在は決してアピールしていない、彼女その視線は他者を圧迫するわけでもなく、首を少し傾け、プロ棋士の様に床の一点を見据え微動だにしない。
スチームサウナは大体タイル貼りで、長時間座る様には設計されていない、私はたまたまスチーム発生時だったらラッキーという感覚で10分もいない、が。その主は違う、一旦座ったら10分以上微動だにしない、さらに彼女を静とするなら動とする女性もいる、年の頃60代だろうか、小柄で非常にスリムな体型で常に動いている、プールでも歩きながら上半身を動かし、スチームサウナでも独自技法の機械体操をしている。
そのツートップが私の前に揃った時、南新宿の真昼に星が落ちるのである。
以上。