shownet.conf_ 2023 講演と資料のまとめ
さる2023年9月26日、27日の二日間にわたって「shownet.conf_」が開催されました。このnoteでは、このshownet.conf_で実施された各セッションの講演資料をまとめました。ぜひ皆様の今後のネットワーク構築や技術選定などのヒントにお役立てください。
ShowNetとは、毎年6月に幕張メッセで開催されるICT技術の展示会「Interop Tokyo」において様々な企業からご提供いただいた最新鋭のネットワーク機器・サービスを利用して、近未来のネットワークを構築・運用する世界最大のライブデモンストレーションネットワークのことです。
shownet.conf_は、2023年6月のInterop Tokyo 2023の会場内に構築された大規模ネットワーク「ShowNet」について、結果を踏まえた詳細な内容を皆さまと共有することを目的としたカンファレンスイベントです。
ShowNetでは、近未来のネットワークで解決すべき課題を設定し、ネットワークを設計しています。背景、設計、運用結果、今後の展望などについて、各担当のNOCチームメンバが深く解説しました。
さらには、ShowNetが構築されるまでの過程と、構築・運用に関わるShowNet独自の工夫やテクニック、ShowNetの構成の歴史などについても紹介します。Interop Tokyoの会場だけではお伝えしきれなかった沢山の情報をお伝えしました。
挑戦をつづけるShowNetと今年のテーマ
-Refine the Technologies-
このShowNet 2023の全体コンセプトと、ShowNetの全体像について解説しました。
今やネットワークとデジタル技術は、私たちの生活に欠かせない存在となっています。よりスマートな未来を目指すためには、今ある技術をどのように改善していけるのか。
ShowNetでは、皆様が開発・提供する最新の製品・技術を活用し、前回のテーマ「Over the Premise」で得た知見をさらに磨き上げ、より高度で効率的なネットワーク技術の実現に向けて、新たなチャレンジを行いました。
経験によって進化するShowNetファシリティ
ShowNet全体で必要なラックや電源等を含めたファシリティの設計や構築は、年々変化しています。電力供給等を始めとしたファシリティのみに関わらず、センシングデバイスによるShowNetブースの環境データを活かす試みや、ラックを跨ぐ配線を集中管理するためにMDFの構築もしています。本セッションでは去年と今年の違いに触れつつ、ShowNetファシリティの取り組みについてご紹介しました。
ShowNet接続で作る光伝送網
ShowNet伝送網はファイバによる物理接続とEthernet/IP装置の接続の間を取り持ち、限られたラック間ファイバの効率化を図っています。光伝送技術は年々進化し、1波長の大容量化は勿論のこと、伝送方法や光の調整、管理方法など大きく変わってきています。今年のShowNetでもこれらを余すことなく組み込んだうえでライブの伝送網を見せることが出来ました。本セッションでは、昨今の光伝送技術の話を交えたうえで、今年の伝送網のコンセプトと取り組みについて解説しました。
ShowNetを効率良く試験するために
ShowNetはInterop Tokyoのデモンストレーションネットワークだけでなく、出展社や来場者向けのインターネットサービスとしても利用されます。テスターチームでは、安定したサービス提供を目指し、様々な手法を用いてShowNetのバックボーンパフォーマンスやセキュリティファンクションを試験しています。今年のShowNetでは、昨年までの取り組みを発展させ、新たにプロトコルエミュレーションを活用したバックボーン試験やソフトウェアフレームワークとの融合による試験自動化にもチャレンジしています。本セッションでは、ShowNet 2023で実施した試験を紹介すると共に、各試験におけるポイントについて解説しました。
多様なデモンストレーションを支える!
進化を続けるShowNetのExternal
ShowNetでは、インターネットをはじめとした対外接続部を'External'と呼んでいます。ShowNetのExternalは、対外接続回線、トランジット、IX接続、そしてクラウドインターコネクトと、それらを収容する装置群のコントリビューションにより構成され、Interop Tokyoにおける会場のインターネットアクセスや、さまざまなデモンストレーション通信を支えています。
本セッションでは、世界初となるOpen APNマルチベンダ相互接続や、複数のトランジット/IX接続による堅牢な対外接続、対外ASとのPeeringにおける工夫などを中心に、今年のExternalの取り組みについてご紹介しました。
ShowNetを守るセキュリティ
-広帯域化するネットワークを守る新たな挑戦-
年々高まるサイバー攻撃の脅威からShowNetを守るために、毎年様々なセキュリティ対策を行なっています。特に今年は、広帯域化するネットワークでもセキュリティを確保することをテーマに設計、運用を行いました。ShowNet全体を守るセキュリティ、セキュアなオペレーションを実現するためのセキュリティ、そしてInterop Tokyoの出展社を守るために、出展社ブースへのセキュリティサービスの提供を行いました。本セッションでは、各ポイントで実施したセキュリティ対策の詳細や、最新のセキュリティ機器群で検出した脅威アラートの分析結果をご紹介しました。
マルチバンドで作るShowNet Wi-Fi
Interop Tokyoでは例年、「触れるShowNet」として来場者の皆様にShowNet Free Wi-Fiサービスを提供しています。Wi-Fiの最新の規格・製品・ソリューションを用いたデモンストレーションを行うとともに、それらを用いて幕張メッセの広大な空間や過酷な電波環境でより安定したWi-Fiサービスを提供すべく、設計・構築・運用のそれぞれのフェーズでShowNetならではの工夫を取り入れています。今年はShowNetにおける'Wi-Fi 6E 元年'でした。Wi-Fi 6から続く技術革新の真価がいよいよ試されようとしており、運用を支える技術もまた時代に合わせた進化を求められています。本セッションでは、ShowNet Wi-Fiにおける今年の取り組みと、Wi-Fiの設計・構築・運用のプラクティスをご紹介しました。
パフォーマンス計測と詳細分析を組合わせた監視基盤の実現
ShowNetで構築されるネットワークサービスの監視運用を担っているのが、モニタリングチームになります。ShowNetは、2週間という短期間でネットワークシステムを段階的に構築していきます。監視項目も幅広く監視することが求められており、ログ監視・Flow監視・死活監視・リソース監視といったあらゆる側面の監視を統合的に監視しています。これらを段階的に、監視項目の優先度をつけながら2週間の期間中に構築を行っています。本セッションでは、ShowNet 2023の監視システムのコンセプトと構築過程、そして監視運用で可視化した結果をご紹介しました。
ローカル5Gによるサービス提供
ローカル5Gは、移動体通信事業者が展開するキャリア5Gに対して、一般企業や組織団体が自己の土地等で敷設する5Gネットワークです。キャリア5Gと異なり、割り当てられた電波・帯域を占有できるため、安定した通信環境を構築できるのが特徴です。2020年に制度化され導入が始まっており、様々な分野での応用が期待されています。
昨年に引き続きShowNetではローカル5Gの実験を行いました。昨年のShowNetでは、シールドテントを用いて外部に電波が漏れない環境下で実験を行いました。2023年は、ローカル5Gに割り当てられているSub6 周波数 (4600MHz - 4900MHz) について3つの実験試験局免許を取得し、実際の電波を利用し幕張メッセの4-6ホールを覆うローカル5G環境を構築しました。
異なる3つの5Gコアと合計5つの基地局を用いてローカル5Gサービスを展開し、映像中継・IoTセンシング・ネットワークスライスなど多様な実験を行い、ローカル5Gの多様なユースケースを示しました。
本セッションでは、ShowNetで実施したローカル5Gのネットワーク構成の概要と得られた構築・運用における知見を報告しました。
ShowNetのネットワークを解説
- 最新鋭の技術で作るマルチテナントバックボーン -
ShowNetでは来場者や出展社に対してサービスを提供すると同時に、マルチベンダ環境でのネットワーク機器の相互接続検証も行なっています。
2023年のShowNetでも、最新鋭の技術を盛り込みながら多数のユーザ・大量のトラフィックに耐えるマルチテナントバックボーンを構築し、サービスを提供していました。
本セッションではこれまでのShowNet Backboneの変遷を振り返りながら、複数の100/400Gbpsトランジット回線を活用した堅牢・高速な対外接続、SRv6によるL3VPNベースのバックボーン、EVPN/VXLANによるアクセス網など、今年のShowNetのネットワーク技術に関するみどころを解説しました。
TTDB と Rails の10年間の振り返りとこれから
ShowNet で20年間利用されている「 トラブルチケットデータベース ( TTDB ) 」と呼ばれる構築/運用支援システムは、10年以上前から Ruby on Rails を利用して開発・運用しています。
ShowNet の構築・運用は、670名以上のエンジニアによって2週間という短い期間で行われます。この短期間に1,000以上の機器・サービスの相互接続性検証や、約200の出展社にネットワーク接続サービスを提供します。短期決戦で大規模なネットワークを構築・運用するために TTDB を利用してタスク管理や機材管理などを行っています。
本セッションでは、この10年間の TTDB でやってきたことの振り返りとして、メンテナンスできていなかったレガシーな Rails アプリのリアーキテクトの取り組みや10年間 Rails アプリケーションを開発し続けてきた方法についてご紹介しました。
クラウドネイティブな次世代サービス基盤を支える光データセンターネットワークへの挑戦
ShowNetでは、仮想アプライアンスやコンテナを動かすための基盤を構築し、その基板上で来場者や出展社に対してサービスを提供するために、DNSやDHCPといったサービスや、セキュリティ/モニタリングの様々な仮想アプライアンスを動かしています。今年の ShowNetでは、仮想アプライアンスは仮想化基盤で動作させ、その他のサービスについてはコンテナ化してサービスを提供していました。本セッションでは、これらのサービスが稼働するDCおよびサービスセグメントの構成、クラウドとの連携、コンテナ基盤のチャレンジなどについて解説しました。
ShowNetバックボーンと融合した映像制作環境
ShowNetでは、2022年より映像や音声をIPで伝送を行う「Media Over IP」に取り組んでいます。
本年は、ShowNetバックボーンを活用し、様々な環境下での映像伝送を実施することで、リモートプロダクション環境を実現しています。
具体的には、マスタ拠点・スタジオ拠点・中継拠点の三拠点間での映像伝送を行い、それぞれの拠点間も、広域イーサネットを想定したIPSec VPN環境下でのSMPTE ST2110や、CCUレスでスタジオカメラから直接IPでマスタ拠点まで映像を伝送するといった状況を想定して構成しています。
また、非圧縮映像の映像伝送のみではなく、低遅延でST2110の映像や音声を手軽にモニタリングや配信に利用するWebRTCの活用など、これまでの映像制作から一歩進んだ形を取りました。
本セッションでは、このようなIP伝送を活用した映像制作ネットワークを構築する際に活用した技術やサービス、そして利用した結果得られた設計・運用・構築の勘所についてご紹介しました。
次世代エンジニアが躍動!ShowNetを支えるボランティア集団 STM
ShowNetでは一般公募やShowNet参加企業などから集まったボランティアメンバーであるSTM(ShowNet Team Member)がネットワークの構築や会場への展開、そして運用を支えています。
ShowNetにSTMとして参加することで、産学や業種の垣根を越えて、ネットワークに関わる様々な分野のエンジニアと知り合い、互いの技術や知識を交換する機会が得られます。こうしたエンジニアとの交流や、コントリビューションされた最新の機器やサービスで構成されるShowNetの構築を通じて、技術的知識や経験を深めることができます。
本セッションでは、STM(ShowNet Team Member)のプログラムについてご紹介しました。
クロージングセッション
クロージングでは、Interop Tokyo 2024 開催に向けて、開催概要などの説明とあわせて、ここまでのセッションを参考にしていただき、来年開催に向けてもコントリビューターやSTMとして幅広く参加していただきたいと呼び掛けられました。(※クロージングセッションには配布資料はありません)
来年のInterop Tokyoは2024年6月12日(水)~6月14日(金)開催です。また幕張メッセでお会いしましょう!
(了)