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予備自衛官とお金の話

・予備自衛官等が貰えるお金は「手当」

 予備自衛官、即応予備自衛官、そして予備自衛官補(自衛隊ではこの三種類の予備自衛官を『予備自衛官等』と呼ぶ)は非常勤の自衛官です。非常勤とはいえ、一応国家公務員として勤務している扱いなので、お金は貰えます。予備自衛官としてもらえるお金は常備の自衛官のような俸給(給料のこと)ではなく「手当」と呼ばれます。常勤の仕事ではなく、あくまで時々行う非常勤のお仕事なので、手当と呼ぶのです。

 手当は大きく分けて二種類あります。一つ目が基本手当、二つ目が招集手当です。基本手当というのは、何もしなくても貰えるお金のことです。予備自衛官は一応、いざという時に招集するための存在なので登録しているだけでも手当が出ます。そしてもう一つが招集手当です。これは訓練に出頭するともらえる手当になります。その他に、交通費や食費などもあります。交通費は駐屯地などの訓練をする場所から自宅までの距離に応じて支払われます。また、食費は駐屯地の食堂で現物が供与されます(稀に缶メシや袋メシなどのいわゆるレーションが支給されることがある)。また、即応予備自衛官にはそれ以外にも3年間の任期を務めた隊員に対し支給される勤続報奨金や、即自を雇用している企業に対する雇用企業給付金がありますが、これは本人ではなく雇用している企業に支払われるものです。

・どれくらい貰えるの?

 どれくらいのお金が貰えるか、気になるところですね。では予備自衛官から見てみましょう。基本手当に当たる予備自衛官手当は、月に4,000円です。これが三か月ごとにまとめて指定の口座に振り込まれます。一年間で48,000円になる計算ですね。続いて訓練に出頭するともらえる訓練招集手当ですが、これは一日につき8,100円です。通常予備自衛官は年間を通じて5日間なので、40,500円ということになります。ここで注意してもらいたいのは、これらのお金は全額貰えるわけではなく、源泉徴収をされた上で支給されます。一応自衛隊から源泉徴収票を貰えれば、確定申告をして源泉徴収された税金が戻ってくることもあります。

 これが即応予備自衛官になると手当の額も一気に上がります。即自の基本手当である即応予備自衛官手当は月に16,000円です。訓練招集手当は予備自と違って階級によって差があるのですが、一番下の一士の階級が10,400円、一番上の二尉の階級が14,200円となるようです。また一任期(三年)勤め上げたら貰える勤続報奨金は一任期につき120,000円、即自を雇用している企業に支払われる雇用企業給付金は年間510,000円となります。

 予備自衛官補には招集義務はないので、手当は招集手当のみで、教育訓練招集が一日につき7,900円となります。

 なお、招集には訓練招集や教育訓練招集などの平時招集と、訓練以外での招集、つまり防衛招集や災害招集などの有事招集があります。有事招集の場合、即自も予備自も招集に応じて出頭した時点で自衛官、つまり常備の自衛官と同じ身分になるので、貰えるのは手当ではなく俸給(国家公務員の給料のこと)になります。これは階級や年次によって異なるのでここでははっきりしたことはわかりません。ちなみに有事招集に応じると、当該自衛官を雇用している企業には一日につき34,000円の雇用企業協力確保給付金が出るそうです。

 なお、基本手当は訓練招集に応じない、もしくは年間の訓練時間が規定に達しないと(予備自で5日、即自で30日)止められることがあります。ですが翌年規定日数の訓練をこなせばまた支給が再開されます。

予備自衛官等の手当とその金額

 

・予備自衛官は儲かるのか

 予備自衛官になってもらえる手当の合計は、4,000円×12か月+8,100円×5日で88,500円となります。実際にはこれらは源泉徴収されており、また訓練場所からの距離によって交通費も異なります。それでもまあ年間9万円近くは貰えることになります。即応予備自衛官になると更に多く、だいたい年間で50万円から60万円くらい貰えます。

 予備自衛官の場合、年間合計金額を一日で割ると、一日の訓練につき17,700円という計算になります。アルバイトと考えればわりといい方なのかもしれません。逆に言えば一日でそれ以上稼げる仕事を持っている人は、そちらの仕事で稼いだ方がお得でしょう。居住地によっては泊りになる可能性もあるので、身体的な負担や時間的な制約を考えて検討した方がいいと思います。まあ中には医師や歯科医で予備自衛官をやっている人もいるので、お金だけがすべてではないのかもしれません。とはいえ、そういう奇特な人ばかり当てにしえいても制度は維持できません。一般の予備自衛官にとっては、より良いインセンティブがあるに越したことはないでしょう。

 即応予備自衛官は更に多くもらえます。だいたい30日働いで50~60万円貰えるアルバイトはなかなかないものです。ただ、訓練は常備自衛官並みに辛く、演習場などに行って拘束時間も長いのでそれに見合うと思えるかどうかはその人次第でしょう。一応、二尉から一曹までは52歳未満、二曹から一士までは50歳未満という年齢制限はありますが、50歳に近い高齢者は中々訓練について行くのは難しいのではないでしょうか。

 即自経験者の話では、お金目当てでやっている人も少なくないということです。確かにアルバイトとしては魅力的な金額ですが、それで本業に支障が出てしまえば本末転倒です。さすがに年間50~60万円程度では生活できないでしょう。生活を切り詰めればできないこともないでしょうが、それだったら常備の自衛官として働いた方が断然お得です。何だったら即自から常備自に行く道を開いてみてはどうでしょう。今は予備自衛官補から即自に行く時代です。米軍では予備役や州兵からそのまま常勤の兵士になる人もいます。とはいえ、自衛隊は非任期制隊員(定年まで勤める自衛官)の数が多いので難しいでしょう。

 ・おわりに

 結論から言いますと、アルバイトとしては比較的割の良い仕事だと思います。いざという時に招集されるというリスクもありますが、招集されれば常備自衛官と同じ扱いになるので、俸給は手当よりも多いはずです

 ただ、現行の仕事とどう折り合いをつけるかが問題となります。本人が良くても会社がダメ、というケースも少なくないでしょう。すでに別の記事でも話したように、予備自も即自も志願者が少なく定員に対して充足率は決して高くありません。最近は副業を薦める会社も多いので、即自のある生活、みたいな感じで一度訓練を含めたライフスタイルの例を提示してみてはいかがでしょうか。比較的時間の融通が利く自営業者やフリーランスを対象にした隊員募集なども視野に入れるべきです。

 年間5日の予備自訓練程度であれば、会社での休みの工面も何とかなるでしょうが、年間30日の即自では厳しいかもしれません。即自の訓練のために本業がおろそかになっては本末転倒です。安定した仕事と訓練時間の確保、両立は非常に難しいところなので、自衛隊側も志願する隊員側も、よく考えてもらいたいものです。

※ なお、「基本手当」「招集手当」「有事招集」「平時招集」という用語については、筆者オリジナルの用語であり自衛隊が採用している正式な言葉でないことをここで断っておきます。

 

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