予備自衛官って何やってるの?
予備自衛官とは
予備自衛官とは読んで字のごとく、「予備」の自衛官です。
ごきげんよう、わたしです。本日は予備自衛官について紹介したいと思います。自衛隊についてまったく知らない人からしたら、予備自衛官とは何だろう、と思うかもしれません。まあ無理もないことです。予備自衛官なんて自衛隊の中でもクソマイナーで予算も少ないので注目されることの滅多にありません。スポーツのチームで言えば三軍とか四軍みたいな扱いなので知らないで当然でしょう。
もし会社など身近なところに予備自衛官をやってるよ、という人がいたら色々聞いてみたらいいと思います。ただ、そういう人が身近にいない人のために今回は色々筆者の偏見も交えつつ紹介したいと思います。
なお、詳しい制度の概要や法律的なことは最寄りの地方協力本部や自衛隊の広報担当者など、専門の人に聞いてください。ここではあくまで自分の知っている範囲のことを紹介します。
予備自衛官は何のためにいるの?
予備自衛官と一言で言っても、現在では予備自衛官のほかに、即応予備自衛官(即応)、予備自衛官補(予備自補)という制度もあります。これらを総称して自衛隊では「予備自衛官等」と呼ぶこともあります。この予備自衛官が何をするのかと言うと、常備の自衛官(普通の自衛官のこと、予備自衛官に対して常勤なのでこう呼ぶ)が足りない時に予備要員として駆り出される非常勤の自衛官のことです。ただ、いくら常備の自衛官が足りないからと言って、演習場の草刈をするからちょっと来て、と言う理由で呼ぶことはできません。予備自衛官を働かせるためには自衛隊法という法律に基づいた招集命令を発しなければならないのです。招集命令の種類については防衛招集とか国民保護招集、あとは災害招集などあるのですが詳しいことを話すと長くなるのでまた別の機会にしましょう。とにかく、予備自衛官が呼ばれるということは常備だけでは対応できないということなので、かなり切迫した状況とも言えるでしょう。代表的なのが、平成22年(2011)3月11日に発生した東日本大震災の時の災害派遣でしょうか。この時、戦後初めて予備自衛官と即応予備自衛官が招集されました(災害招集)。もちろんそんな切迫した状況というのはいつもあるわけではないので、普通の予備自衛官たちにとって最も身近な招集と言えば訓練招集です。
どんな訓練をするの?
予備自衛官の訓練って何をするの、とよく聞かれるのですが大した訓練はしていません。自衛隊の駐屯地でやる兵隊ごっこみたいなものです。こういうことを言うとふざけているのかと怒られるかもしれませんが、訓練日数のある程度ある即応予備自衛官(年間30日)ならともかく、普通の予備自衛官の普通の訓練は年間5日間しかないので色々やるわけにもいかないのです。
それでもまあ、簡単に訓練の流れを説明すると、その年の初めての訓練に出頭すると健康診断を行います。これが重要なんです。いざ招集しても健康じゃなければ意味がないでしょう。たまに血圧が高すぎるなどという理由で家に帰される人がいます。
基本教練と言われる敬礼や行進など、よく自衛官がやる動きの練習をすることもあります。たまに予備自衛官が式典などに参加することがあるのでその時は徹底的にやります。中隊長(三等陸佐=ちょっとエライ人)の精神教育などもありますね。たまに面白い話をする人もいますが大抵はスヤスヤタイムです。特殊武器防護といって、毒ガスなどの化学兵器に対応する防護服や防護マスクのつけ方を教えてもらうこともあります。予備自衛官が使うことはまずありません。救急法では衛生隊員が止血方法やAEDの使い方を教えてくれることもあります。これはちょっと役立ちますかね。
予備自衛官訓練の中で嫌がられるのが体力検定と警護訓練でしょうか。まず体力検定ですが、反復横跳びとか垂直飛びなどを測定します。成績優秀者は表彰されたりもします。警護訓練は、予備自衛官が駐屯地で警衛勤務(簡単に言えば門番や歩哨)をするための訓練です。警護施設を作るために土嚢を積んだりするので地味に面倒臭い作業があります。
ここまではそれほど珍しくないのですが、他所では経験できない訓練といえば射撃訓練でしょうね。自衛隊の射撃場で小銃(ライフル銃)を使って実弾を発射します。これも成績優秀者は表彰されることがあります。これが楽しみで訓練に来ているという人もたまにいます。
ちょっと前までは格闘訓練とかもやっていたのですが、予備自衛官がケガをしたら色々と面倒だし、警護訓練は必ずやるように、みたいな通達が陸幕(陸上幕僚監部の略。高級将校の墓場)から通達があったみたいで今では毎年警護施設を構築し、警護訓練っぽいものをやっています。
大した訓練はしてない?
ここまで読んで、自衛隊の癖に大した訓練してねえな、と思ったあなた。その感覚は正しい。大した訓練をしていないというよよりできないと言った方が正しいでしょう。というのも、まず予算が少ない。自衛隊もお役所ですので、訓練をするのにも予算が必要です。その予算が毎年不足しています。予備自衛官には訓練事に戦闘服(迷彩服)が貸与されるのですが、その戦闘服のプレス代(アイロンがけ代)を予備自衛官自身から徴収することがありました。わざわざ訓練に来てお金を貰うどころか逆に払わなければいけないシステムには憤りを飛び越えて悲しみすらあります。最近はあまりそういうことがないのは、予備自衛官自体が減ってきているからでしょうか。
次に、訓練日数自体が少ないということもあります。年間5日ですからね。5日で何ができるのかという話です。仮にやったとしても来年には忘れてしまいます。一応自衛隊法では20日以内なら訓練ができると書いてあるのですが、逆に20日も何をしろというのか。
あと、予備自衛官には高齢者が多いというのもあります。自衛隊には任期制と言って数年ごとに契約を繰り返し、若いうちに退職する隊員(戦前の兵卒)と幹部・曹(戦前なら将校・下士官)という定年まで勤める非任期制の隊員がいます。自衛官は他の公務員よりも定年が早いとはいえ、定年まで勤めれば50代は過ぎます。ちなみに予備自衛官の定年は満62歳です。若いうちに自衛官としてバリバリ働けば働くほど年を取ってから体にガタが来ます。定年自衛官の中でも元気な人はいますが、体調を崩している人はかなり多い。そうでなくても年を取れば怪我や病気はするものです。体がボロボロな隊員と比較的若い隊員が一緒にいて、まともな訓練ができるわけがないのです。
あと、予備自衛官(ここでは陸上自衛隊の予備自衛官に限る)の多くは最寄りの駐屯地に行って訓練を受けるのですが、訓練を担当するのは普通の常備部隊です。教育隊とかでもない普通の部隊が予備自衛官に訓練をさせます。当然訓練の質も安定しないし、負担も小さくありません。
それから昔はいなかったのですが、最近では二佐とか三佐(旧軍の少佐や中佐。わりとエライ※)といった、比較的階級の高い予備自衛官も来るようになりました。常備の自衛官と違って、予備自衛官は階級が上がれば上がるほど役に立たなくなるのですが、彼ら高級幹部も例外ではございません。射撃も三佐以上は拳銃射撃となり、一般の予備自衛官とは別枠でやらされます。その際の人員も確保しなければならないので余計に人手がかかります。拳銃なんて自決くらいにしか使いどころはないのですがこれは余談。ただでさえ持て余している階級の高い予備自衛官ですが、警護施設の構築で作業員として使うわけにもいかず(というかお爺ちゃんだからそもそも使えない)ボケッと突っ立ってる(担当中隊曰く、安全係)かお喋りするくらいしかやることがないのではっきり言って邪魔ですね。最近は佐官教育といって二佐、三佐に対応した訓練もやっていますが、何をやっているのかは不明です。機会があれば聞いてみてください。
どうやって予備自衛官になるの?
さて、そんな予備自衛官はどうやってなるのかというと、二通りのなり方があります。一つは常備自衛官になってから最低一年以上勤め、そして退職することです。そうすると地方協力本部(広報や隊員募集などを行う部署)から電話がかかってきて「予備自衛官やりませんか」と言われます。それで「はい」と言ったら辞令書や予備自衛官手帳などが送られてきて予備自衛官になるのです。階級は、常備自衛官時代の階級を引き継ぎます。
もう一つは、予備自衛官補という制度を利用してなる方法です。詳しくは広報担当の人に聞いて欲しいのですが、予備自衛官補が毎年募集されているのでそれに応募して、試験に合格すると予備自衛官補になります。それで所定の訓練を終了すると予備自衛官になれるというわけです。
予備自衛官補には「一般」と「技能」という区分があり、一般は年齢さえクリアすれば誰でも受験することができます。技能は、自衛隊が指定するいくつかの技能を持っている人を対象にした募集で、例えば医者とか看護師が多いですね。建設用の重機が扱えるとか、あとは英語などの語学採用もあったと思います。詳しくは自衛隊のホームページや実際に地方協力本部等に問い合わせてください。
この予備自衛官補というのは、予備自衛官になりたいという人があまりにも少ないので苦肉の策として行われたという側面があります。たまに大学生や求職者がお小遣い稼ぎやインターン代わりに予備自衛官補になることもあります。実際に、予備自衛官補の訓練中、または訓練終了後に予備ではなく常備の方の自衛官になった人は少なくありません。
予備自は悪口?
筆者が常備自衛官だった頃、訓練隊の助教(助教官の略。新隊員に直接色々と教える役)から、「予備自みたいになるなよ」と言われたのをよく覚えています。
部隊の隊員からも「予備自みたいと言われるのが嫌やった」などという言葉も聞いたことがあります。
正直、常備自衛官からは予備自衛官は嫌われていましたね。昔の予備自衛官は着ている戦闘服も古くてヨレヨレなのでまず見た目が汚い。高齢者が多いので若者みたいなキビキビした動きはできない。やる気もない。
こんなんだから、常備自衛官からは嫌われていたと思います。
とはいえ、当時の予備自衛官をフォローするとしたら、やる気がなかったのはお互い様だと思います。ボロボロの戦闘服を着せて予算も少なく、みじめな思いをさせて、それでやる気を出せという方がおかしいんです。だいたい、普段は民間で働いて税金を納めていて、その予備自が納めた税金で生活しているくせに文句を言う常備自もおかしいんですけど。
制度の問題点
予備自衛官の制度の問題点は何でしょう。正直、問題しかないと言えるのですが、一応考えてみましょう。
第一は訓練時間の不足でしょうね。これはいかんともし難い。一応語学や医療関係の技能公募で採用された予備自衛官補出身の予備自衛官には、専門の訓練があるみたいなんですけど、正直どうなんでしょう。
かなり前のことですが、医療関係の技能公募で予備自衛官になった人が自衛隊の衛生部隊の装備を見て「こんな古い機材でよくやれるな」と言ったことがありました。現在、民間で使われている機材と自衛隊の装備で「ズレ」がある場合があります。特に医療の世界は日進月歩。普段は設備の充実した総合病院で働いている人がいきなり野戦病院で仕事ができるかと言われたら難しいでしょう。ただ英語ができるというだけで通訳をしていた人も、米軍の兵士に軍事に関する専門的な質問をされても全然わからなかったと言っていました。
自衛隊の訓練には大きく分けて二つあって、それは「教育」と「演習」です。教育は、そのままの意味で技術や知識を教えることです。一方演習は、その教えられた技術や知識を使って実際に行ってみることですね。エライ人が演習を見て訓練の出来具合を判定することを検閲と言いますが、これは憲法21条2項にある検閲とは関係ありません。
教育と言っても自衛隊は予備自衛官が新しいことを学んだりスキルアップさせることにはまったく関心が無いようで、せいぜい年次に応じて階級を上げるくらいしかしません。ちなみに階級が上がっても予備自衛官手当や訓練手当が上がることはありません。訓練中にちょっと偉そうにできるくらいです。即応予備自衛官の場合は、少し訓練手当が上乗せされるようですが。
例えば予備自衛官が看護学校に通って看護師資格を取れば、自衛隊にとって物凄く有用な人材になりますが、当の予備自衛官がそれを申告しなければ有事の際もその資格を生かすことはなく、警衛勤務とかをさせることでしょう。会社や現場でも、資格を持っているということを知られると色々と仕事をさせられるからあえて隠しているという人はいますが、予備自衛官でもそういうことはありえます。
予備自衛官が自ら学んで色々な資格を取れば自衛隊にとってもメリットがあるものですが、自衛隊は予備自衛官に対してそんなに期待はしていません。せいぜいゴミ捨て場を漁って、使えそうなものがあればラッキーくらいの感覚でしか予備自衛官を見ていないのです。
例え資格があったとしても、先述したとおり大した訓練はしていないので宝の持ち腐れになってしまう可能性は高いですね。
あとは、予備自衛官の訓練が常備の隊員の負担になっていることも問題です。先述した通り、ほとんどの予備自衛官の訓練は、普通の部隊が担当しています。年間5日しか訓練しない連中にはこの程度で良いと思っているのかもしれませんが、常備と予備の双方を不幸にするような制度は何等かの形で見直して欲しいものです。
予備自衛官の今後
かつて、第二次大戦のような大規模な総力戦が想定されていた時代の各国の軍隊では、予備兵力は常備兵力と同等かそれ以上の規模がありました。
現在、予備兵力は減少傾向にあります。これは、冷戦時代のような大規模な戦争が起こる確率がほとんどなくなったからでしょう。アメリカでも軍のOBなどが作った民間軍事会社が台頭して、後方勤務をする予備兵が減ったと言われています。ですが、軍隊では未だにマンパワーがモノを言います。イラクでは、警備や治安維持のために多数の兵士が必要とされました。マンパワーが必要なのは別に戦争だけに限りません。
自衛隊と言えば災害派遣と言っても過言ではないでしょう。東日本大震災を皮切りに、すでに何度か災害で即応予備自衛官が招集されたことがあります。昔の自衛隊を詳しく知っているわけではありませんが、今の自衛隊は明らかに人が少ないと思います。新隊員のなり手が少なく、特に任期制隊員の充足率が低いようですが、食堂や草刈などかつて隊員がやっていたことも民間の人にやってもらっている所もあります。もちろん隊員を効率的に使うことは重要だし、大切な税金を無駄に使うことは許されないのですが、部隊内の人員に余裕がないので、このまま首都直下型地震など国家レベルの大規模災害が起こると隊員不足でパンクしてしまうのではと心配してしまいます。阪神淡路大震災でも東日本大震災でも、最終的には人の手がモノを言いました。人型ロボットでも開発されれば話は別ですが、少なくとも今はまだ、人の力が必要です。
現代の軍隊は高度にシステム化されており、年間5日しか訓練していないヘロヘロのお年寄りには出る幕はないのかもしれませんが、やはり最後は人の力がモノを言うと筆者は思うのです。国にとって最初の壁であり最後の砦でもある自衛隊は、最後まであきらめてはいけないのです。
そのためにはやはり制度を整備する必要があるでしょう。今のようなみそっかすな制度ではなく、訓練や運用を研究する専門の部隊を立ち上げ、予備自衛官・即応予備自衛官を戦略的に利用する体制を整えなければなりません。民間で勤務している予備自衛官には、まだまだやれることがあるはずです。とりあえず使えそうなのを確保しておく、みたいな場当たり的な対応ではなく普段からどう使うか、どのような協力ができるか、どんな人材を育て、確保しておく必要があるのか。それを組織的に行わなければならないと思います。
終わりに
予備自衛官を長いことやると表彰されることがあります。その際、「民間と自衛隊との懸け橋」と言われることがあります。民間人ではあるけれども自衛官である。即応性が重視される現代社会で予備自衛官は使い勝手も悪い制度かもしれません。しかし、コロナ禍のことも含めて、不確実な世界の中で必要な人の力を確保しておくことは重要ではないでしょうか。
最後に、予備自衛官としての訓練ですが、キツイと言うよりダルいです。とにかくダルい。訓練で駐屯地に行くといつも帰りたいと思ってます。目的もなくダラダラとやるだけの兵隊ごっこなのがいけないと思うのですが、もしかすると自衛隊自体嫌いなのかもしれません。
※ちなみにこの上の一佐や将は大佐や中将クラスなので、自衛隊でもエリート中のエリート。さすがにこのクラスはどっかの会社に役員として天下りするので予備自衛官にはならない。聞くところによると一佐の予備自衛官もいるらしいのだが、そもそも連隊長=基地司令クラスと同格の予備自衛官が来て何をするのか
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