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「自分でコードを書かない」ことを選べた理由。CTO 佐々木康伸に起きた変化

「足立区とか葛飾区とか、とにかく、“東京の東側の匂い”がする人とやりたい」

これは、CEO 前田裕二が「SHOWROOM」の開発に携わる1人目のエンジニアの条件を問われた際、答えた言葉。前田が下町出身であり泥臭い働き方を好むタイプだったからこそ、同じような価値観で働いてくれるエンジニアを求めたのです。

このエンジニアこそ、他でもないCTO 佐々木康伸です。サービス黎明期から現在まで、彼は「SHOWROOM」の開発の根幹を支え続けてきました。

佐々木は「CTOとしての職務内容は、事業のフェーズごとに変わり続けてきた」と語ります。そして、「自分でコードを書かないという決断をできるようになった」とも。その変化はなぜ生じたのでしょうか。長きにわたり「SHOWROOM」と並走してきた彼が、いま思うこととは?


ベンチャーの荒波で培われた「自分が最後の砦になる」意識

──「Entertainment Technology Conference 2019(エンタメテック・カンファレンス 2019)」での登壇、どうもお疲れさまでした(本インタビューはカンファレンスの翌々日に実施)。カンファレンス内では「短尺動画」「音声コンテンツ」「XR」という3つの新サービスについて発表されていましたね。あれらのサービスの仕様検討には、佐々木さんが携わっていたとか。

佐々木:そうですね。サービス仕様検討の初期段階から、僕が入っていました。3サービスとも、事業計画の企画書を僕が最初につくっています。

──どのような軸で、サービス仕様を決めていきましたか?

佐々木:現在の「SHOWROOM」というサービスの枠にとらわれず、出資・提携していただいている事業会社とのシナジーを考えたうえで、ゼロから事業を発案しようと考えました。

ウチの持っている要素やパートナー企業の持つ強みなどをふまえて「どうすれば、これらの要素を組み合わせて既存サービスと差別化できるか。勝てるプロダクトをつくれるか」を検討していった結果、短尺動画や音声、XRが出てきたという感じです。

──CTOでありながら、事業の企画段階から手がけていく方は珍しいですよね。

佐々木:昔から、事業の企画はずっとやっているんですよね。DeNA時代(※)、最初はMobageのアバターを扱う事業部にいたんですけど、当時からすでにサービス企画を自分で考えていました。

※…SHOWROOM株式会社は、2015年にDeNAから分社化。

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──佐々木さんは「エンジニアだけれど、基本、なんでもやる」というスタンスですが、なぜそのような働き方になったのですか?

佐々木:ベンチャー企業に身を置いたからだと思います。ベンチャー企業って、組織として成長過程だからこそ、足りない部分がいっぱいあるじゃないですか。

僕が入社した頃のDeNAって企業が大きくなっていく過程で、まだまだ組織として完成されていなかったんですよ。何かが常に不足していた。だから、いろんな課題に対して「自分が最終的には何とかしよう」という“最後の砦”意識を常に持っていました。

「基本、なんでもやる」スタンスになったのは、それが理由ですね。何事も、できないから敬遠するんじゃなくて、できないなりに抗うというか。そういうの、ベンチャー企業においては超大事じゃないですか。


サービス志向のメンバーたちだからこそ、任せられる

──各サービスは、どのような体制で開発をスタートしましたか?

佐々木:基本的に、プロトタイプをつくる段階では少人数から開発をスタートします。エンジニアとデザイナーを1名ずつアサインして「こういうサービスコンセプトを考えているんだけど」という情報を彼らに伝えました。

前田も交えて各メンバーでディスカッションしながら、コンセプトをさらに明確にして、ワークショップをして、方向性を詰めて形にしていきます。プロトタイプができて「これで行こう」と決まったら、チームにメンバーを追加していく流れでした。

──「SHOWROOM」の黎明期では、スモールチームで企画検討や開発を行い、全員が意見を出し合っていました。ですが、現在のチーム規模になってくると、開発スタイルも昔と変わってきたのでは?

佐々木:変わりましたね。いまのSHOWROOMは20名ほどのエンジニアがいるんですけど、人数がこれくらい多くなると、みんなで集まって意見を出し合う形は厳しいです。みんなサービス志向が強いエンジニアなので、サービスに対して確固たる考えがあるんですよ。その意見をすり合わせるのは、なかなか難しい。

だから今後は、開発のスピード感を保つために、トライアルで役割ごとにチームを分けようかなと構想しています。要するに、デザイナーや各種エンジニア、プロダクトマネージャーなどから構成されるチームを、複数つくるようなイメージです。

チーム内で認識をすり合わせてもらって、1つのプロダクトを改修できる、1つの機能をつくれる体制にするのがいいかなと思っていて。会社としては「○○の数字を伸ばす」という大きなOKRを決めるので、結果を出すための施策はチームで決めてもらう形ですね。

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──そうすると、開発のスピード感が維持できそうですね。

佐々木:それに伴って、アーキテクチャも継続的に改善していく予定です。すでに、モノリシックなつくりになっていたアプリケーションを機能単位に切り出して、マイクロサービス的にしていて。大人数の開発でもコンフリクトが起きにくいように改善し続けています。

それに、既存のコードベースのなかにはレガシーな設計・実装になっている部分もあるので、言語としてGoを採用した新しいアーキテクチャに適宜変えていっていますね。

──さきほど「メンバーのサービス志向が強い」という話がありましたが、どのような瞬間にそれを感じますか?

佐々木:Slack上でのメンバーの会話を見ていると、みんながめちゃくちゃサービスを見てくれていることが伝わるんですよね。すごくパフォーマーのことに詳しかったり、日常的に配信を観ていたりする。

マイクロマネジメントがいらないんですよ。「サービスを見てほしい」「配信をチェックしてほしい」とマネージャーが言わなくても、みんなが自発的にやってくれているので。

──そのマインドを持つメンバーが集まっているのは、なぜでしょうか?

佐々木:サービスの独自性があるからだと思いますよ。「SHOWROOM」っぽいサービスって、世の中にほとんどないじゃないですか。だからウチに入社する人は「SHOWROOMという企業で働きたい」「『SHOWROOM』の開発に携わりたい」という明確な意思を持っている感じがしますね。


「コードを書かないCTO」になった理由

──事業の立ち上げから現在までに、「CTOとして求められる役割が変わってきた」と感じたタイミングはありましたか?

佐々木:最初の転換期だと思ったのは、2〜3年前から僕が新規事業の取り組みを始めたタイミングです。その頃に、僕が手を出さなくても「SHOWROOM」のサービス開発が進むようになっていたんですよ。メンバーに任せられるようになった。その状況下で、自分は何をすべきかを考えたときに、「新規事業を生み出すべきかな」と思ったんですよね。

組織のなかに、事業開発ができる人間ってそんなにいないです。前田もその時間はなかなか取れないですし、彼にはむしろ「外交が天才的に上手い」という強みを生かして活躍してほしい。となると、自分が新規事業を担当するのが自然かなって。その転換期があったからこそ、新しいサービスをつくれる体制になりましたね。

──第二の転換期は何でしょうか?

佐々木:コードを書かなくなったことですかね。2〜3年前に新規事業を始めたときは自分でバリバリ書いていたんですけど、2018年からはだんだん新規事業のコーディングもメンバーに任せるようになって。2019年はついに、僕がコードを書く量はゼロになりました。

──なぜ、コードを書くことをメンバーに託すように?

佐々木:そもそも、なぜコードを書いていたかというと、「自分が書きたかったから」なんですよ。僕は「エンジニアは自分で手を動かして、事業やプロダクトをつくってなんぼだ」と思っている人間なんです。それがエンジニアの価値だから、自分の武器を捨てたくないというプライドがあったというか。

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でも、徐々に自分のなかで、より事業や会社にコミットしようという気持ちが生まれてきたんでしょうね。僕がコードをバリバリ書くことは、自分としては最適な行動なんだけれど、会社から見たら最適な行動じゃないだろうな、と。

それに、事業の立ち上げやビジネス戦略の策定をやっていくなかで、それが自信になったというか。「エンジニアじゃなくてもイケるな」っていう気持ちが生まれたんですよ。

──だからこそ、メンバーに任せられるようになったと。

佐々木:コードを書くことじゃなく、事業を成長させることが、いまは自分の役割だと認識しています。事業への理解があって、かつプロダクトも技術もわかるのが僕の強みというか。もはや自分の役割が、CTOなのか何なのかよくわからなくなってきました(笑)。本当になんでもやっています。


前田と共通する「勝てる部分に注力し、一点突破する」思想

──事業戦略を考えること以外に、エンジニア組織をつくるのもCTOの重要な役割ですよね。

佐々木:そうですね。だから最近では、採用に関する業務も増えてきました。これまで僕は、そんなに組織づくりや採用にがっつり携わってこなかったので、大変さは正直あります。

──どうやって、採用に関するスキルを磨いていますか?

佐々木:インプットとアウトプットをくり返すしかないですね。本を読んで、人から話を聞いて、実行してみる。ダメだったら「なんでダメなんだっけ」って考えて、改善策を打っていく。そのくり返しです。失敗を恐れないことが重要ですね。失敗を恐れて、変なプライドを持って完璧にやろうとすると、絶対に一歩を踏み出せなくなるので。

──例えば、どのような本を読んでインプットしていますか?

佐々木:あまり「採用に携わるから採用の本を読む」みたいな行動は取らないんですよ。もっと、いろいろな領域から、要素を抽象化して学んでいる感じですね。

例えば、採用っていうプロセスを細分化していくと、「採用の母数をどう集めるか?」という要素があるじゃないですか。その要素ってほぼマーケティングですよね。となると、マーケティングのPRの手法を学ぶことで、採用に応用できるとわかる。

そこまでブレークダウンできたら、最近のマーケティング手法やカスタマージャーニーの作り方なんかを学んで、どう抽象化して採用に当てはめるかを考えていくイメージです。

それから、「面接において相手の本音をどう引き出すか」という要素になってくると、社会心理学っぽい話になってくるから(ロバート・B・チャルディーニ著の)『影響力の武器』からエッセンスを学べないかと考えたりする。

“採用”と一言でいっても、細かく見ていくと複数の要素に分かれているので、1つひとつの要素に合わせて、武器になる知識をキャッチアップしていく感じです。

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──いまの話がすごく顕著ですが、佐々木さんは「勝てる戦略をどう組み立てるか」を考えるのが非常に好きですよね。

佐々木:あー、確かに。ランチェスター戦略(※)とかすごく好きなんですよ。僕らベンチャーってそもそも弱い存在なので「大きい企業に採用で勝つにはどうすればいい?」って戦略を考えていく必要があります。「どう差別化するか」は、どんな施策に取り組むときにも、めちゃくちゃ考えていますね。

※…フレデリック・ランチェスターが自身の著作で発表した、企業間の営業・販売競争に勝ち残るための理論と実務の体系。

前田もそういうタイプですよ。勝てる部分に注力して、一点突破する感じ。「SHOWROOM」のUIって、そういう価値観だからこそ生まれたものです。

すでに他の動画配信サービスがやっていたような、動画があってコメントが流れていくようなUIは嫌でした。同じことをやるのは面白くないなって。差別化要素を考えて、自分たちが勝てる領域を探すという思考は僕も前田も似ていますね。

負けず嫌いというか、既存の会社やサービスと同じことをしたくないんですよ。誰かの敷いたレールを進むんじゃなくて、自分たちでレールをつくっていく意識があります。彼も僕も、根っこはハングリー精神や反骨心の塊なので(笑)。


みんなの力を合わせれば、市場にビッグバンを起こせる

──「SHOWROOM」というサービスがこれほど大きくなったことに対して、佐々木さんはどのような思いを抱いていますか?

佐々木:どのような思いかあ……。難しいな。「SHOWROOM」があまりにも自分の生活の一部になり過ぎているんですよね。人生の中でも、こんなに長く特定のサービスに携わったことってないんですよ。2013年から「SHOWROOM」をやっているので、もう6年も経っている。「SHOWROOM」のない生活って想像できないです。

──それほど身近な存在になっているんですね。

佐々木:空気みたいなものだから、もはや意識しないんですよ。「『SHOWROOM』とは?」と質問されても、「あなたにとって歯磨きとは?」と聞かれているような感覚になります(笑)。「SHOWROOM」を中心に自分の人生も動いているし、事業が上手くいっているときは生活も上手くいく。僕の人生は「SHOWROOM」と連動しています。

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──いまは何をモチベーションにして、日々の仕事に取り組んでいますか?

佐々木:「SHOWROOM」を運営していくなかで、成長の転換期になったのは視聴者と配信者が一緒に盛り上がれるイベントを導入したことなんですよ。あのとき、「新しい市場を生み出した」って感じがすごくあって。あの体験を、もっとつくり出したいです。

僕、エンタメの本質って、感情の機微だと思っているんですよ。感動して泣くとか、何かに怒るとか、めちゃくちゃ嬉しいとか。それが起きるのがエンタメの素晴らしさだと考えていて。「SHOWROOM」というサービスって、感情の機微を提供できるのが魅力なんです。

──“ライブ”だからこそ、起こせる現象ですね。

佐々木:いまの「SHOWROOM」は、数多くのパフォーマーや社員のみんな、エンタメのスペシャリストであるパートナー企業が協力してくれています。全員の力を合わせれば、市場に対して絶対にビッグバンを起こせると思っているんですよね。

「SHOWROOM」にイベントを導入したときに感じたような、あの感動をもう一度体験したい。それが、いまの自分のモチベーションですね。

SHOWROOMでは第二創業期を担うメンバーを積極的に採用中です

プロフィール

佐々木康伸(SHOWROOM株式会社 CTO)
ITベンダー企業を経て2008年に株式会社モンスター・ラボに入社。自社の音楽配信サービスやソーシャルアプリを開発する。2010年DeNAに入社後、Mobageの開発・運用や、音楽アプリGroovyの開発に携わる。2013年に代表の前田裕二とSHOWROOMのサービス立ち上げ。2015年にDeNAからSHOWROOM株式会社として独立後、CTO、バックオフィス、新規事業、HR全般を担当。現在はプロダクト開発および、XR・メディア等、新規事業開発の責任者を務める。